そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「暴走する資本主義」 ロバート・B・ライシュ

2008-11-26 22:32:06 | Books
暴走する資本主義
ロバート・B・ライシュ
東洋経済新報社


著者は、クリントン政権で労働長官を務め、オバマ次期大統領の政策ブレーンでもある人物。
その経歴や、日本語タイトルからは、共和党の金持ち優遇政策で暴走を続け一気に崩壊したアメリカ流金融資本主義を批判した本であるかのように思えてしまいますが、内容は全く違う。
まず、原題"Supercapitalism"を「暴走する資本主義」という邦題にしたのがミスリーディングで、本の中では「超資本主義」と直訳されています。
米国において戦後長らく続いた、古き良き「民主的資本主義」の社会が1970年代を境に変容し、企業はグローバルなサプライチェーンを展開し、生産性は急激に向上し、株価の爆発的な上昇を描く経済成長の時代、それが「超資本主義」の時代と呼ばれています。

この超資本主義の時代における勝者は、消費者であり投資家である国民ひとりひとりである、と論じられます。
消費者としての我々は、以前に比べて格段に選択肢の増えたモノやサービスを安価に手に入れることができるようになり、投資家としての我々は個人投資家として、或いは年金基金などを通じて株価上昇の果実を得ることができるようになった。
超資本主義による恩恵の最大の受益者は、強力な力を与えられた、消費者そして投資家としての我々である、と。
が、一方で消費者・投資家であると同時に「市民」であるところの我々国民は、超資本主義の弊害に苦しめられる存在でもあります。
上がらない賃金、不安定な雇用、崩壊する地域コミュニティ、環境破壊、莫大な報酬を得る大企業CEOやウォール街の金融マンとの格差感・不平等感。
政治にも商業主義が入り込み、企業ロビイストや弁護士、広報専門家が幅を利かせる。
民主主義が機能しなくなっているという問題が生じている、と。

超資本主義が生まれた要因として、一般的にはレーガノミックスによる減税や規制緩和が挙げられますが、著者の見方は異なります。
冷戦が生み出した、輸送や通信に関する技術革新が実用化され、国境を越えたサプライチェーン構築が可能になった企業間に激しい競争が生まれたことが、その要因である、と。
大企業CEOの莫大な報酬も、優秀な経営者を獲得するための企業間の熾烈な競争の当然の帰結であり、それを金満主義と批判・糾弾したところで溜飲を下げられるかもしれないが根本的な解決にはなりはしない。
それよりも、消費者・投資家である我々が利益を求めれば求めるほど、市民としての我々の不利益や不満は溜まっていくという二面性の構造を自覚することが本質だ、と論じられます。

著者の主張は、簡単にまとめれば上のような内容で、このことが豊富な実例の紹介をもって丹念に解説されていきます。
きわめて客観的でバランスのとれた議論で、特に、我々のなかにあるアンビバレンスについては、自分も常々感じていたことなので、このように明解に説かれると嬉しくなってきます。

米国を題材に議論が進められていますが、超資本主義の現象は、先進国では共通に見られるものであることは著者も指摘しています。
日本においても、格差社会論や市場原理主義批判などが盛んに語られるなど、米国ほどではないまでも、同様の傾向を感じることができます。
著者は、超資本主義への処方箋として、法人税を廃止する代わりに企業の(法)人格を否定し、人間のみが市民としての権利・義務を保有し、民主主義を個人に取り戻すことを唱えます。
やはりポイントになるのは、我々国民ひとりひとりに政治の主体となる覚悟がちゃんと備わっているか否かなのでしょう。
いくら政治家や官僚や大企業の振る舞いが酷いとしても、それをただ批判するだけで、我々自身が受け身の姿勢を脱することを心がけなければ、社会は変わらないのでしょう。
自戒を込めて。
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「グレート・ギャッツビー」 スコット・フィッツジェラルド

2008-11-21 23:35:24 | Books
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
スコット フィッツジェラルド,村上春樹
中央公論新社

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「訳者あとがき」で、村上春樹は、これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本をどうしても一冊だけ挙げよと言われたら、「僕はやはり迷うことなく『グレート・ギャッツビー』を選ぶ」と書いています。
確かに、この「グレート・ギャッツビー」という小説の持つ雰囲気には、何処か村上春樹ワールドに通じるものが感じられる。

