そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『夫婦善哉』 織田作之助

2013-08-29 23:39:50 | Books
夫婦善哉
織田 作之助


青空文庫編、Kindle版(無料)にて。
(富田倫生氏に合掌)

丁度、NHKにてドラマ版が放映されてますね(視てないけど)。
豊田四郎監督、森重久弥・淡島千景主演の映画は、だいぶ前に観た。
内容はほとんど憶えてないけど、元祖バカップルとでも云いたくなるような、二人がイチャイチャするシーンは印象に残ってます。

原作はテンポがいい。
時代が小気味よく進んでいく。
ダメ人間だと分かっていても、ズルズルと続いていく、その関係性に愛おしさを見出す。
そんなドラマツルギーの系譜。
よい意味で、大衆的。

印象的だったのは、蝶子が母の死に目に会うことができず、通夜から戻る場面の一節、

夜更けの街を歩いて病院へ帰る途々、それでもさすがに泣きに泣けた。病室へはいるなり柳吉は怖い目で「どこイ行って来たんや」蝶子はたった一言、「死んだ」そして二人とも黙りこんで、しばらくは睨み合っていた。柳吉の冷ややかな視線は、なぜか蝶子を圧迫した。蝶子はそれに負けまいとして、持前の勝ち気な気性が蛇のように頭をあげて来た。


非情なる情、の静かなる迫力。

あと、二人が剃刀屋の商いをする件りで「ジレット」という単語が出てきたのには驚いた。
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『騎手の一分』 藤田伸二

2013-08-28 23:42:35 | Books
騎手の一分 競馬界の真実 (講談社現代新書)
藤田伸二
講談社


Kindle版にて読了。


『第4章 なぜ武豊は勝てなくなったのか』

読みたかったのは、ここ。

藤田の見解を在り体に云えば、「いい馬が回ってこなくなったから」。
身も蓋もありませんな。
まあ武豊は、いい馬に乗ったら確実に勝たせる、という点で名騎手だったのだけれど。

それにしても、80年代後半~90年代~00年代前半とずっと競馬を見続けてきた身からすると、あの武豊が重賞を殆ど勝てずリーディングの下位に甘んじているということが未だに信じられなくもある。
藤田がこんな世捨て人みたいになって、騎乗数が激減しているという事実も正直知らなかった。

もはや自暴自棄になったかつての名騎手の暴露本、といった体で、藤田が岩田康誠や福永を嫌いなのはよく伝わってくるけど、大手馬主や調教師、外国人ジョッキー、エージェントを批判するのではなく「悪いのはJRA」の一言ですべて締めくくってしまうのは、まだまだ正直になりきれてないのかな、とも。
エージェント制導入なんて全然知らなかったけど、すり合わせからモジュール化へという世の流れを受けているようでいて、元・競馬記者が人脈を生かしてエージェント業をやってるなど、確かに中途半端なんだよな。

それにしても、1996年をピークにJRAの売り上げが半分近くに激減しているのはまだしも、入場者数もほぼ半減というのはかなりショッキングだった。
ダービーや有馬記念での、あの地響きが唸るようなスタンドの大歓声が懐かしい。

また競馬場に行ってみようかな。
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『「相対性理論」を楽しむ本』 佐藤勝彦

2013-08-27 21:56:32 | Books
「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)
佐藤 勝彦
PHP研究所


Kindle版にて読了。

文系人間なもので、物理学などには苦手意識とともに妙な学習意欲というか無謀な興味があって、かつてホーキング博士の本なども読んだことがあります。
そのときにも、正確に理解しないまでも、相対性理論がどんな話なのかイメージくらいは持てるようになりたいなと思ってたんですが、ちょうどよさそうなこの本の存在を知ったので読んでみることに。
入門書の入門書、くらいのレベルなんだろうけど、まさに求めていた内容で満足。
ちんぷんかんぷんだった「空間と時間の区別がない」という意味もイメージすることができました。

大きく、内容は以下3部。
1.特殊相対性理論
2.一般相対性理論
3.宇宙論

特殊相対性理論…「時間と空間」「質量とエネルギー」がそれぞれ独立したものではなく、相互に関係している。
ここについては具体的な思考実験をベースに理屈が解説されるので、考え方自体を理解することができます。

一般相対性理論…特殊相対性理論に「重力」「加速度」の概念を加えて一般化。「物質と時空」が独立せず、相互に関係している。
こちらはあまりに高度な数学が用いられているということで、詳細な理論は省略され、イメージだけが解説されます。
「加速度運動をしているものの中では『自分が止まっている』とは考えられない」なんてのは、なかなか理解しやすい説明だなと印象に残りました。

宇宙論
粗々の概略のみですが、現代にいたるまでの宇宙論の進展を一通り知ることができます。

「時間と空間と物質」なんていう通常の感覚では別モノとしか考えられないものが一つの関係式で表すことができるというのには、確かにこの本の中で云われるように「美しさ」と「ロマン」を感じる。
そんな醍醐味のさわりくらい知っておきたい、という人にはオススメです。
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八重とあまちゃんと半沢

