そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『シャープ崩壊』 日本経済新聞社

2016-08-28 20:26:53 | Books
シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か
日本経済新聞社
日本経済新聞出版社


日経お得意の内実ドキュメンタリー記事をまとめて書籍化したもの。
いつもながら、よくもまあ実際その場にいたかのようなしたり顔の文章を書けるもんだ、と半ば感心、半ば呆れてしまうが。

今年(2016年)2月くらいまでの時点での出版なので、ちょうどホンハイの出資を受けて傘下に入るか、産業再生機構の支援を受けて実質国有化されるかの決断を迫られているタイミングで本は終わっている。
その後すったもんだの挙句、ようやく先日ホンハイからの株式代金払込みも完了して新経営体制がスタートしたのは衆知の通り。

副題に「名門企業を壊したのは誰か」とあるが、シャープが傾いた原因として、液晶事業への過剰投資とそれに続く経営陣の内紛、権力闘争に求めている。

近年の歴代社長のうち、町田氏、片山氏については、有能だが権力欲にとらわれた人物として描かれ、それに続く奥田氏、高橋氏は経営者の器ではないと言わんばかりの散々な書かれ方。
経営者の悪口に終始しているが、それで済ませてしまってよいのだろうか。

最後の方に、シャープの「元首脳」のこんなセリフが出てくる。
『シャープ社内の誰か優秀な人が突然出てきて、再生のシナリオを描いていくようなことにならないと、士気は下がるばかり』
こんな他人頼み、無い物ねだりの見解を吐いてしまうような人物しかいないようなら、そりゃダメだわな。

だいたい、この規模の会社で同族経営でもないのに、前社長の娘婿の兄や娘婿が社長を継いできている事実にちょっと引いてしまうし、固い財務体質や「目のつけどころがシャープでしょ」の革新性はあったとしても、結局は昭和の古い企業体質を引きずっていた印象をぬぐいきれない。
突き放した言い方になってしまうが、どのみちこうなるべき運命の会社だったのではと感じてしまう。
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大銀星

2016-08-20 22:48:38 | Sports
4×100mリレーの銀メダルには心底興奮した。
バトン受け渡しの技術ばかりが言われてるけど、一人一人の走力が上がっていることの方が大きい。
メンバーもまだ若くて伸びしろがあるし、ボルトが引退したらジャマイカにも勝てちゃうんじゃないかと思ってしまう。

内村や伊調のようにNo.1であり続けることも凄いと思うが、このリレーチームのように大舞台で実力を十二分に発揮して、とても叶わないとは思えた相手を負かしてしまうのはとてもエキサイティングだ。
リオ五輪でいえば、卓球の水谷が中国選手への初勝利、7人制ラグビーでのニュージーランド戦ジャイアントキリング、そして今日の400mリレーがベスト3だな。

個人的には陸上競技は五輪の華だと思う。
日本人が活躍する種目は少ないが、水泳・柔道・レスリングなどは日本選手が出ていないと観る気がおきないのに対して、陸上は出ていなくても面白い。
明日はフィナーレの男子マラソン。

五輪、始まる前はほとんど関心がなかったが、これだけ朝から晩までやってるとついつい見てしまう。
テレビ放送も、他のスポーツイベントと違って、関係ない芸能人が出てきての余計な煽り演出などが少なくて、実況も含めて比較的淡々と愛想なく伝えてくれるのがよい。
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『まく子』 西加奈子

2016-08-17 22:30:46 | Books
まく子 (福音館の単行本)
西加奈子
福音館書店


『サラバ!』で直木賞作家となった西加奈子の新作。

『サラバ!』の壮大な物語世界に比べると、住民全員が顔見知りのような温泉旅館集落というこじんまりとした共同体が舞台になっているが、それでもスケールの大きな読後感を憶える快作。

『まく子』は「捲く」子のことだ。
「捲く」という行為の豪快さが華々しいイメージを喚起する。

狭い共同体世界に、謎めく美少女という異分子がが加わることで掻き乱れていく様が魅力的に描かれる。
『サラバ!』にも通じる、子供の目に映る世界が生き生きと構築され、体の変化とともに異性に対する好悪の関心に囚われる思春期の感性が重なり、ノスタルジーを刺激するあたりは西加奈子の真骨頂。

ただ、思春期の男子が、大人を汚く感じ、大人になりたくないと思う心理にはリアリティを感じなかった。
男子ってそういう生き物ではない。
自分が書いた『サラバ!』のレビューを見返すと、
どこか「女流作家が描いた男性像」を脱しきれていない
とあるが、同じことを感じる。

クライマックスはSF色も加わり、大風呂敷を広げた印象だが、それを畳みきれない粗削りさも含め、快作と思う。
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生前退位の考察

2016-08-12 22:24:39 | Politcs
今朝の日経新聞に、天皇陛下による先日の「お気持ち表明」を受けての世論調査が出ている。
生前退位を容認する率は、89%と極めて高い。

皇室に関わる現行の制度が作られた当時には考えられなかった超高齢化社会となった今、制度が時代に合わなくなっているのは明らか。
天皇に「生涯現役」を強いるのは無理があるし、だからこそ「お気持ち」に共感する人が多いのは当然のことと思う。

一方で、象徴天皇制における生前退位をどう考えるかは、非常に難しい問題だ。
象徴天皇制においては、天皇はかつてのような為政者・権力者ではなく、存在している限り象徴である、という考え方は成り立ち得るし、寧ろそう考える方が素直にも思える。
国民統合の象徴たる天皇の地位には生涯在り続けていただき、高齢により負担の重い国事行為については代行者を立てるというソリューションだ。

