そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『かたみ歌 』 朱川湊人

2023-06-29 23:11:00 | Books

『かたみ歌 (新潮文庫)』の感想

昭和40年代頃を中心とした時代、都電が走る下町のアーケード商店街がある街を舞台に、生と死の間を行き来する不思議な体験を軸にした連作短編の構成。

昭和50年代に子供時代を過ごした自分からすると少し前の時代で、どんぴしゃノスタルジーを感じるには今一歩なのだが、人と人の距離が今よりも近かった素朴で小さな世界の雰囲気はよくわかるし、伝わってくる。

ハートウォーミングな筆致の中に、人の世の業が織り成す、今となってはやや生々しく感じられる件りも所々に盛り込まれる。令和の時代の日本社会の深層にも生き続けるウェットな人間関係の負の側面を意識させられ、やや重く感じられたというのが正直な印象。

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『終りなき夜に生れつく 』 アガサ・クリスティー

2023-06-17 18:51:00 | Books
読んでも読んでも、なかなか話が進まない。
ようやく半ば過ぎくらいで、ミステリらしい点がになるが、淡々としたペースは続き、気づけばページは残りわずか30頁ほど。
おいおいどうすんねん、と思っていると、驚愕の展開。

…というか、これはちょっと裏ワザすぎるのではないか。
ミステリのルールを逸脱しているというか。
改めて初めのほうを読み返してみると、けっして矛盾してはおらず、それだけ巧妙にはできているのだが。
セオリーを外れすぎていて、自分は興醒めしてしまった。

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『騎士団長殺し』 村上春樹

2023-06-11 21:21:00 | Books
(以下、全4巻通じてのレビュー)

過去作との共通点というか、焼き直しのような点が少なくない。
雑木林の石室は『ねじまき鳥クロニクル』の井戸を彷彿とさせるし、地下の世界へ迷い込む件りや、第二次大戦での暴力、夢の中での性行といった要素もいくつかの作品で出てきている。
秋川まりえのキャラクタは、『ねじまき鳥…』の笠原メイと『1Q84』のふかえりのブレンドのようにも思えるし、「免色」は『色彩を持たない多崎つくる…』をどうしたって連想してしまう。そもそも、彼のような、どうやって暮らしているのかわからないとんでもないお金持ちってキャラも、村上作品には必ずといっていいほど登場する。

この小説で、新規性があってユニークなのは、主人公が絵描きを生業としていて、絵を描くプロセスや絵描きの頭の中を、小説の表現として見事に結実させているところ。これには感心させられた。

特に前半部分のオカルトっぽさの発揮も村上春樹にしては珍しい。深夜に鈴の音が聞こえるあたりは背筋が冷たくなる肌触り。「白いスバル・フォレスターの男」のサスペンス性も印象深い。

#ブクログ



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『プロレス深夜特急: プロレスラーは世界をめぐる旅芸人』

2023-06-03 12:59:22 | Books

『プロレス深夜特急: プロレスラーは世界をめぐる旅芸人』の感想

この本を読んで改めて思った。プロレスは、真にユニバーサルな文化なのだなぁ、ということを。

思い返せば、自分が子供の頃観ていたプロレスでも、サーベル振り回して暴れるインドの狂虎や、火を吹くアラブ人や、ド派手に空を飛ぶ千の顔を持つ男や、多くの魅力的で怪しい外国人レスラーがリングを彩っていた。
肉体がぶつかればシンプルに、痛みが、感情が伝わる。そこに言葉の壁などない。

「プロレスラーは世界をめぐる旅芸人である」

プロレスという「芸」を携えて、TAJIRIはプロレス後進国を含む多くの国々を訪れる。
お国柄、食文化、生活水準はそれぞれ異なっていても、プロレスを通じて、選手たち、観客たちはすぐに一体となる。
プロレスという共通言語が多様性を飲み込んでいく様が、とてもエキサイティングだ。

米国や日本のプロレスに憧れ、自国のプロレス文化をゼロから立ち上げようとしているプロレス後進国の選手たち。彼らを指導するTAJIRIの語るプロレス哲学がまた魅力的だ。

「キャラクターっていうのはシンプルに『この人はこういう人なんだな』と、すぐさまその性質を理解できる。そして『何を願っている人なのか?』がわかりやすい、そういうのがキャラクターなの」
「キャラクターを紹介するためのツールとして技を選択していくのよ」
「それがね、プロレスはガチで願っていることが、なぜか見ている人にもジワジワ伝わる。そういう特殊な一面を持つ不思議なジャンルだとオレは思うんだよ」

大好きなことをやって、人と繋がって、継承していく。なんとも羨ましい人生だと思う。

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『学びを結果に変えるアウトプット大全』

2023-06-03 12:57:00 | Books

『学びを結果に変えるアウトプット大全 (サンクチュアリ出版)』の感想

読書好きは、基本的にインプット好きだと思う。自分も御多分に洩れずインプット大好き、知識欲旺盛なのだが、本来インプットというのは手段でしかなく、インプットしたものを何らかの形でアウトプットしてこそ、本当に身になる。ここにこうして感想を書いているのもアウトプットそのものなのだが、ついつい面倒になって怠りがちなのである。

さらに言うと、アウトプットすることも本当は目的ではなく手段であるはず。著者は、アウトプットすることで交流が生まれ、時にはそれが仕事(稼ぎ)に繋がることを強く意識していることが伺われる。

そう、その方がきっと人生は豊かになる。わかっちゃいるけど、つい面倒になってしまう。その思考を変えて定着させるためにも、この本は継続的にパラパラとめくってみるのがよいかもしれない。

#ブクログ



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