2013-08-26 23:41:42 | Entertainment
普段テレビのドラマはほとんど視ないのだが、今期は視る時間が増えてしまっています。

『八重の桜』
昨年の『平清盛』を全話視た流れで視始めた。
序盤は、画面が綺麗なのと、八重が鉄砲の練習をするシーンくらいしか見どころないかなという印象だったけど、だんだんよくなってきたね。
会津戦争以降は本当に素晴らしい。
過去視た大河ドラマの中で一番かもしれない。
尚之助やうらとの別れは切ないし、綾瀬はるかは凛々しく、肝の据わった八重にぴったり嵌っている。
賊軍の汚名を着せられボロボロにされた会津の人びとが、明治の世に変わるや、留学したり西洋の学問を学んだりして激動の時代を生き抜いていく。
その逞しさには打たれる。

『あまちゃん』
土曜日などにちょっと視るくらいだったのが、夏休み中に毎日視て離れられなくなり、今では23時からのBS再放送を毎晩視るようになってしまった。
ちょっとした小ネタがいちいち可笑しいし、何より鈴鹿ひろ美さんが素晴らしいね。
薬師丸ひろ子を見直してしまった。
能年玲奈は魅力的だが、これだけアキのイメージが強烈に定着してしまって、今後大丈夫なのだろうか。

『半沢直樹』
職場でもやたらと話題になっているので4回目くらいから視始めた。
よく知らない人には「銀行ってこんな恐ろしいところなのか」と思われてしまっているような。
実際、銀行の人といっしょに仕事しているけど、もちろんかなりの程度デフォルメはされているものの、銀行っていう世界の生態や論理を結構うまく表現できている。
そんな生々しさも魅力の一つなんだろう。
が、出向=左遷という構図で図式化されてしまうのは如何なものか。
一般的には出向ってスキルを磨く好機なんだがね。
あとは役者陣のアクの強い演技がいい。
そんな中に壇蜜なんかがぽっと放り込まれてたりするからケミストリーがよい感じに起こる。
昨日から東京編が始まりましたが、東京中央銀行京橋支店のロケに使われていたのは日本橋の日本ビルヂングだね。
よく通る場所なのですぐに判った。
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『2030年 世界はこう変わる』 米国国家情報会議

2013-08-21 23:49:24 | Books
2030年 世界はこう変わる アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」
米国国家情報会議,谷町 真珠
講談社


米国の情報機関が予測する世界のトレンド。
大統領にもレポーティングされている内容だと。
そんなものが1000円で売られているというのも不思議な感じですが。

2030年といえば17年後、自分は還暦間近になっていて、うちのコドモらが社会に出ている頃。
そう考えると、遠いような近いような。

4つのメガトレンド(構造変化)と6つのゲーム・チェンジャー(流れを変える要素)が掲げられています。

【メガトレンド】
 1.個人の力の拡大
 2.権力の拡散
 3.人口構成の変化
 4.食料・水・エネルギー問題の連鎖

【ゲーム・チェンジャー】
 1.危機を頻発する世界経済
 2.変化に乗り遅れる「国家の統治力」
 3.高まる「大国」衝突の可能性
 4.広がる地域紛争
 5.最新技術の影響力
 6.変わる米国の役割

こうして並べてみても、あんまり明るい未来というイメージではないですね。
終末的な世界大戦争になるような恐れは無さそうだけど。

特に、欧米や日本のような成熟国家は、相対的なプレゼンスの低下や高齢化、財政悪化など混沌とした状況を否応なく迎えることになりそうで。
まあ、そんなトレンドは現時点でもすでに始まっている感はあるけど。

個人的に最も気になるのはメガトレンドの4番目「食料・水・エネルギー問題の連鎖」です。
先の泥沼の戦争に日本が足を踏み入れていったのも、資源争奪に対する脅迫観念が背景にあったわけで。
危険な香りがします。
が、一方で、こうした問題は技術的なイノベーションによってガラッと状況が一変する可能性もある。
日本の国家戦略としては、資源に関わるイノベーションにフォーカスしていくのが正解だと思うんだけどな…
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『はだしのゲン』を読んだことがない

2013-08-20 22:47:44 | Society
昭和50年代に小学生時代を過ごした世代としてはもしかしたら珍しいのかもしれないけど、自分、『はだしのゲン』って読んだことないんだよね。
いや、正確に云うと、ちょっとだけ開いてみたら、遺体から蛆がわく絵とかがあって「これはダメ」と自己防衛本能が働いてそれ以上読み進められなかったという記憶が微かにあります。
ちなみに、学校の図書室には置いてなくって、児童館にあったような気がする。

今ならもちろん読めると思うし、読みたいとも思うんだけど、もはや今更「子供時代に『はだしのゲン』を読む」という体験をすることは不可能なんだよね。
なので、世間を騒がせている今回の件について、なんら実感を伴うコメントが出来なくって少々さびしいのだけれど、一般論として残虐描写や性描写のあるマンガを『はだしのゲン』だから許容するってのはダブルスタンダードのような気がするな。
どんなに残虐であっても、あらゆるマンガは開架OKというのなら一貫しているのだけれど。

