「ヴァカンスは神聖」

 12日の『クローズアップ現代』はCPEをめぐる混乱の経緯を紹介していました。
 EUの「リスボン戦略」がフランスの労働市場の改革を迫り、ドヴィルパン首相が中小企業向けに実施した政策が拡大されてCPEに至ったのですが、首相の諮問委員会のエリック・コーエン氏が登場し「多くの国が雇用対策に取り組んできましたが、フランスだけがそれをできませんでした。問題はただひとつ、国民が受け入れるかどうかなのです」と言っていました。

 さてこの番組のポイントは「普通のフランス人の豊かさ」だったと思います。
 今回の問題で抗議活動に参加したリール大学二年生の家族が紹介されたのですが、

「休職中も(給料の)8割」「出産手当×4人」「20歳まで家族手当」「(3人以上子供のいる家庭を対象にした)20%以上の減税」「有給休暇は5週間で完全消化」
という話が並び、お母さんは
「休暇は最低5週間、わたしはこれ以外に3週間休むことが出来るんです」
と無邪気にのたもうわけです。 (^_^;)

 キャスターの国谷裕子氏が「フランスでは職があれば、ほんとうにすばらしい、豊かでゆとりのある生活ができる、思わずため息が出てしまいそうなんですけれども・・・」と感想を述べるのも無理はありません。

 このゆとりある生活のおかげでフランスの出生率は先進国では有数の高さになっていること、また今回のデモ、ストなどの活動についても、このように人々が直接的に意思表示ができるということの良さも指摘され、東京外大の渡邊啓貴教授の

「矛盾の中で次のステップへ進む、そういうことではないか」

という言葉が番組の締めになっていましたから、これはいちおうフランスを好意的に扱った番組と言ってよいかと思います。
 それでもやっぱり、朝から晩まであくせく働かざるを得ない日本の視聴者の心に残るのは

「労働者がこれだけ贅沢やってりゃ、国際競争力は落ちるのが当たり前だよな」

ってことになると思いますね。うらやみの心と、でもグローバル化の波が来ているわけだし、そろそろそういうのあきらめないといけないんじゃないの、という一種からかいの気持ちとがあると思います。政府に頼り過ぎなのでは、という印象も受けるでしょう。

 今の制度が次の世代にも受け継がれてほしいというのが登場したリールの家庭の人々の願いのようですが、一部に手厚すぎるといえる社会保障のあり方はこれから見直さないわけにはいけないように思います。
 でも、これもフランスに生活したことのある人なら当然お気づきと思いますが、この国はずいぶん税金が高い、つまり国庫を通過するお金の率が非常に高い国で、政府の政策の影響力が大変大きい。その分起業精神旺盛な人々には足かせがかけられたようで嫌でしょうね。これは基本的に自由主義で発展した英米に続くナンバーツーが自己防衛のスタイルとして長年つちかってきたもので、そう簡単に変わるものではないと思いますが。国民も、なんというか生活を政府との駆け引きの上に成り立たせているようなところがあって、このスタイルもなかなか変わらないでしょう。
 皆様はいかがお考えでしょうか。


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分かりやすい対立図式:もうひとつだけ

『地球特派員2006』からもうひとつだけ。
 しつこいかもしれませんが、日本人の世界認識の一番の弱点に関わることだと思ってますので、繰り返し述べます。

 「分かりやすい対立図式」のエントリーに出てきたシテのアフリカ系の若者の言葉を省略せずに書きますと

「シテで育つということは、人種差別と共に生きるということなんですよ。それはもう規定の事実で、受け入れてやっていかなければならないんです。わたしにも白人の友達はいます。でも彼らははじめからいい家に住んでいますが、有色人種のわたしたちは汚い団地に住んでいるんです」

となります。
 わたしはJeune Afrique l'Intelligentの報道(3)の最後のところの、元来中産階級だったFrancais de soucheが格差社会で没落してシテ周辺に流れ、アパルトヘイト社会が広がった、という分析があたっていると思うのですが、ぜんぜんフランスに行ったことのない日本の人が『地球特派員2006』の提示に接したら、いつも同じ言い方で恐縮ですが、白人ばかりとイメージされた「フランス人」が全員一枚岩となって、シテ出身の肌の色の違う移民系の人たちを十把ひとからげに露骨に差別する、それがフランス全土のどの場面に行ってもある、というイメージを思い浮かべると思うのです。

 そういう風になっていない、というのは少しフランスに暮らしたら誰でも分かることですし、生活してしばらく経ったら、日本でどんなことを想像していたかさえ忘れてしまう、そういうものだと思うのですが、でも実際に体験してみないと分からないことです。フランスの社会というのは日本とずいぶん違うので、良心的な解説を得ながらゆっくり理解しないといけないものだと思います。

 もっともこんな報道もされるようになってきてますね。やっぱりわたしにはフランスはかつてないほど悪い状態みたいに思えます・・・
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