退屈日記

とりあえず日々のつれづれを。

「流行歌への愛情と分析」について

2013-05-09 02:47:50 | Weblog
晴れ。おだやか。

輪島裕介「創られた『日本の心』神話 『演歌』をめぐる戦後大衆音楽史」を読む。

新書というのは売るためにどうしても「刺激的なタイトル」を付けるので
むしろ副題が内容をよく示していることに注意。

「演歌は日本の心」というのはそうでなく昭和四十年代に「創られたもの」だと。
ただし広義における「演歌」は「西洋音楽を採り入れた反応」でもある模様。

個人的には幼い頃に「流行歌など聞いてはいけない」と言われた記憶があり
それは「子ども」にとって「よからぬもの」だという考えがまだ残っていたせいだろう。

そうした「戦後の進歩思想」に対して
敢えて「土着」という形で「艶歌」を書いた五木寛之がいたり竹中労がいたり。

「革命思想の名残り」がそうしたものを生み出したらしい。
なるほどいかにも1960年代後半から70年代にかけての雰囲気ではある。

「演歌」という言葉はそもそも明治期の「演説の歌」であることは知っていたが
添田唖蝉坊・知道親子の語る「歴史」にはかなり「偏り」があることは知らなかった。

著者の採り上げている楽曲とそれに関するさまざまな著作への目配りは相当なもの。
無理矢理「結論」を出さずに終わるあたりもこれならば好ましい。

阿久悠が「昭和歌謡」を象徴する存在に祭り上げられる「危険性」を指摘するあたりの
「複雑なものを複雑なままに」という姿勢もグッド。

「流行歌の歴史」を語る上では「必須参考文献」だと言っておこう。
ただしこの「労作」が売れているかどうかは定かではない。

「創られること」への敏感さといたずらに「反駁」することのないこの「冷静さ」は
ある種の「爽快な謎解き」とあいまってよく出来た「エンターテインメント」になっている。

とにかく「従来にない切り口」であることは確か。
心ある者は読んでみるべし。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする