そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

追悼 橋本治

2019-01-29 20:54:59 | Society
作家の橋本治さんが亡くなった。
70歳。
早すぎる。
調べてみたら、うちの母親と生年月日が5日しか違わない。

中学生の頃、『桃尻娘』を読んで、文学の世界にいざなってくれた。
大学生の頃、書店でサイン会があり、サインをもらった『雨の温州蜜柑姫』は今でも実家にあるはずだ。

『桃尻娘』シリーズでは、今のLGBT解放を30年先取りしていた。
一方で、このブログにも感想を書いた『巡礼』 『』 『リア家の人々』の三部作、そして昨年読んだ『草薙の剣』では、過去となった「昭和」を完璧に回顧してみせた。
真のリベラル派であり、天才作家であった。

最後に、10年前に『巡礼』の感想をエントリした際の一節を再掲することで追悼としたい。
合掌。

自分にとって橋本治は、かの大河青春小説「桃尻娘」シリーズの著者として特別な存在なのです。
それまで三毛猫ホームズやトラベルミステリーばかり読んでいた自分にとって、初めて取り組んだ現代純文学、それが「桃尻娘」でした。
「桃尻娘」の登場人物たちが表現する屈折した自意識や孤独感は、当時思春期に差し掛かっていた自分は強烈なインパクトを与え、その質感は20年経った今でも印象として残っています。
そして、本当は「普通の人間」でしかない「異端者」に対する優しい眼差しは、この「巡礼」にもそのまま受け継がれているように感じました。
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『オスマン帝国の解体』 鈴木 薫

2019-01-27 14:05:03 | Books
オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫)
鈴木 董
講談社


Kindle版にて読了。

20世紀から現在に至るまで民族紛争・宗教紛争の絶えない地域である中東、バルカン。
これらの地域はいずれも、13世紀末から600年以上にわたり君臨したイスラム大帝国、オスマン帝国の広大な版図の一部であった。

オスマン帝国は「多様性の帝国」であった。
その広大な版図においては、多様な宗教、宗派、民族に属する人々が、比較的平穏に共存していた。
イスラム帝国でありながら、一部のキリスト教徒やユダヤ教徒も、不平等はありながらも緩やかに共存していた。
また、交易の利に支えられたオスマン帝国は「開かれた帝国」でもあった。

そんな長い「パクス・オトマニカ(オスマンの平和)」が崩壊し始めたのはほんの200年前。
近代西欧で生まれたナショナリズムの大波が「西洋の衝撃」としてオスマン帝国を直撃し、まずはバルカン半島のキリスト教諸民族が、続いて中東のムスリム諸民族がネーション・ステートとしての自立を目指して立ち上ががる。
オスマンの平和を支えたアイデンティティと共存システムは破壊され、そのうねりの中で帝国は次第に崩壊していく。
そして、バルカンは第一次世界大戦の引き鉄となり、20世紀終盤には凄惨な内戦で多くの犠牲者を出す。
一方、中東は西欧植民地主義により恣意的に分断され、それが現代に至っても解決の困難なこの地域の複雑性の根本を覆っている。

以上が、本書で語られる史観の提要である。
なかなか馴染みにくい地域の話だが、特にオスマン帝国崩壊の過程が詳らかに解説されるあたりは興味深い。
では、現代も未解決のままのこれら地政学的課題をどう解決すればよいのかという観点でのアイデアは本書では語られない。
まさか時間を巻き戻してオスマン帝国を再興することがソリューションにはなり得ないだろうし。
ただ、今のように宗教対立ばかりにフォーカスを当ててしまうと解決はさらに遠くなるということだけは言えそうだ。
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