そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『週刊文春記者が見た『SMAP解散』の瞬間』 鈴木竜太

2016-12-31 09:55:45 | Books
週刊文春記者が見た『SMAP解散』の瞬間 (文春ムック)
鈴木 竜太
文藝春秋


Kindle版にて読了。

2016年、日本の芸能界における最大の事件、SMAP解散。
その発端となったメリー喜多川女史へのインタビューを中心に、週刊文春記者が事に纏わる人間関係やエピソードをまとめた。
文春の記事を読んでいる人には既知の内容なのかもしれんが、自分のような門外漢には事態の一面に触れられて、興味深かった。

まず感じたのが、ジャニーズ事務所という集団には、創業者であるジャニー喜多川、メリー喜多川の意を深く汲んだ昭和的価値観が生き続けていること。
そして、SMAP解散問題は、大塚家具やらセブン&アイやら出光やらと同種の"創業者の後継""創業家の影響力"の問題に根ざしているということだ。
SMAPのファンには、昭和の価値観にどこか支配されている40代以上の年齢層も多い。
だからこそ、この問題が惹起する複雑な感情の渦が、大きなインパクトをもって社会に受け止められた面もあるのではないか。

アイドルとは、日本語に直訳すれば偶像だ。
ファンが「こうあってほしい」と願う姿であってこその偶像。
ずっと仲良く、チームワーク良く、明るく楽しくかっこよくあるはずの存在。
その偶像としての姿と、解散するという事実の相反が、ファンに認知的不協和を生み出し、ジャニーが悪い、メリーが悪い、工藤静香が悪いという「悪者探し」が始まる。
ところが実際には、そんな悪の権化は存在しないのだ。
それぞれが、それぞれの価値観で、それぞれの行動原理に従って行動したまでだ。
ジャニーズのタレントが、メリーさんを擁護する発言をするのも正直な気持ちからだろう。
だが、認知的不協和のレンズを通してみると、それは事務所による支配、統制であるように見える。
そんな構図なのだなと思った。
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"The End of Poverty" Jeffrey Sachs

2016-12-26 22:59:45 | Books
The End of Poverty: How We Can Make it Happen in Our Lifetime
Jeffrey Sachs
Penguin


久々に英語の原書が読みたくなり、Kindle版にて読了。
8月の初めから通勤電車の中で一日15分ずつくらいちょっとずつ読み進めて、読了まで4ヶ月。

著者のジェフリー・サックス氏は、米国籍の開発経済学者。
国際的な貧困対策が専門分野で、ボリビア、ポーランド、ロシアの経済危機にあたっては各国政府の経済顧問も務めた人物。
この本は2005年に書かれたものなので10年以上経っているわけだけど、著者が思い描いたようには貧困は無くなっていないのが現実か。

著者の主張の要点になるような部分を以下引用。

Clinical economics is needed to replace the past twenty years of development practice, known widely as the structural adjustment era. This era, ushered in by the conservative turn in the United States under President Ronald Reagan and in the United Kingdom under Prime Minister Margaret Thatcher, was based on a simplistic, even simpleminded, view of the challenge of poverty. The rich countries told the poor countries: “Poverty is your own fault. Be like us (or what we imagine ourselves to be—free market oriented, entrepreneurial, fiscally responsible) and you, too, can enjoy the riches of private-sector-led economic development.”

レーガン=サッチャー的な市場と自己責任をベースにした考え方に、著者は批判的。
それでは貧困の解消にはつながらない、と。

During the past decade I witnessed close at hand how relatively well-governed countries in Africa, such as Ghana, Malawi, Mali, and Senegal, failed to prosper, whereas societies in Asia perceived to have extensive corruption, such as Bangladesh, India, Indonesia, and Pakistan, enjoyed rapid economic growth.

アフリカには、統治能力の高い政府を持つ国もある。
だが、そのような国々も、貧困を脱して経済成長へと歩みを進めたアジア諸国と同じように繁栄することはできていない。
それはいったい何故なのか。

Moreover, much of Africa’s population lives in the interior of the continent rather than at the coast. Indeed, sub-Saharan Africa’s highest population densities are in the highland regions, such as Ethiopia and Rwanda, because rainfall reliability and soils tend to be a bit better there than in the interior lowlands and coast. Yet these highland populations are isolated from the international division of labor.

地理的条件が大きく影響している。
例えば、エチオピアやルワンダでは多くの人々が高地での生活を余儀なくされている。
内陸の高地に暮らしていると、どうしてもグローバルな経済からは隔絶されてしまう。

The end of poverty must start in the villages of Sauri and the slums of Mumbai, and millions of places like them. The key to ending poverty is to create a global network of connections that reach from impoverished communities to the very centers of world power and wealth and back again.

