そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「壁と卵」の話

2009-02-25 23:42:37 | Society
先週の話になりますが、村上春樹がエルサレム賞授賞式で行ったスピーチがいろんなところで話題になっています。
自分が普段回覧させてもらっている著名ブログでも、池田信夫氏(これ)や内田樹氏(これこれ)が採り上げています。
(ちなみに現時点「壁と卵」でググると池田氏の記事が一番目、内田氏の記事が二番目にヒットする。)
「君は日本人の誇りだ」と言う池田氏のように称賛する声が多い一方、「これではイスラエルに対する批判になっていない」という厳しい見方もあるようです。

自分の場合、文学でも映画でも、その「作品」に込められた主張だとかメッセージだとかを「解釈」することにあまり興味がなく、その「作品」の表象、即ち「表現」としての力や面白さに関心があるので、このスピーチについても、その政治的な含意を探ることよりも、「壁と卵」というメタファーの巧みさに惹かれます。
この「壁と卵」という表現の選択は本当に秀逸だと思う。
「壁と卵」といえば村上春樹、村上春樹といえば「壁と卵」、というように、きっと数十年語り継がれるくらいのインパンクとを世間に与えたのではないでしょうか。
それくらい「記憶にこびりつく」表現だと思う。
(それに比べると、ガザ侵攻の直後というコンテクストや、スピーチに込められた政治的含意などは、時を経るにつれ捨象され、忘れられたり捻じ曲げられたりするに違いない。
だからこそ自分は「解釈」することにあまり関心を持てないのです。)

先日読んだ「アイデアのちから」のチェックリストに沿ってチェックすれば、このスピーチは以下の点で優れていると言えるのではないかと思います。

まず何より「意外性がある」。
「壁」と「卵」という組み合わせが意外だし、そもそも文学賞の受賞スピーチでそんな単語が出てくることに意外性がある。

そして「具体的である」。
全体的には抽象的でわかりにくい部分もありますが、「卵が壁にぶつかる」というイメージは万人が容易に頭に浮かべることができる具体性を持っている。

さらに「物語性がある」。
物語を語っているわけではありませんが、卵の立場に立つ、というのは「挑戦」の筋書きにつながるイメージを喚起する。

やはりこの人、表現者としては凄いなぁと素直に思う。

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