特に圧巻なのは、ギャッツビーの邸宅で繰り広げられる盛大なパーティの場面。
生き生きとした猥雑さと非日常性に満ちた空気がとても魅力的。
そこに現れるギャッツビーという人物の神秘性もまた好ましい。

一方で、終盤になるにつれ、メロドラマ風の俗っぽさを帯びてくるのはあまり気に入らなかった。
そもそもプロットが「ロミオとジュリエット」やら「シンデレラ」やらのスタンダードものの組み合わせで構成されている印象もあるけど。
この俗っぽさは村上ワールドとも相容れないものがあるような気がしたんだけど、どうでしょう?
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右か左か

2008-11-19 22:48:26 | Diary
最近忙しくてブログを書く気もなかなか起こらず…
久々ですが、どうでもいい話をちょっと書いてみます。

今日は関西方面に出張でした。
よく云われる話ですが、エスカレーターを歩いて上り下りする人のために、関東では右側を空けるのに対し、関西では左側を空ける習慣があります。
以前から関西を訪れるたびに、「おお、その通り」と確認していたんですが、今日、京都駅でエスカレーターに乗ったところ、皆さん左側に立って右側を空けてるではありませんか。
しばらく来なかった間に、まさか習慣が変わった?

気になったので帰ってからネットでちょっと調べてみたところ、こんなまとめサイトを見つけました。
どうやら関西においても京都市内と滋賀県内だけは左空け・右空けが混在しているようなんですね。
今日訪れたのはまさにこの地域…納得です。
上記サイトではそうなった理由も分析されてますが、京都は関東から訪れる観光客も多いので右空けになるケースも多いのかな、などと思いました。

まあ、いずれにしてもエスカレーターに行列ができたり、歩いて上り下りする急ぎの人がいたりするのも、都市部に限った話なんでしょうね。
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「フォト・リテラシー」 今橋映子

2008-11-11 23:13:20 | Books
フォト・リテラシー―報道写真と読む倫理 (中公新書 1946)
今橋 映子
中央公論新社

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副題「報道写真と読む倫理」で示されるように、1930年代に成立した報道写真、フォト・ジャーナリズムの歴史を紐解く中で、写真がどのような意図に基づき、加工・流通されてきたかを詳らかにするとともに、それを観る側のリテラシー、倫理を丹念に問う力作。

写真は、決して「現実の直接の反映」ではなく、写真家の「選択」や、歴史的・政治的・文化的文脈により規定される「制作物」である、という論点にはさほど新味を感じなかったのですが、他のメディアと異なる写真の特性については改めて気付かされるところがありました。

まず、写真は、本書でも触れられている通り、「過去」を焼き付けるメディアであること。
映像(動画)メディアと異なり、写真には「生中継」という概念が原理的にあり得ない。
そして、写真は上述のように「現実」そのものではないまでも、基本的には「今そこに在るもの」を捉えたもであることが前提となっていること。
もちろん、全くの捏造・合成写真というものもあり得るわけですが、一から非現実世界を容易に構築できる絵・イラストや文字メディアとは、決定的な性質の違いを有していると思います。
そうした特性があるからこそ、我々は写真の「真実」性を容易に信じ、また、写真に「期待」してしまう。
そのことが、著者の云う「撮る側と観る側の共犯関係」が成立する所以であるように思いました。

もう一点、興味深かったのが、本書の最後に少しだけ触れられている「写真は歴史を解き明かす証拠能力を有するか」という論点。
本書では、ナチスの収容所写真とホロコースト否定論の関係を例にとって論じられているのですが、これまで文献史料を中心に行われてきた歴史学研究に、今後、写真の史料価値がどのように位置づけられていくのか。
写真というメディアの歴史が約2世紀に及ぼうとしている現在以降、そうした論点はより強く意識されていくのだろう、と。
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天下の愚策

2008-11-07 23:27:15 | Politcs
給付金、引換券方式を検討…高額所得者には辞退要請(読売新聞) - goo ニュース

辞退を要請って…
およそ法治国家とは思えませんな。
個人的には、そういう発想嫌いじゃないけどね。

国費をこんなふうにいい加減な使い方されちゃうんじゃ、どんだけバラ撒こうが、将来が心配になって、気前よく消費しようなんて誰も思わないでしょ。
これが経済対策の目玉だってんだから、笑うしかないですな。
「政権交代が最大の経済対策」っていう民主党のスローガンも、あながち間違いじゃないような気がしてきた…
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悪魔の仕組み

