そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『爪と目』 藤野可織

2014-05-30 22:36:57 | Books
爪と目
藤野 可織
新潮社


昨年芥川賞を受賞した表題作、賛否両論されている人称の使い方については個人的には特によいとも悪いとも思わなかったが、エゴイズムを薄ら寒さを感じさせるリアルさで描く人物造形は結構好きだな、と思いながら読み進めた。

が、なんだろうね、この出来損ないのホラーみたいなオチは。
神秘的だった空気が一気に低俗化したような。
わからんわ、このセンス。

表題作以外に収録された短編2編も同じようなB級ホラーの香りがして。
こういうのが好きな作家さんなんだろうな…
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『仕事に効く教養としての「世界史」』 出口治明

2014-05-29 23:12:27 | Books
仕事に効く教養としての「世界史」
出口治明
祥伝社


Kindle版にて読了。

ライフネット生命社長の出口さんの著作。

タイトルに「教養としての」とあるが、出口さんの教養の深さには驚かされる。
なんとこの本も参考文献に頼ることなく、これまでに見たり聴いたり読んだりして、ご自身で咀嚼して腹落ちしたことをまとめて書いたものだとのこと。
これこそが本当の「教養」だよな、と思う。

広く深い理解のもとに書かれているだけに、単なる「知識」のレベルを超越して、「史観」の領域にまで達している。

例えば、「文字はどの文明でも発明されるが、その文字を何に書いたかということが実は大きい」と。
紙のように長く残るものに文字を書いた文明では、歴史が後世に残ることが予想できるがために、君主の行動が変わる。
いい政治をしようとする、と。
そんな視点で歴史を眺めたことなどこれまでに全くなかったので、まさに目から鱗。

宗教・思想を軸に中国史と西洋史を俯瞰し、そしてそれらにまたがるユーラシアの大きな流れを遊牧民による侵攻という縦糸で貫いていく。

こういう大きく大きく引いた視野で歴史を眺めれば、西洋中心主義の歴史教育も相対化されていく。

出口さんの史観にのみ読者が染まることは本意ではないのだろうけれど、繰り返し読んで理解を深めていきたい気にならされる一冊であります。


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『なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか』 青木高夫

2014-05-12 23:06:34 | Books
なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか ルールメーキング論入門 (ディスカヴァー携書)
青木高夫
ディスカヴァー・トゥエンティワン


Kindle版にて読了。

HONDAの社員として通商・税制などの業界ルール作りに携わってきた著者が、国際社会における「ルール」に対する欧米人・日本人の態度や考え方について論じた一冊。

論考のポイントなるのは「ルール」と「プリンシプル」の違い。
「ルール」は、考え方の違う人・組織の間の”決めごと”であり、状況に応じて変えるもの、他律的なもの。
「プリンシプル」は、考え方の同じ人や組織の中に発生し、状況に左右されず、自律的なもの。
兎角日本人はルールは不変なもの、守るべきものと捉えがちだが、実はその考え方自体が日本人の間でしか通用しないプリンシプルであり、異なるプリンシプルを有する外国人に押し付けるべきではない、と。

一方で、スポーツ界やビジネスの世界で、日本人からみると不当に感じられるルール変更を欧米から押し付けられた数々の事例を振り返りながら、「そのルール変更が何をもたらしたのか」を紐解いていくと、我田引水なルール変更はルールを押し付けた側に必ずしも成功をもたらしていないことを指摘していきます。

日本人は、もっと積極的にルール作りに参加するべきである、と。
そしてルール作りに参画する目的は、けっして自己の利益をゴリ押しすることにあるのではなく、「社益」と「公益」のバランスを取ることが肝要である、と。
よく言われる「目線を高くする」とは、このことを指すんですよね。

「あとがき」において、ルールとプリンシプルを語る事例として憲法改正論議が挙げられているのはなかなか興味深かった。
改憲論者も護憲論者も、ルールを変えるとプリンシプルが変わるという視点で語っているのは共通のように思う。
本当は、様々な内外の環境変化から「プリンシプルを変える」ことへの要請が高まりつつあることの方が本質で、その逆ではないと思うんですがね。
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『戦略課長』 竹内謙礼、青木寿幸

2014-05-05 22:38:09 | Books
戦略課長 (PHP文庫)
竹内 謙礼,青木 寿幸
PHP研究所


Kindle版にて読了。

老舗の紙袋メーカーに勤める若き女性課長がロボット上司からの薫陶を受けながら成長を遂げる、という荒唐無稽な設定で展開される小説風ビジネス書。

採り上げられる題材は、
・新規事業計画
・株式投資
・事業資金調達
・不動産投資
と、多岐に渡るんだけど、いずれも理論をブレイクダウンしていくと「リスク」と「リターン」の分析という共通項に収斂していくんだよね。
その辺を噛み砕いていくロボット上司の講釈が実に見事なんですよ。

個人的には、事業計画や不動産投資についてはある程度の予備知識があったのだけれど、株式投資と事業資金調達はあまり馴染みがない分野なので興味深かった。
特に、リスクは固有リスクと市場リスクに分けることができて市場リスクのみがリターンを生み出すことに繋がる、という話はかなり深いなーと感じました。

著者の二人は、経営コンサルタントと公認会計士だそうなんだけど、感心したのはこの本が単純に読み物としても面白いということ。
キャラクター造形と軽妙なダイアログがヘタな小説なんかよりずっと面白いんだよね。
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