なお、極東ブログさんによれば、『はだしのゲン』第4巻までは週刊少年ジャンプに連載された子供向けのものだったけれど、それ以降は子供の読まないような雑誌に掲載されたものだとか…

松江市教育委員会による「はだしのゲン」学校図書室閉架問題について(極東ブログ)

〔コミック版〕はだしのゲン 全10巻
中沢 啓治
汐文社
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『赤猫異聞』 浅田次郎

2013-08-09 16:09:03 | Books
赤猫異聞
浅田 次郎
新潮社


明治元年の年の瀬、徳川幕藩体制が崩壊し、明治新政府への移行がまだ落ち着かない混乱の江戸が舞台。
大火事が起こると牢獄の囚人たちを解放する「赤猫」という慣習により縄を放たれた三人の大物囚人を巡る物語。

明治に入った数年後、司法省の役人が当時の関係者に事情聴取をするという設定で、各登場人物による独白文といった形式で小説は進んでいくのですが、各々のキャラクタに合わせた生き生きとした口上が見事の一言で、著者の筆力には感心させられます。
江戸から明治へ、社会が大きく変わる時代感や、牢屋同心という下級役人の悲哀など、考証的な部分でも興味深いところが多く。

が、物語自体は大して面白いものではないので、口上が見事な分、やや冗長さを感じてしまったのも事実。
個人的に、人情モノはあまり好みでないというのもありますが。
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『マンションは10年で買い替えなさい』 沖 有人

2013-08-04 23:35:31 | Books
マンションは10年で買い替えなさい 人口減少時代の新・住宅すごろく (朝日新書)
沖有人
朝日新聞出版


自分たちで住むためにマンションを買うことを「投資」として捉えるという視点で書かれた指南書。
そういう視点で深く考えたことはあまりなかったので、目からウロコなところも多々ありました。

要はこういうこと。
例えば、5000万円のマンションを、自己資金1000万円、借入(住宅ローン)4000万円で買ったとする。
10年住み続けて、その間借入返済により元本を1300万円減らした時点でマンションを売却したら4200万円で売れた。
売却して得たキャッシュで残債2700万円(4000万円-1300万円)を一括返済すると、手元に1500万円残る。
即ち、10年前1000万円だった自己資金が1500万円に増え、これを次の自宅購入の頭金にすることができる。
自宅物件の値下がり額をローン元本返済額が上回れば、売却時手元に残るキャッシュは増えることになる。
これを繰り返していけば「わらしべ長者」のように「住宅すごろく」を進んでいくことができる…というお話。

こう書くと錬金術みたいだけど、もちろんそんな旨い話はありません。

最初の頭金(1000万円)と元本返済額(1300万円)を足したら2300万円。
で、手元に残るのは1500万円なので、ちょうど物件値下がり額である800万円(5000万円-4200万円)分、トータルではお金を失っている。
しかもこの他にローン金利も払っているのでけっして儲けているわけではない。

ただ、もし元本返済額以上に物件が値下がりしてしまっていたら、売却したときに手元に残るキャッシュは当初より減ってしまう。
そうすると住み替えることは難しくなり、一度買った家に一生住み続けるしかなくなってしまう。

要するに、マンションを買う際には、値下がりしにくい物件を選ぶことが肝要。
また、住宅ローンは繰り上げ返済などにより元本を早く減らしておいたほうがよい、ということ。

自分で住む場合、ローン金利は優遇されるし、ローン減税もある。
どうしたって金利は出ていくことになるけど、仮に賃貸に住んだとしても賃料を払わなければならないので、「住む」という便益を考えれば、投資用マンションを買うよりも「自宅に投資する」という考え方をもったほうがよい、と。

なるほどなーと思ったのは、人生のステージによって最適な住まいの要件は変わる、ということ。
結婚して子供が生まれる前なら2LDKくらいで十分なのが、子供が生まれて大きくなると部屋数が必要になってくる。
が、子供が独立して家を出て夫婦だけで老後を過ごすことになれば、そんなに広い家は必要なくなる。
その時々に最適な住環境に合わせて住み替えていくのが合理的であるという考え方には肯かされます。

一方で、人口減時代を迎えた日本では不動産価格がどんな場所でも右肩上がりになっていくわけではない。
上記のように手元キャッシュを増やしていけるような物件選択をしないと、住み替えようにも元手が無く、今の家に一生住み続けるしかないということになりかねない。
物件にも寿命はあるので、老朽化のリスクを抱え続けていかざるを得ないという事態にもなりかねない、というわけです。

ライフプランを考える上で重要な視点を与えてもらったと素直に思いました。

著者は、住まいサーフィンというサイトを主催していて、本著の中でも再三紹介されています。
このサイト、7年前に自分が住まい探ししていたときにもよく利用させてもらったもので、いいサイトだとは思いますが、本著の中で「あらゆる物件の査定が公開されている」みたいにアピールされているのはやや誇張かと。
載っていない物件もたくさんあるように思います…
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