2008-11-06 22:52:04 | Politcs
日経新聞朝刊マーケット総合面の「大機小機」、ほぼ毎日読んでるんだけど、最近は具体性に欠ける書生談義みたいのが多くてつまらんなぁと思ってたところ、今日のは久々ちょっと面白かったので、以下メモっておきます。

タイトルは「何のための消費税増税か」。
筆者は「吾妻橋」氏。

…国民年金の納付率は、免除者も含めれば、既に五割を下回っている。この破綻が顕在化しないのは、サラリーマンの保険料から際限なく流用できる「基礎年金」という悪魔の仕組みがあるからだ。
 しかし保険料の未納は国民健康保険(国保)でも同じである。違いは、未納付分が主にサラリーマンの税金である市町村財政から穴埋めされる点にあり、国民年金のように正直に公表されないだけだ。
 今回の後期高齢者医療制度での大きな誤算は、従来の国保と同程度の保険料を年金から源泉徴収することに対する予想外に強い抵抗であった。この要因としてメディアでは年金記録への不信感を挙げているが、素直に考えれば、国保の保険料支払いを怠っていた高齢者がそれけ多かったためとも推察される。
 国民年金と異なり、国保の保険料は一応所得比例であり、消費税と同じ負担である。現行の取れるところから取る国民年金や国保の保険料の代わりに、誰もが消費額に応じて公平に負担する社会保障目的税に置き換えることは、断じて「増税」ではない。保険料負担が減るという実質的な「所得減税」と合わせれば、景気にも中立的である。むしろサラリーマンには、課税ベースが広がるだけ、一人当たりでは負担減になるはずだ。
 しかし、これを実現するには、たとえ破綻していても社会保険制度を死守したい厚生労働省と、財政再建の貴重な財源を奪われたくない財務省の省益が大きな障害となる。

後期高齢者医療制度のくだりなど事実に即しているのかやや疑問な部分もありますが、全体的には、「悪魔の仕組み」によりサラリーマンが搾取されている現状を正しく衝いていると思う。
「労働者の味方」であるはずの社民党や共産党も、馬鹿の一つ覚えみたいに「消費税率アップ反対」ばかり唱えていないで、少しはこのコラムみたいなことを考えてみたらどうなんだろう。
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終幕

2008-11-06 00:24:15 | Politcs
オバマ氏、圧勝 初の黒人大統領に<特集・米大統領選>(gooニュース) - goo ニュース

このブログで米大統領選について初めて触れたのは1月8日のこと。
長い長い大統領選もついに終幕を迎えました。
去年の今頃は、ヒラリーかジュリアーニか、などと言われてたことを思えば、ウソみたいです。

世界中で祝賀モード、オバマ万歳ムードですが、結局勝敗を分けたのは選挙戦クライマックスを直撃したリーマン・ショック、金融危機の深刻化であるのは間違いないでしょうね。
心配ないとは思いますが、まぐれ-大統領はなぜ、運を実力と勘違いするのか、といったようなことにならないよう祈ります。
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「西部戦線異状なし」 エーリッヒ・マリア・レマルク

2008-11-03 10:44:09 | Books
西部戦線異状なし (新潮文庫 レ 1-1)
レマルク
新潮社

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ヘミングウェイの「武器よさらば」を読んだので、第一次大戦つながりでこちらも読んでみることにしました。
恥ずかしながら、この著名な小説の主人公がドイツ兵であることも、著者のレマルクがドイツ人であることも知らずに読み始めたのですが。

レマルクはジャーナリスト出身だそうですが、その出自に相応しいドキュメンタリータッチが特徴的です。
ストーリーらしいストーリーはなく、作劇を廃して、只管、戦場の現実と限界状態に置かれた若き兵士の心理が克明に書き連ねられていきます。
兵士たち同士の退廃的な会話などは、「武器よさらば」と共通するところもあったけど、ロマンチシズムの香り漂うヘミングウェイと比べるとこちらはおよそ文学的とは言い難いテイストで、逆にそれが小説に力を生んでいる印象です。

レマルク自身従軍経験があるとのことで、若き兵士たちの心理描写は克明で、且つ、説得力に溢れています。
自分たちの境遇を、職業や家庭を故郷に置いてきた年上の兵士たちとは異なるものと断じてみせるあたり、経験者にしか分からない繊細な心理が印象的に表現されていると感じました。
主人公が休暇で故郷に戻り、家族や銃後の人々とのコミュニケーションにおける違和感に悩まされるあたりは極めて痛切です。
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ドキュメント・11月1日

