そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『ネクスト・ソサエティ』 P・F・ドラッカー

2015-06-29 23:04:22 | Books
ネクスト・ソサエティ
P・F・ドラッカー
ダイヤモンド社


Kindle版にて読了。

2000年前後に雑誌などに発表された文章やインタビューの記事起こしを収集した一冊。
ということは15年も前に書かれたものなのだが、『ネクスト・ソサエティ』の名の通り、現在まさに実現したり直面したりしている事象を予言として言い当てているところも多く、今更ながらその慧眼には驚かされる。

特に、eコマースが世に与える影響、「配達が最大の差別化の武器になる」だとか、「これまで生産と呼んでいたものが調達になる」だとか語られているあたりは、Amazonがここまで世を席巻することなど想像もつかなかった時代の言葉であることが信じがたいほど。

また、「手にするデータは増えたが、ほとんどが組織の内部についてのものである。外部の世界についての情報は、分類もされなければ定量化もされない。」「あらゆる組織にとってもっとも重要な情報は顧客ではなく非顧客についてのものである」といった件りは、ビッグデータ時代を予見しているかのよう。
そして「今日では、命令と管理の及ばない組織や人間の力を借りなければ事業を行えなくなった」というあたりも、今日のダイバーシティ経営のあり方を先取りしている。

そんなドラッカーが、都市社会に欠落したコミュニティを創造するにあたって期待していたのがNPOの存在であった。
この点については、現時点では必ずしも彼の予言通りの未来が実現しているとは言えないが、単にその途上にあるのかどうか、今後の推移を注目していきたい。
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『終の住処』 磯崎憲一郎

2015-06-27 22:19:04 | Books
終の住処
磯崎 憲一郎
新潮社


『電車道』の磯崎ワールドが割とよかったので、遡って芥川賞受賞作の本作読んでみることにした。

思ってた以上に観念的で、読みやすい小説ではない。
まあ『電車道』も決して読みやすくはないのだが。

赤の他人だった男女が出会って結婚して所帯を持つ。
そのことに根源的に潜む「闇」を寓話的に表現していると感じた。
自分の身に照らして恐ろしくなるとか、身につまされるとかは全くなかったけど。

切り口としては面白いけど、小説としてはやや技巧に走りすぎていてイマイチかな。
巧いのは巧いんだけどね。
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『電車道』 磯崎憲一郎

2015-06-14 11:41:41 | Books
電車道
磯崎 憲一郎
新潮社


明治から大正・昭和・平成へ、変わりゆく日本の「風景」を百年にわたる群像劇で描く。
軸に据えられるのは、鉄道敷設と宅地開発。

だがそのテーマは直截的には主張されない。
文体も個性的だ。
章の区切りもなく、いつの間にか場面と時代と登場人物がシームレスに切り替わっていく。
その流れに身を任せているうちに、自然とテーマが浮かび上がってくる。

人々の生活(養蚕農家、丁稚奉公)、娯楽の在り方(リゾート地、映画)、そして震災と戦争、復興。
メインの舞台となる「高台のまち」は、成城学園がモデルなのかなとも思った(東宝の映画スタジオも近いし)が、学園創立者のプロフィールを考えるとある程度モデルにはしていたとしても、実話に基づいているわけではないのだろう。

表紙の装丁もとてもよい。

磯崎ワールドを堪能できる一冊。
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救命ボートのジレンマ

2015-06-12 23:25:42 | Politcs
本日の日経新聞朝刊「経済教室」で、小林慶一郎・慶大教授が「救命ボートのジレンマ」という概念を紹介していた。

「救命ボートのジレンマ」とは、ある集団が危機に瀕していて、その中の少数(一部)の者が不利益を自発的に甘受する自己犠牲的行動をとれば、残りの全員が利益を受ける状況のこと。


(日経新聞紙面を撮影)

まあ、よくある状況ですね。
先日観た映画『サンドラの週末』なんかもまさにこの状況だったな。

で、通常の政治的意思決定では、このような状況を「多数決で決める」ことにより解決することになる。
もちろんそのためには「多数決で決める」ことについて、利害関係者全員による合意が必要。

ところが、まさに「救命ボードのジレンマ」状態である日本の財政問題は、将来にわたる世代間の利害が衝突しているがために多数決で負担の分配を決めることが原理的にできない。
何しろ不利益を被るかもしれない将来世代はまだ生まれてもいないのだから。

この問題は、日本の財政問題に限らず、現代の民主政国家すべてが抱える内在的欠陥であり、個人主義的自由主義の欠陥でもある、と。

うーん、まさにその通りなんだよね。
個を滅して全体に奉ずる集団主義は、全体主義に通じるのでまったく好きではないのだけれど、個を主張しすぎて皆が破滅しないだけの賢さは持ちたいものです。
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『夜また夜の深い夜』 桐野夏生

2015-06-07 22:25:31 | Books
夜また夜の深い夜
桐野 夏生
幻冬舎


過去に読んだ桐野作品でも、劇中小説を手法として採ったものはあったので、手紙形式で物語を進行させていく本作の形式には違和感はないのだが、その形式がさほどの効果を生んでいるとも思えない。
主人公の少女の数奇な境遇や、リベリアとモルドバ出身の2人の孤児少女たちとの逃避行活劇は、それなりに高揚させられるものはある。
が、終盤明らかにされる主人公の母の正体も、あまり新味がなく今更感あり。
むしろリベリア出身少女が語る、壮絶な生い立ちにこそがこの小説の白眉なのかもしれないが、いかんせん登場人物の独白という形でセリフで処理されてしまうのが惜しい。
やはりここは小説家の言葉で語って欲しいところだ。

桐野ワールドへの期待は大きいだけに、これくらいだとちょっと物足りないというのが正直な印象。
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