まずはグローバルな経済とのつながりを作るところから始めないと、貧困を終わらせることはできない。

The first is that although trade is important, the popular slogan “trade not aid” is wrong. Poor countries will need “trade plus aid,” since trade reforms alone are not nearly powerful enough to enable the poorest countries to escape from extreme poverty.

交易は重要だが、交易だけ行えば援助は不要かというとそうではない。
貧困から抜け出すには、交易も援助も必要なのだ。

Governance and higher incomes go hand in hand not only because good governance raises incomes, but also, and perhaps even more important, because higher income leads to improved governance.

貧困諸国の統治能力を上げることが、その国の所得を向上させることにつながる。
だが、所得が向上すれば統治能力も改善するという関係性もある。

The antiglobalization movement is wrong to suppose that private companies are the ones to design the rules of the game. If governments would do their job in setting up the right rules, major international companies would play a vital role in solving problems.

アンチグローバリズムは私企業が身勝手なルールを作っていると悪者に仕立て上げるが、そうではない。
ルールを作るのは政府部門であり、正しいルールの下であれば私企業は問題を解決するための重要な役割を果たす。

著者は、資本主義経済を否定しているわけではない。
だが、資本主義がうまく回り自助努力で飛躍するレベルに至るためには、富裕国からの援助や債務カットなどが必要だと説く。
また、その国の置かれた地理的条件や国情に合わせた処方箋が必要であると。
そのために必要な援助額は、米国をはじめとする富裕国のGDPの、ほんの0.7%程度で済むのだと。

Brexit、トランプ勝利、移民排斥。
著者が期待する世界は遠のいているように思えるが…

邦訳はこちら↓
貧困の終焉: 2025年までに世界を変える (ハヤカワ文庫 NF 404)
ジェフリー・サックス
早川書房
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『デジタルビジネストレンド』 日経コンピュータ

2016-12-25 23:05:33 | Books
デジタルビジネストレンド
日経コンピュータ
日経BP社


今のITビジネスにおけるトピックの全体像を広く浅く俯瞰するにはもってこいの一冊。
「デジタルビジネス」と銘打っているが、いわゆるデジタルトランスフォーメーションによる新しい領域だけでなく、SIの最新潮流やERP/クラウドなどのアーキテクチャ系も含め、従来領域の話も包含する。
新領域としては、AI、IoT、Fintech、デジタルマーケティング(オムニチャネルなど)、シェアリングエコノミー、等々。

ちょうど一年前、昨年の12月に発刊されたので、まだギリギリ鮮度を保っているというところか。
今年発刊されるとしたら、AIやIoTについての話がもっと手厚くなるだろうな。
逆に言うと、そのあたりが2016年のITビジネスにおける旬だったということがよくわかる。
実際、日経新聞の紙面でAIやIoTについての記事が載らない日はないくらい。
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『グロービス流リーダー基礎力10』 グロービス経営大学院

2016-12-23 22:41:43 | Books
27歳からのMBA グロービス流リーダー基礎力10
田久保 善彦,荒木 博行,金澤 英明,村尾 佳子
東洋経済新報社


市場環境分析や自社分析を行うフレームを整理する必要があったときに、大型書店でそれ系の書籍を探しまくった中で出会った一冊。
世の中のフレームワークをただ集めて並べただけのような本が多い中、この本は本当に重要なポイントだけにフォーカスした上でマネジメントに必要となるスキルが過不足なく触れられている印象だったので購入。

「ビジネスを理解する」「ビジネスを動かす」「リーダーとしての基礎をつくる」という3つのカテゴリに属する10項目のスキルを解説している。

「ビジネスを理解する」
 1)取り巻く環境を理解する力
 2)会計から企業を理解する力
 3)組織の文化・クセを理解する力

「ビジネスを動かす」
 4)目標設定力
 5)プランニング力
 6)段取り・仕組み化力
 7)伝達する力

「リーダーとしての基礎をつくる」
 8)セルフマネジメント力
 9)習慣づける力
 10)メンバーを育てる力

「27歳からのMBA」シリーズの一冊だが、これからマネジメントに携わろうとする若手ビジネスマンだけでなく、経験を積んだミドルマネージャーが自身のスキルを棚卸すのにも使えると思う。
個人的には、もともと本を探した目的であった1)や3)に加え、2)や4)あたりもこれまで意識的に整理して考えたことがなかったので有益だった。
逆に、5)〜8)、10)あたりは日常業務でやっていることなので流し読み程度。
9)は深掘ってみても面白いかなと思った。
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『コンビニ人間』 村田沙耶香

2016-12-21 22:35:03 | Books
コンビニ人間
村田 沙耶香
文藝春秋


話題の芥川賞受賞作。

コンビニ店員のマニュアルを介することで始めて世の中との折り合いをつけることができる人間、というテーゼは面白いとは思う。
が、これが現代なのだ、と言わんばかりなのはさすがに短絡的なのではないかという気がする。
主人公にしても、主人公と同居することになる男にしても、やっぱり単に「おかしな人」としか思えない。
「おかしな人」をスタンダードに据えられても困ってしまう。
マイノリティの悲哀を描こうとしたというのならまだ解るが、そうだとしたら凡作だろう。
読んでも特に得るものがなかったな、と思ってしまう自分は、今の世の中が見えていないだけなのかもしれないが。
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『妻籠め』 佐藤洋二郎

