そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『宝島』 真藤順丈

2019-04-21 17:43:13 | Books
 
Kindle版にて読了。
 
戦後70数年が過ぎた現在でも、米軍移設問題で揺れ続ける沖縄。
東京からそれをあたかも「自分事」であるかの如く党派的にしたり顔で語る我々は、沖縄で暮らす人々にとってこの問題の根深さを実感することができない。
この小説は、そんな「生(ナマ)の物語」としてのオキナワを、強烈な当事者性を疑似体験させてくれる。

戦争中の悲惨な出来事、そして戦後の米軍統治下で数々発生した米兵による犯罪、米軍機墜落による大惨事、カウンターとしての暴動といった実際に起こった事件・事故や実在の人物に、小説の主人公となる「戦果アギヤー」たちが傷つきながら逞しい生命力で疾走していく生き様をk絡み合わせ、強烈なドライヴ感をもった大河ドラマが繰り広げられる。

読んでいて、目を背けたくなるような、残酷な現実の試練を浴びながら、主人公たちは島人ならではの楽観性と行動力で人生を切り拓いていく。
そのどこまでも前向きな生きる力に感動しつつ、裏腹に、島と島人たちが被り続けている不当に過酷な運命に心が暗くなりもする。

沖縄への見方を一新させてくれる社会派小説であると同時に、読む者に力を与える極上のエンターテイメントでもある。
大傑作。
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葡萄が目にしみる

2019-04-14 22:10:31 | Entertainment
昨日「ブラタモリ」を視ていたら、勝沼の葡萄畑が出てきて、また思い出してしまった。
ドラマ「葡萄が目にしみる」のことを。
 
このドラマ、Wikipediaにも記事があるが、1991年9月16日の夕方にフジテレビで放映された単発ドラマで、ペプシの単独提供によるタイアップ(ドラマの中にペプシの缶ジュースや自販機が登場する)であることも理由かもしれないが、それ以来おそらく一度も再放送されていない。
 
28年も前のドラマなのだが、まるで昨日のことのように鮮烈な印象が残っている。
カレンダーを調べると、この日は敬老の日の振替休日で、当時大学一年生だった自分は、どこかに出かけていて夕方帰宅し、何の気なしにテレビをつけたらやっていたのだ。
観始めたら目を離せなくなってしまった。
当時、デビューしたてで全く無名だった戸田菜穂の瑞々しい姿に、魅了されてしまった。
彼女にとっての初主演作品だったらしいが。
自分の中では衝撃的なくらい、良質なドラマとして記憶に深く刻まれた。
 
それ以来このドラマのことが忘れられず、心のどこかで観たい観たいとずっと思い続けてきた。
ソフト化もされておらず諦めていたのだが…
凄い時代になったものだ、思い立ってネット検索してみたら、全編を良画質で観ることができてしまった!
 
山梨のブドウ農家の一人娘である主人公の高校最後の夏休みを、同級生に対してずっと抱いていた淡い恋心を巡る出来事を通して描く。
恋心の対象となる同級生役に萩原聖人、戸田菜穂の仲良し三人組の友人に櫻井淳子(後に戸田とは「ショムニ」で共演)と大寶智子(ドラマや映画で時々見かける個性的な女優さん)、同じ高校の大人びたマドンナ的な存在の生徒役に桜井幸子(今は芸能界引退してしまったのね)が出演。
 
出演者たちと同世代の自分も当時は19歳。
アラフィフに差し掛かっている今となっては、当時と同じ気持ちで観ることはやっぱりちょっとできなかったかもしれない。
どちらかというと、主人公の父親(蟹江敬三)や母親(田島令子)の目線で彼女たちを観ていたかも。
 
シチュエーションがよいのだ。
夏の葡萄畑の美しさ、何の変哲も無い公立高校での二度と戻らない学校生活、思春期の娘を気遣う父母のさりげない優しさ、駅で待ち合わせて身近な「都会」である甲府へと出かける非日常、花火大会が近づく高揚。
すべてが素朴で、そして美しい。
手作り弁当だったり、貸した傘だったり、拾って大事に取っておいたキーホルダーだったり、エピソードはどれも他愛ないが、最後にショッキングな現実を主人公に突きつける。
切なくて心が苦しくなる、高校最後の夏休み。
だが、それも時が経てば他愛ないと笑って振り返ることができる。
そんな思い出を心の何処かに持っていれば、きっと幸福な人生を送ることができる。
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『自転車泥棒』 呉 明益

2019-04-07 22:35:21 | Books
自転車泥棒
呉 明益、天野健太郎
文藝春秋


Kindle版にて読了。

主旋律は、タイトルにもある自転車を巡る家族の歴史の物語。
主人公の、古い自転車に対する愛、熱意は、そのまま著者のものとして強く伝わってくる。
そして、主人公が自転車を探す過程で知り合う人々の記憶や言葉を通じて、台湾に住む人たちが過ごした20世紀の民族史・民俗史が立ち上がってくる。

貧しくも逞しかった台湾、日本に統治され太平洋戦争に巻き込まれた台湾、そして、日本を追うように経済成長して豊かになった台湾。
そして、現住民、自然、動物。
中でも、蝶の翅を加工した工芸品の挿話や、戦争に利用されたり犠牲となった象たちの数奇な運命は非常に印象深い。

ここで描かれる百年史には悲哀や辛苦がたくさん詰まっている。
だが、読後感は優しく、幸福感さえ味合うことができる。
不思議な小説である。
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