いわゆる”就職氷河期”といわれる若年者の就職難について論じた一冊。
著者は、「イマドキの若者は…」的な教育学的或いは社会学的な視点で捉えられがちな若年者就業問題について、それが紛れもなく「雇用問題」であり、労働の「供給側」と「需要側」の双方から分析する経済学的アプローチがあって然るべきとの問題意識を持っています。
公けになっている様々なデータを基に、回帰分析などの統計的手法を用いた仮説検証により、様々なファクターの間の相関・因果関係を洗い出していく手法で研究成果がまとめられており、極めてアカデミックな内容で、この種の学術書を読んだのは久々だったのでなかなか新鮮でした。
ただし、導き出された結論にそれほど目から鱗なものはなく、既知のものが多かったです。
・所得格差や就業率、非正社員比率等のデータから、近年、若年者の世代内格差と若年者と中高年層との世代間格差の双方が拡大している傾向がみられる。(第1章)
・日本についてのこれまでの研究によれば、賃金水準や就業状態、転職行動に世代効果(学卒時の労働市場の需給バランスが、その後の就業状態や労働条件などに及ぼす因果的な影響のこと)があることが明らかとなっている。不況期に学校を卒業することで、比較的長期にわたって賃金水準や就業率が低下し、不本意就業による離職率の上昇、非正規職への就職などを経験しやすくなる。(第3章)
・日本企業の新規採用、とりわけ正社員の採用や大企業による採用において、若年者や新卒者の比率が高くなっている。日本企業が新卒者を重視する背景には「自社で人材育成を行いたい」「社内の年齢構成を維持したい」「優秀な人材を確保したい」といった企業の採用理由がある。自社独自のスキルを労働者に身につけさせることを重視する日本企業の特性が反映されていると考えられる。
そのような特性のために、不況期の日本企業は、若年層の採用を抑制するという雇用調整方法をとることが多くなる。とりわけ、長期の不況に直面した場合には、企業は「投資人材」としての若年正社員の人数を大きく減少させる。これが「就職氷河期」を生み出した主因であると考えられる。(第4章)
・これまでの研究は、中高年労働者と若年労働者が代替的な関係であることを示唆するものが多い。また、中高年の多い企業や中高年の過剰感を持っている企業では若年採用が抑制される傾向がある。そういった「置き換え効果」は、労働組合が存在する企業で強い傾向がある。(第5章)
等々。
終章のほうでは教育・訓練、政策についての提言もまとめられていますが、
城繁幸氏的な「終身雇用・年功序列をぶっ潰せ!」みたいな革新的なものはなく、マッチングを高めるだとか採用に対する助成だとか、そんな感じです。
「整理解雇の四要件」のうち「解雇回避努力」において、「非正社員の雇い止め・解雇」を外すべきではないか、という点にはちょっとだけ触れられてますが。
ちょっと面白いなと思ったのは、就職後に生じるミスマッチをどう解消するかとの文脈で、企業側での離職防止対策として「企業内訓練の強化」が一番多く挙げられるのに対して、従業員側が望んでいるのは「賃金の上昇」「休日の確保」「仕事と家庭の両立支援」などが上位になっており「企業内訓練」のランクは低いという事実が紹介されていた件り。
親の心子知らずというか、的外れというか…。