そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『忘却の声』 アリス・ラプラント

2014-10-29 23:14:23 | Books
忘却の声 上
アリス・ラプラント
東京創元社


忘却の声 下
アリス・ラプラント
東京創元社


実験小説。

主人公は、認知症を患った60歳代の女性。
彼女と長い付き合いのあった隣家の老女が不審な死を遂げ、しかもその遺体からは四本の指が切り取られていた。
優秀な整形外科医であった彼女が隣人の死について重要な何かを知っているのではないかと嫌疑がかけられる。
が、その記憶と認識は不安定に漂うまま。

小説は、主人公の主観に沿って展開していくが、その認知は比較的明晰なこともあれば、時に我が子を認識できないほど闇に包まれることもある。
時制も遠い過去から現在まで行ったり来たり。
自分も、身内(祖母)が認知症になっているので、この感覚(といっても外からしか見ていないのだが)はよくわかる。

この認識の断片や噛み合ない会話が重ねられていく中で、主人公や周囲の人々の人となり、彼女ら彼らの積み重ねてきた歴史が次第にイメージとして確立していく。
その手法がなかなか見事。

小説が進むに連れて、時制どころか人称すらあやふやになっていく。
ミステリとしての体裁はとっているが、明かされる真相はそれほど意外なものではない。
が、その形式と、形式ゆえに醸し出される作品の印象は、きわめてユニークなものである。

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消費税が上がれば景気が停滞するのは当たり前でしょ

2014-10-27 15:20:26 | Politcs
ここにきて、来年10月に予定されている消費税10%への税率上げに対する世論調査の結果が、軒並み反対が7割くらいまで上がっている。
こうなってしまうと先送りは必至ではないかね。
7割の反対論に抗する力と意思は、今の安倍政権には無いだろう。

政府が大手マスコミを使って、消費税率が上がっても景気に悪影響は与えない、という訳の分からないキャンペーンを張ったからこんなことになっちゃった。
普通に算数ができて論理か分かる人なら、所得が変わらないのに価格が(増税分)上がれば、購入量が減る=生産活動が減退する=景気が停滞するというサイクルが回ることくらい当然に理解できるだろう。
それを変なキャンペーンで期待を持たせるようなことするから、話が違うじゃないか、みたいなことになる。

景気は多少停滞するけど、財政再建・税制改革のために税率上げは必要なんだという信念を最初っから表明していればよかったのにね。
誤摩化して耳障りの良いことばかり言っていても、結局馬脚を露わにして自分に還ってくるということ。
政治の世界に限らず、一般庶民の生活や仕事でもありがちな話なので、気をつけねばね。
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『殺人犯はそこにいる:隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』 清水 潔

2014-10-24 23:41:22 | Books
殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
清水 潔
新潮社


自分はテレビの報道番組をほとんど視ないこともあり、社会面系のニュースには疎い。
いわゆる「足利事件」についても、一旦死刑判決を受けた菅家さんという人が冤罪確定して釈放された、というくらいの知識しか持ち合わせていなかった。
そして、菅家さんの無実をはらすにあたり、本書の著者・清水潔氏の取材に基づいた日本テレビのキャンペーン報道が大きな役割を果たしたことも寡聞にして全く知らなかった。
さらに、この「足利事件」が、渡良瀬川を挟んだ栃木県足利市と群馬県太田市にまたがる狭い地域において、1979年から96年までの間に発生した5件の未解決幼女殺害・行方不明事件の1つであり、菅家さんの冤罪が判明したことで連続幼女誘拐殺人事件の真犯人(同一犯人である可能性が推定される)が野放しになっていることを意味するという衝撃的な事実を、この本を読んで初めて認識することになったというのが正直なところ。

