そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『私はいったい、何と闘っているのか』 つぶやきシロー

2017-02-11 22:09:55 | Books
私はいったい、何と闘っているのか
つぶやきシロー
小学館


芸人が書いた小説としては、これまで読んできた劇団ひとり太田光又吉直樹らのものと比べても、個人的には一番面白いんじゃないかと思う。

ごく平凡な小市民の煩悩や間の悪さを可笑しみをもって描いていくあたり、芸人としての著者の芸風そのものだが、あくまで優しさで包み込んだテイストになっているのがよい。
特に、主人公の家族との意外な関係性が解き明かされる中盤の展開にはよい意味で意表を突かれるし、それが終盤に向けて一層の暖かみを作品に与える効果が巧みに生み出されている。

個々の表現にも質の高さが感じられるところも多い。
掘り出しもの。
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『橋を渡る』 吉田修一

2017-02-10 23:45:36 | Books
橋を渡る
吉田 修一
文藝春秋


1章〜3章までは、都議会野次問題とかマララさんとか雨傘革命とか2014年の実際に起きた出来事を絡めながら、(3章の最後を除き)特に大きな事件も起こらない3種類の日常の物語を淡々と描いてゆく。
特に大きなことは起こらないのに、惹かれて読まされてしまう筆力の高さはここでも抜群。
そして、それでいながら、どこか不穏さを抱かせる、違和感の醸し出し方が実に巧い。
その不穏さは、何かの伏線であることは、容易に感じ取ることができる。

伏線は第4章で回収されるのだが、その回収の仕方がとにかくぶっ飛んでいる。
ネタバレになるのでこれ以上書けないが、あまりのぶっ飛び方に呆然となってしまった。

吉田修一は、どこに行こうとしているのだろうか?
前作『愛に乱暴』は昼メロみたいな作風だったが、この小説はなんと表現すればよいのだろう?
リュック・ベッソンのB級映画みたいな、というか。

実験的な小説なのかもしれないが、とにかくチープなのだ。
そのチープさは意図したものなのか、それが限界だったのか。
なんとなく個人的には後者であるとしか感じられず、どっちかというと失望してしまった。
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