そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『ザリガニの鳴くところ』 ディーリア・オーエンズ

2024-07-08 23:03:00 | Books
著者ディーリア・オーエンズの本業が動物学者であるということに、まず驚かされる。小説家としてのデビュー作で、こんなにも壮大で奥深く完成度の高い作品を生み出してしまった。終盤は、ページを繰る手を止められなくなる。


その一方で、この小説は、動物学者である彼女だからこそ書くことができのだとも強く思う。


青年の不審死を巡るミステリを縦糸として通しながら、家族に捨てられ天涯孤独となった主人公の少女のサバイバルストーリーが骨太に語られる。


崩壊した家族の悲壮、共同体における理由なき差別の醜悪、救いの手を伸べる善意の尊さ、思春期における異性への押さえきれない欲望の純粋さと残酷…人の世における苦しみと希望が多面的に描かれると同時に、湿地の環境に溶け込んで暮らす主人公は、生き物たちと交流する中で、人智を超えた自然の真理を学び取っていく。その見地からすれば、所詮人間の営みやエゴなど、人の意識が生み出した幻想でしかないと思えてくるのだ。


この崇高さ。

格の違いを感じさせてくれる小説だ。

 #ブクログ




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