『美しい罠』が9月いっぱいで終了。ビデオの月~金タイマー設定がそのままになっているので、なんとなく流れ込むように後番組『紅(べに)の紋章』を録画視聴していますが、三ヶ月の放送クールの折り返し点も近いと言うのにどうにも盛り上がりを欠いています。
お話として不振が続く大きな原因は、見たところ大きく二つ。
昼ドラには“ヒロインの本命ではない金持ち男”が必ず出て来ます。ヒロインは心から愛する相手が他にいながらも、家族の生活や体面維持などのやむを得ない事情で金持ち男と結婚したり身を任せたりする。多くは年がうんと上の老人であったり、容姿がわかりやすく見劣っていたり、性格が歪んでいたりなど、視聴者が「あんな男と一緒にならなければならないなんてヒロインかわいそうだな。早く本命の恋人と結ばれればいいのにな」と思いやすいようなキャラに描かれている。
今回、ヒロイン酒井美紀に岡惚れして結婚した旧男爵家の社長兼名門女子校理事長役は小木茂光。彼がどうにも中途半端なのです。演技力はまったく問題ないのですが、地顔が“困惑顔”“思案顔”で悪辣感が薄い上、本命ポジションのはずの青年医師役・山口馬木也と並んでも長身でスーツの似合うすらりとした体躯、若干額が後退気味ながらも頭髪もじゅうぶんふさふさとして若々しいし、彼と結婚したことによるヒロイン気の毒感がまったく醸し出されない。
しかも、脚本は何を考えたのか、ご丁寧にも彼に“心臓疾患でいつ頓死するかわからない”という不治の病属性まで付けた。ヒロインが信念と博愛に生きる女性なため、父が倒れた生徒が家出したと言っては家をあけて奔走するので、本来ならヒロインの恋路を邪魔する憎まれ役のはずの夫はしょっちゅう胸を押さえてうずくまったり苦悶の表情を浮かべたりで、視聴者としては彼のほうがかわいそうでしょうがありません。
ドラマをしらけさせているもうひとつの原因は、“性愛”“エロ”がこの世に存在しないかのような究極のカマトトにヒロインが造形されてしまっていること。彼女と青年医師はいまのところ互いを異母兄妹と信じさせられていて恋心はともに封印していますが、夫だけはそれが事実でないことを知っているので、彼らが何かで協力したり一緒に出かけたりするたびに不安にかられる。その根底には“心臓病のために結婚以来夜の生活がない=男として妻を自分のものにできている自信がない”ことが重く横たわっているのですが、夜寝床でひとり悶々とする夫、結婚後も下宿人のように離れに寝起きするヒロイン、といった隙間的細部にちらつくだけで、ヒロインは一貫して「信頼し合うことで夫婦の絆は深まっていくんですヨネ?」などと“オマエ正気か!”と叫びたくなるような寝言をほざき続けている。
しかも、人里離れた修道院で育てられたお姫様とでもいう設定ならともかく、第一部ではヒロインは身体の悪い父と妹の学費のため遊郭に身売りして女郎となり客をとっていたことになっている(これも実際客と半裸で床入りするなどの描写は無し)。綺麗につけ汚いにつけ男と女はセックスあってこそだということがいちばん身にしみていなければならない過去を持っているのに、性で妻と結びつけないがゆえの夫の煩悶を想像してもみない、もしくはみないかのように描かれている。
ドラマのヒロインが客観的に見て不愉快な女であったり困ったチャンであったりすること自体は、特に昼ドラにおいては珍しくはないし、必ずしも作品上の致命傷になるものでもありません。しかし“こういう生まれ育ちで、こんな個性を持った人物なら、こういう状況におかれたらこんな発言や行動をとるだろう”というキャラ上の一貫性、リアリティがまったく感じられないというのはどうしたもんでしょう。ほとんど等身大パネル人形が動いたりしゃべったりしているように見える時すらあります。
ドラマもドラマの登場人物も、平たく言えば商品です。作り手側が惚れこみ、いとしんで魂入れて作っていない商品に、どうして客=視聴者が魅力を感じ惚れられるでしょうか。
血肉のかよわないヒロイン、無能でカッコ悪いデクノボウみたいなヒーロー、そして同情を一身に集める憎まれ役。
舵折れ碇も失った船のようにあてどなく漂流するこのドラマ、いったいどこへ向かうのでしょう。