そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『奥のほそ道』 リチャード・フラナガン

2019-02-17 14:40:43 | Books
奥のほそ道
リチャード・フラナガン、渡辺 佐智江
白水社


第二次大戦中日本軍のオーストラリア人捕虜として過酷な生活を送った著者の父親の実体験をベースに書かれた小説。
軍医として従軍し、日本軍の捕虜となって泰緬鉄道の建設部隊に配置された主人公の回想形式。
タイトルはもちろん松尾芭蕉の著作から引かれたもので、本作にもところどころで俳句が登場する。

重い。
第二次大戦中の日本軍捕虜を描いた作品としては『戦場にかける橋』『戦場のメリークリスマス』、或いは戦争の悲惨さを描いた作品では『西部戦線異状なし』『ジョニーは戦場へ行った』(いずれも第一次大戦だが)などを読んだり観たりしてきたが、レベルが違う。
究極まで地に堕ちた衛生状態、その中で押し付けられる理不尽、あまりに軽く無造作に失われていく生命…しかもその「加害者」が日本人であるということから受ける重苦しさ。
いや、重苦しさなどという表現も適切ではないかもしれない。
人間という生き物が極限状態に置かれた時に、どのようになってしまうのか、そのリアリティがただ哀しく、そして深刻に響いてくる。

終戦後、故国に帰還したオーストラリア兵士、そして日本軍の上官のその後も描かれるが、本書に糾弾のトーンは窺えない。
ただただフラットなのだ。
だからこそ重く、静かで、厳粛。
その感覚が、芭蕉に回帰する。
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『IQ』 ジョー・イデ

2019-02-11 14:09:06 | Books
IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョー・イデ、熊谷 千寿
早川書房


Kindle版にて読了。

「サウス・セントラル・ロスアンゼルスのシャーロック・ホームズ」との触れ込みに惹かれて読んでみた。
正直、どこがホームズやねん、という気はしたが、よい意味で裏切られた感。

映画なんかでよくみる西海岸のスラムの壮絶な、それでいてどこか明るさを失わないコミュニティを背景に、単純には語りつくせないトラウマを抱えた主人公の複雑な精神性が、相棒とのこれまた複雑な関係性と絡みながら、重層的に、テンポよく立ち現れていく。
ここにあるのは正義や理性ではなく、やるかやられるか、生き抜くためのサバイバル。
その過程で悪を討つ、ピカレスクな世界観。

白眉は、モンスターサイズの猛犬による襲撃場面の迫力ある描写。
犬がらみの場面は、どれも獣の臭いが紙面から沸き立ってくるような臨場感がある。

これはシリーズものになるのだろうか。
次作にも期待したい。

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『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』 三戸 政和

2019-02-03 20:02:14 | Books
サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門 (講談社+α新書)
三戸 政和
講談社


Kindle版にて読了。

個人M&Aのススメ。

それなりの規模の企業で管理職としての会社人生を歩んできた会社員が、定年あるいは役職定年を迎えて、大組織に属さない第二の人生をどう歩もうか考える場合、ゼロイチで起業しても現実的には成功率はきわめて低い。
(本書では、特に飲食業での起業の困難さが詳細に語られる)
そこで、既に実績のある中小企業を買って経営者になるという選択肢が浮上する。

いきなり素人が小さいとはいえ知らない会社の経営などできるのか、という疑問もわくが、大規模企業の管理職として長年のマネジメント経験を積んだ人間であれば、中小企業の経営を行うことはそんなに難しいことではない、むしろその経験が アドバンテージになると著者は言う。
10年以上存続した中小企業であれば、一定の安定飛行ができている一方、その経営は時代遅れでずさんなことも多く、経営のやり方がよくないためにそのポテンシャルを業績につなげられていない会社はたくさんある。
管理職としてのマネジメント経験に基づき、当たり前に行ってきたことを適用するだけで経営が革新されてしまうものなのだ。
一方で、事業は順調でも後継者不足のために会社をたたまざるを得ない中小企業はたくさんあり、そこに出資して経営を引き継いでくれるのなら、中小企業の現経営者の側からみてもウェルカムな話。
純資産ゼロで売上高1億円、営業利益500万円の会社なら1500万円もあれば、純資産・売上高が同じで営業利益100万円の会社ならそれこそ300万〜500万円で買えてしまう、と。

著者自身が、中小企業の事業承継や事業再生に係る投資ファンドを生業にしているとのことで、その分は割り引いて考えた方がよいかもしれないが、書かれていることは合理的で、まさに本書のターゲット読者層にジャストミートな自分としては心動かされるものがある(笑)。
会社を売りたい経営者と買いたい個人をマッチングするサイトなんかも既にあるようで、本書も結構売れたみたいだから買い手の競争もこれから激しくなっていくのかもしれない。
まあ、ホントに買うかどうかは別として、いろんな中小企業を探してみるのも社会を知るよい機会になるかなと思うし、その結果としてよい会社を見つけることができたらこれに勝る幸運はないなという気はする。
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