そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『成瀬は信じた道をいく』 宮島未奈

2024-04-28 20:29:00 | Books
成瀬シリーズ第二作。
受験を経て京大生となり、近所のスーパーでバイトを始め、びわ湖大津観光大使に選ばれる成瀬あかり。
幼馴染の相方・島崎みゆきが東京に引っ越して距離が遠くなる代わりに、成瀬と出会い、その特異なキャラに戸惑いながらも魅了され影響を受けていく人々の輪も広がっていく。

そんな成瀬を取り巻く人々が最終話では一堂に会し、またその中で島崎との絆も改めて確かめられる。この構成が実に心地よい。

そして、こんな侍みたいな喋り方をし、あらゆる方面で才能を発揮し、ブレずに定めた道を真っ直ぐに進む女子は、どんな家庭で育ったのだろうという前作以来の疑問に、本作は成瀬父の視点に立ったエピソードを設けることで応えてくれる。
これがまた平凡な、愛情に溢れた家庭なのが嬉しい。
一方で、成瀬母については本作終了時点で未だミステリアスさを残しており、この点については続編に期待。

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『成瀬は天下を取りにいく』 宮島未奈

2024-04-28 20:22:00 | Books
西武大津店閉店を巡るローカル色濃厚な一話目と、女子中学生の即席ペアがM-1に挑戦する二話目で、成瀬と島崎の幼馴染ペアの絶妙なコンビネーションの魅力に心掴まれる。特に二話目はど素人がゼロから漫才を作り上げていく過程が丁寧かつ爽快に描かれていて抜群に面白い。

ここまでで成瀬と島崎の2人の物語だと思わせておいて、三話目以降は視点がいろいろな人に移っていく。
他人の目を全く気にすることなく、やりたいこと、正しいと思う道を真っ直ぐに突き進んでいく成瀬。その行動を最初は疎ましく感じる人も、次第にその純粋さに魅了されていく。

で、最終話は成瀬自身の視点に立って語られる。それまで感情のないサイボーグのように描かれてきた成瀬も、親友と離れ離れになることに激しく動揺し、ハートを持ったごく普通のティーンエイジャーであることが印象付けられる。これによって彼女を巡る一連の物語が一気に深みを増す。

成瀬というある意味寓話的な、極端なキャラクタを中心に据えながら、地元愛やノスタルジーや10代の自意識など、誰もが思い当たる甘酸っぱい情感をさらりと紡ぎ出す。
傑作と思う。

#ブクログ



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『人事変革ストーリー (光文社新書 )』 高倉千春

2024-04-15 22:14:00 | Books
著者は、農水省の官僚として社会人人生をスタートし、MBA留学からの帰国後コンサルタントに転身、外資系コンサル会社で働いていた際にファイザーの日本法人からスカウトを受けて事業会社のHR部門でのキャリアを歩むことになる。複数のグローバル企業の日本法人、そして日系グローバル企業を渡り歩き、HRを専門とする経営人財へとステップアップした。

グローバル企業と日本企業、それぞれの人事制度や考え方の違いと融合、改革を経験してきた人物だけに、示唆を得られるところも多い。

人事は戦略そのものであり、将来を洞察して人財のポートフォリオを動的にマネジメントしていくこと、組織風土を将来に向けて意図的に適切に創る動的な組織能力を育むことといった戦略性のマネジメントの重要性が語られる。
一方で、人的資源はココロを持った「厄介な」経営資源であり、現場社員の目線に立って一人一人が自身のパーパスを実現できる機会を提供することも極めて重要。
経営者には、そんなまさに「鷹の目、蟻の目」とも言うべき視点を備えるとともに、企業の行く末を多様なメンバーに腹落ちさせるコミュニケーションの力が求められる、というのが著者の主張の要点。

著者が各社で推し進めてきた人事制度改革の事例も多数紹介されているが、ジョブディスクリプションを等級も含めてオーブンにしたという味の素の事例と、目標管理制度の代わりに年に2回全社員に「自分が創出した仕事の価値」を点数カさせてそれをベースに評価を決めるというロート製薬の事例は特に興味深かった。

#ブクログ



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『冬に子供が生まれる』 佐藤正午

2024-04-05 22:44:00 | Books
佐藤正午らしい読者を翻弄するギミックは健在だが、『鳩の撃退法』『月の満ち欠け』ほどの興味を掻き立てられなかった。

今さらUFO?という題材の新鮮味の無さにまず興醒めするし、マルユウ・マルセイとその周囲の人々の運命をもって何を描こうとしたのかが伝わりにくい。
偶然に左右される人生の不確かさという普遍のテーマを描こうとしているようにも思えるが、それと双子のような同級生、UFOという特殊な要素の食い合わせが良くない。

途中で語り部の正体が明かされるトリックも、人称が徹底されていない印象で、鮮やかさに欠ける。

#ブクログ



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