これは、現行制度でも認められている「摂政」を置けばよいのではないか、という案に通じる。
Wikipediaによると、摂政は、「法律上の原因(天皇が成年に達しない時、重患あるいは重大な事故といった故障によって国事行為を行うことができないと皇室会議で判断された時)の発生により」設置されるとのこと。
上記の「重患あるいは重大な事故といった故障によって」という部分を、高齢で国事行為に耐えきれない場合にも適用できるように制度手当てをすればよいのではないか、という案。
ただ、摂政という言葉の響きは、天皇が為政者だった時代の名残りを色濃く感じさせる一方、代行者というニュアンスが強くてやや重みを感じさせない面もあるところに難しさがある。
天皇ではないが、天皇と同等の象徴性を以て国事行為を代わって行なう者、という存在が求められる。
結局、天皇に代われる者は天皇しかいない、だから生前退位なのだ、というのが陛下の「お気持ち」の真意と解釈できる。

では、仮に生前退位を是とするとして、その要件はどのように定めるべきか。
天皇自身の良識に任せた意思表明に基づき、皇室会議などで有識者の判断を入れて結論を出す等の制度設計になることが予想できるが、何れにしても恣意が入り込む余地があることは否定できない。
本当は、例えば一般では後期高齢者相当の75歳以上でないと生前退位は認めない、とか客観的に判断可能な必要条件があったほうがよいとも思うけど、皇位にそんな定年制みたいなのを適用するのが相応しいかと問われれば答えに詰まってしまう。

考えれば考えるほど論点百出で悩ましい。
陛下も、国民と政権に対して随分と重いボールを投げかけたものだ。
どうせいつかは考えなければならない課題をここまで先送りしてきたことが悪いのだが…

しかも、これで皇室典範改定とかなると、同じく棚上げして見ないふりしてきた女性・女系天皇や女性宮家の問題も蒸し返されることになり収集がつかなくなる。
いっそのこと女性・女系天皇、女性宮家についても「お気持ち」をお示しいただけないものか。
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『異類婚姻譚』 本谷有希子

2016-08-04 22:16:21 | Books
異類婚姻譚
本谷 有希子
講談社


夫婦関係とは、すべからく馴れ合いである、という発想。
というか、夫が妻に対して取る馴れ合いの姿勢を、ユーモアを交えながら痛烈に指摘している。

油断すると顔のパーツが崩れる、という着想も面白いが、
夫婦をお互いの身体を飲み込んでくヘビに喩えた表現にハッとさせられた。
あと、夫が妻に対して、自分のウ⚪︎コまで食べてくれちゃいそう、と言い放つ件りとか。

失礼極まりない。
が、究極まで気を許す、というのはそういうことであるようにも思えてくる。

感性が鋭い。
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ビットコインは現物貨幣に似ている?

2016-08-03 21:27:03 | Economics
今日の日経朝刊「経済教室」のテーマはブロックチェーンと仮想通貨。
文責は、山崎重一郎・近畿大学教授。

ブロックチェーンの分散台帳システムの要諦がまとまっていてわかりやすかったが、中でも次の一節が興味深かった。

岩村充・早稲田大学教授は、ビットコインは電力料金という「原価」が存在し発行量が制約されるため、印刷機で発行できる日銀券のような信用貨幣より、金貨のような現物貨幣に似ていると指摘する。
実際ビットコインは金兌換券と同様の量的な制約が存在し、現実の経済活動に必要となる大量の決済には適していない。また個人のウォレットで管理されるビットコインは、金融資産として運用される銀行口座の「預金」と異なり「死蔵された金貨」のようなものだ。


電力料金が「原価」だというのは、マイニングに消費電力が問題になるほどの計算能力が必要になることからだろうか。
なるほど、と思わされた。
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都知事選雑感

2016-08-01 22:33:13 | Politcs
都知事選、小池百合子の圧勝に終わった。
ふだんほとんどテレビを見ないので、選挙戦の雰囲気がよくわからんかったのだが、自民(増田氏)は組織でいじめているイメージがつき、民進(鳥越氏)はどう考えても悪手の候補者を選んで自滅。
よってたかって小池さんをアシストしたって感じか。

既成政党ってやっぱセンスが無い、というか古いんだよね。
組織票のことばっかり考えているから、強大な浮動票が選挙結果を左右する都知事選では通用しない。
舛添氏が圧勝した前回よりも投票率もだいぶ上がったみたいだし、舛添氏も浮動票を取ったってわけではなかったことが結果的によく分かる。
しがらみに身を任せているうちに自分たちの力を自分たちの実像を見誤ってしまう、ビジネスの世界でもよくあること。
わが身を省みねば。

ちなみに自分は、前回は誰にも票を入れる気になれなくて棄権。
今回は増田氏に入れた。
増田さんは、明らかに体制に従うだけの人で、魅力はまったく無いのだけれど、都知事なんて余計なことしないで役人に気持ちよく仕事させりゃ結果的に一番いいのでは、と思っているので、人畜無害なのがいいんじゃないかと思ったので。
小池さんもね、これだけ対決姿勢を煽って、だいじょぶなのかなという懸念はある。
今は世間も祝賀ムードだけど、虎視眈々と粗探しを狙っている人々はたくさんいそうだし。
ひとたびスキャンダルが巻き起これば、世論なんて簡単に手のひら返すからね。

鳥越氏は論外。
最初っから最後まで化けの皮剥がれまくり。
組織だけでなくて、個人としても自分を見誤っていたね。

政治にエンターテイメントの側面があるのは前からだけど、経済成長の止まった停滞社会では、ますますその傾向が強まる。
虚しいが、これはこれとして受け止めるしかないのかもしれない…
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