本書を読んで、感じたところを以下連ねてみたい。

まず第一には、犯罪の真相解明に占めるマスコミの役割。
本事件については、日テレのキャンペーン報道が冤罪確定に大きな役割を果たしたわけだけど、それは「日本を動かす」ことを目指したプロジェクトを企てた日テレのプロデューサーと、それに応じた清水氏のような腹の据わった、ある意味変わり者のジャーナリストが「たまたま」関わったからできたことだ。
一般的には、自分が忌み嫌う、センセーションと世間の溜飲を下げることを求めたマスコミの扇情により、警察・検察、場合によっては司法の判断が歪みをもたらされることも少なくない(本書の中でもそのようなエピソードがいくつも例示される)。
清水氏のような活動についても、菅家さんの件では、冤罪を明らかにするという「正義」に適う(と考えて間違いない)結果をもたらしたとはいえ、一方間違えれば逆に誤った結論に世論を誘導してしまうリスクを逃れることはできない(実際、本書の中で「飯塚事件」について書かれた部分についてはそのような批判が為されているようだ)。
月並みだけど、マスコミ報道はそれだけ大きな力を持っているということなのだ。
本件の清水氏のような「良心」に期待したいところではあるが、なかなか当てにはならない。
そう考えると、やはり一つの言説を鵜呑みにせず、いかに多様なソースからの情報を得られるような環境を作るか、ということが肝要になる。
自分のように、テレビなど大手メディアの報道をガン無視するという態度も、実は偏っているのかもしれない。

第二には、警察・検察のずさんな捜査、組織防衛の論理の恐ろしさ。
自白偏重捜査、人質司法の酷さについては、現在では広く知られ批判されるところになっているが、この「足利事件」、そしてそれに先立ち著者が真相を暴くために奮闘した「桶川事件」の経緯を知るにつれ、警察・検察の組織の論理にもとづく権力の暴走により、誰しもが犠牲者となり得るという可能性を改めて実感させられる。

そして、第一のマスコミの問題と第二の警察・検察の問題、両者は記者クラブ体制という枠組みを挟んで表裏一体のもの。
マスコミが迎合する「世論」の期待に応えんがために警察・検察は組織防衛に走り、その警察・検察がリークする都合のよい情報にマスコミサイドは依拠する、という相互依存。
著者・清水氏が記者クラブに属さない独立独歩のジャーナリストである、という事実の意味合いは重い。

最後に、一連の事件の犠牲者となった女児たちと同じ年頃の娘を持つ親の一人として、彼女たち、そして彼女らの肉親たちが受けた痛み、苦しみに思いを馳せるたびに胸が痛む。
著者がその正体を知るという「ルパン」が将来報いを受けることになったとしても、彼女たちは決して還ってこないのである。
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『薬指の標本』 小川洋子

2014-10-18 22:08:35 | Books
薬指の標本
小川洋子
新潮社


Kindle版にて読了。

表題作『薬指の標本』と『六角形の小部屋』の2編収録。
実は、初・小川洋子だったりする。

『薬指の標本』は、ちょっと村上春樹の世界観にも通じる印象。
まずは「標本にする」という行為に着目したセンスには感心する。
主人公の女性が、無意識のうちに危うい香りのする状況に入り込んでいく過程の、長閑な一方微妙に恐ろしげな空気感にの描出が秀逸と思う。

『六角形の小部屋』も日常から繋がったちょっと不思議な異空間を舞台にしている点は共通。
が、こちらの設定はややありきたりかな、という気はする。
むしろ、男には窺い知れない、女性にとっての恋愛感情(が消長する瞬間)が作品に刻み込まれているところにドキッとした。

いずれも小品だが、先を読ませる力はある。
が、オリジナリティという点では今一歩であるようにも感じた。
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シンガポールのしょっぱい敗戦

2014-10-14 23:12:16 | Sports
日本完敗、0―4ブラジル…ネイマールが4得点(読売新聞) - goo ニュース

舞台の重さが全然違うけど、ブラジルがドイツに7点取られて負けたときのブラジル人の気持ちがちょっとだけわかった気がした。
そんなしょっぱさ。

アギーレは「アジア大会に向けた選手選考の場」であることを強調していた。
彼に課されたタスクを考えれば、その態度は正しいんだけど。
日本のサッカーファンは、アジア大会で優勝することよりも、たとえ親善試合でもブラジルのような強豪といい試合してくれるほうが楽しいんだよね。
それがいいことなのかどうかは別として。
まあ、そのへんのニュアンスを協会もアギーレに伝えきれていないんだろうな、無理もないけど。

試合直後のインタビューで、アギーレは、前半は戦えていた、後半早々の2失点目で崩れた、と言ってた。
確かに前半は、1失点の場面を除けばあまり危ないピンチを迎えていなかったし、逆に攻撃では、小林のボレー、岡崎のヘッド、CKからの塩谷のフリーでのシュートなど、得点の香りがするプレーがいくつかあったのは事実。
かといって、前半の日本が良かったかというと、そうでもない。
田中、森岡、田口あたりは判断やプレーのスピードが遅くて、どうにもペースが上がらない。
逆に1点差で後半を迎えて、本田が入って、ここから押せ押せで、みたいな雰囲気になって。
そんなところで柴崎の凡ミスからネイマールに2点目決められてしまう。
それで、どうしても点取らなきゃ行けない展開になって、焦って攻めては質の低いパスやトラップを搔っ攫われてカウンターでピンチを招く。
で、さらに2失点という悪循環。