2016-12-20 23:18:15 | Books
妻籠め
佐藤 洋二郎
小学館


独り身のまま初老を迎えた大学教員の男が、自分を慕ってくる若く美しい女子学生への恋慕を抑えられなくなる我が身に戸惑う。
そして、小説の舞台は、男の少年時代、青年時代の回想を巡り、男の、また作者の故郷でもある石見地方へと移っていく。

年甲斐もない男の恋心の機微が描かれることを期待して読み始めたのだが、宗教的で生と死の神々しさを感じさせるテイストであった。
どこか夏目漱石の小説(『こころ』とか『それから』とか)を彷彿とさせるところもある。

終盤明かされる衝撃の事実は、いくらなんでもご都合主義的で、やや興醒め。
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プーチン訪日

2016-12-17 10:24:36 | Politcs
国民ががっかりしているとしたら、北方領土が返ってこなかったことに対してではなく、そんな無益な交渉に懸命になっている安倍外交のセンスについてではないかな。

自分は、個人的にはあんまりがっかりしてないけどね。
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『小倉昌男 祈りと経営』 森 健

2016-12-14 21:00:40 | Books
小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの
森 健
小学館


事前の知識もなく、普通の経営書・評伝だと思い込んで読み始めて、面食らった。

官僚と闘い、宅急便という新たなビジネス、というより生活インフラを日本社会に生み出した男、小倉昌男。
その小倉は、経営の一線から退いた後、福祉事業に莫大な私財と労力を費やしていく。
それはいったい何ゆえであったのか?
著者はそこに好奇心を掻き立てられ、謎に切り込んでいく。
そして、外の者には窺い知れない苦悩に満ちた、小倉家の葛藤と赦しの歴史に行き着く。

その内容にここでは触れないが、最後、著者が小倉の長女、長男と面会して話を聴く件りでは、それまでの歴史とは打って変わった穏やかさに深い感動を憶えた。
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『坂の途中の家』 角田光代

2016-12-11 18:17:23 | Books
坂の途中の家
角田光代
朝日新聞出版


凄い。
傑作、という言葉では言い尽くせない凄みがある。
文句なく、今年読んだ小説の中では群を抜いている。

主人公の女性が周囲の人たち(娘、夫、義父母、友人…)との間の価値観の齟齬を感じるや否や、坂を転がり落ちるかのように孤独と不信と焦燥に陥っていく様が物凄いリアリティで描かれていく。
そんな主人公が唯一共感を覚える相手が、補助裁判員として関わることになった実の娘の殺害の罪に問われた被告人の女性であった。
もちろん主人公は被告人の女性と言葉を交わしたことはない、これからも交わすことは決してないであろう。
だが、一つ間違えれば自分自身が被告人の立場になっていてもおかしくなかったのではないか、と考え込んでしまうような深い共感に主人公は囚われていく。
そしてその共感は、他の裁判員たちにはまったく理解されない、話がまったく噛み合わない。
おかしいのは周囲なのか、それとも自分なのか?
事件の真実はいったいどこにあったのか?
すべては闇に包まれていく。

このように、すべてを自分自身で受け止めて、悪い方へ悪い方へと深みに落ち込んでいく感覚は、出産・育児の経験の有無にかかわらず女性特有のものではなかろうか。
この繊細さは男性には表現できない。
角田光代が小説家としての一つの頂点を極めた一作と言ってよいのではないか。
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カジノ法案

2016-12-11 11:52:02 | Politcs
IR法案が「カジノ法案」として論われて騒ぎになっているようだが、またまた的外れな空論ばかりで報道を覗く気にもならない。

ギャンブル依存がどうのと言うが、ギャンブル依存になるような人は今でもパチンコやら競輪・競艇やら宝くじやらいくらでもハマる機会が豊富に用意されており、カジノができたからって、絶対量としてのギャンブル依存者の数は大して増えんと思うがね。

だいたい、国内の庶民が気軽に入れるようなカジノを作るつもりなのかね?海外観光客だけでは採算が取れないので、という説をどこかで読んだが、それが本当だったらカジノなんか作る意味が全くない。

そもそもIRやらカジノやら作ったくらいで経済成長できるほど甘いもんじゃない。
その点で推進派の議論もまやかしだと思うし、反対派も数少ない攻撃材料として大袈裟に論っているだけ。
その点でTPPと同じ構図。

まあプロレスみたいなもんだ。
トランプに比べるとかなりレベルの低いプロレスだけど。
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