2008-11-02 23:39:48 | Diary
昨日11月1日は、私立幼稚園の入園願書受付日でした。
この日程は、私立幼稚園協会などでの申し合わせにより決まっているみたいですが、ネットでちょっと調べた限りでは全国的に同じ日みたいですね。
どこの幼稚園も同じ日に出願や考査が行われるので、基本的に一人一園しか出願できないわけです。
この少子化の時代だから、大学と同じく定員割れの園がたくさんありそうなものですが、我が家の在るS区は異様に子供の数が多いのか、それとも元々幼稚園が足りないのか、特にお受験向けの人気園に限らず、どこの園も定員オーバーで面接などでの選考があります。
私立がダメなら二年保育の区立幼稚園で…といければいいんですが、区立は区立で倍率が1.5倍~2倍という話で。
要は、毎年幼稚園に入り損ねる児童が発生してしまう、という状況なんですね。

うちの長男も早いもので来春には入園(三年保育)。
ヨメさん中心に幼稚園情報を収集し、実際にいくつかの園の説明会やバザー、運動会に足を運んで志望先を絞り込み「本命」を決めました。
本命のA幼稚園は願書受付日当日に面接等考査があり合否を決定する園。
万が一不合格になってしまうリスクを考え、考査がなく出願先着順で入園できるB幼稚園を「滑り止め」にすることにしました。
B幼稚園は、出願時に入園金を納めるので、本命に合格したら十数万円を捨てることになっちゃうんですが・・・。

で、当日。
本命のA幼稚園には、自分が並んで願書を提出することに。
面接で合否が決まるので、出願の順序は関係ないはずなんだけど、「早く並んだほうが熱意を評価されて入りやすくなる」といった根拠なき噂が流れて、毎年夜中から並ぶ人が絶えないそうなんです。
今年は説明会で園の先生が「夜中から並ぶ必要はありませんので」と明言されていたので、自分は7時頃に並びに行ったんですが、その時点で100人を超える行列。
一番前のほうに並んでいる人たちは明らかに徹夜スタイルでした。
いやーいったい何時から並んでたんだろ?

行列している間にヨメから携帯メールで状況報告が入る。
先着順のB幼稚園にはうちの母を駆り出して行ってもらったんだけど、7時45分に到着したら既に定員は埋まっていて、キャンセル待ちの20番目になってしまったとのこと。
例年なら8時に行っても十分定員内という話だったんだけど、やはり今年は三連休の初日に当たったので徹夜・早起きがしやすかったんだろうか、例年以上の加熱ぶりのようでした。

A幼稚園のほうは、8時半願書受け付け開始で、ざっと数えてみると自分は130番目くらい。
後ろにはもう30人くらい並んでいたので、定員120人のところに160人、単純計算だと4人に1人は落ちるということか…。
B幼稚園、20番目ならキャンセル待ちで入れるのはまず間違いなさそうだけど…どこにも入れないという最悪の事態が一瞬頭をよぎる。
まあ、そうなりゃそうなったで、その時考えるしかないのだけれど。
結局受付が終わったのは9時過ぎ、2時間並びました…。

一旦帰宅して、昼前に考査のため園を再訪。
面接は父母いずれか一名のみ同伴で、ヨメさんが行くことにしたんですが、自分も下の子を抱えて園までいっしょに行きました。
考査は、保護者から離されて子供だけで教室に集められてのグループ観察と、面接の2本立て。
うちの子は、グループ観察では親と引き離されて泣きわめいてしまいました。
普段は託児とかで母子分離しっかりできてるんだけど…やっぱりなれない場所だし、雰囲気も違うので緊張が伝わるんでしょう。
まあ大半の子が泣いてたけど。
面接では、先生の問いかけに一応リアクションはしたそうで。
グループ観察、面接とも2~3分で終了。
あんなに短い時間でいったいどういうポイントで評価されるのかさっぱりわかりませんが…。
結果は速達で、とのこと。

当日夜、子供たちを風呂に入れているときに、玄関のチャイムが鳴りました。
もしや…
ヨメさんが出て、風呂まで持ってきたのは、やはり園からの速達。

無事、合格してました。

結果的に、B幼稚園のほうも入園金を払わずに済んだのでムダ金も発生せず、理想的な結末。
よかった、よかった。

いやー、幼稚園入れるのも楽じゃないですわ。
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