なんかまたもや完全に術中に嵌っているというか、ブラジル相手の時は、今日の前半みたいにチンタラやってたほうが却っていい勝負ができるのかも。
まあ、そんな試合、面白くもないんだけどね。

いつかブラジルに勝利する日が来るのだろうか…
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『クリエイティブ・マインドセット』 トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー

2014-10-12 22:30:52 | Books
クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー
日経BP社


Kindle版にて読了。

本書の著者、デイヴィッドとトムのケリー兄弟は、かつてアップルの初代コンピューターのマウスもデザインしたというデザイン・ファーム「IDEO」の創設者と共同経営者。
多くの人々(特に日本人)は自分自身にクリエイティビティが備わっていないと思い込んでいるが、創造力に対する自信(Criative Confidence)を身につける(取り戻す)ことさえできれば、誰でもクリエイティブになれると言い切っている。
大事なのは、アイデアを生み出すために行動を起こすこと、生み出したアイデアを実行に移す勇気。

人に会い、デザイン指向で考え、プロトタイプを作って多くの人に意見を求める。
人の助けを求めることを厭わず、新鮮な思考を保つために常に新しい情報源を探し、アイデアが生み出される場面に多く触れる。

そう、行動することだ。
そんなことはよく分かっている。
が、それがなかなかできない。

スターウォーズのヨーダの言葉が紹介されている。
「やるかやらないかだ 。〝やってみる 〟などない 」

行動や思考を変えるための簡単なテクニックやコツも紹介されている。
印象に残ったものを列挙しておこう。

質問に命を吹き込むための方法の一つは 、遊び心を加えるというもの 。単に「なぜこの本がそんなに好きなの?」と聞く代わりに、「この本を読むよう友だちを説得するとしたら、何て言う? 」と聞き 、質問をゲ ームに変える 。

問題の枠組みをとらえ直すテクニック
・明白な解決策から離れる 。
・焦点や視点を変える 。
・真の問題を突き止める 。
・抵抗や心理的な否定を避ける方法を探す 。
・逆を考える。

「バグ・リスト」(問題点のリスト)を作れば、創造性を活かす機会がもっと見つかるようになる 。

すばらしいものを作りたければ 、まず作りはじめなければならない。創造プロセスの初期の段階では、完璧主義が邪魔になることもある。だから、計画段階で立ち止まってはいけない 。自分の中にいる完璧主義者に足を引っ張られてはだめだ。必要以上の計画、先延ばし、おしゃべりはみな、自分が恐れているというサイン、つまり心の準備が整っていないというサインだ。本格的に努力したり何かをほかの人に見せたりする前に、何もかも〝完璧〟にしたいと思っているのだ。そうなると、行動せずにもう少し様子を見ようと思うようになる 。

みんなからの支持を得て、新しいことを始めたいなら、変革を実験として位置づけ直してみよう、ということだ。もちろん、失敗する実験もあるだろう(だからこそ「試行錯誤」というわけだ ) 。だが、実験の多くは、実験と呼ばれることで心理的なハ ードルが下がり、成功率が高まるだろう 。

自社のイノベ ーション文化 ─ ─を向上させる 5つのコツ
●ユーモアのセンスを忘れない。
●ほかの人のエネルギーを活用する。
●上下関係をなるべくなくす。
●チームの仲間意識や信頼を重視する。
●評価を(少なくとも一時的に)後回しにする。

ネガティブな会話パターンに代わる表現として、「どうすれば ~できるだろうか?」(How might we . . . 、直訳すると「私たちはどのように~しうるだろうか? )という言葉を使ってみる。

思いつくアイデアの関係性を線で結ぶ「マインドマップ」を描いてみる。


ピカピカにクリエイティブなアイデアがいきなり浮かんでくるような神業があるわけではない。
とにかく、考え、行動すること。
それを繰り返していくうちに少しずつ自信が生まれ、それがまた前に進む原動力となる。
そのうちに(それをやらない)他人との差ができていく。
そういうことなのでしょう。
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