ピッコロ便り

ピッコロシアター、県立ピッコロ劇団、ピッコロ演劇学校・ピッコロ舞台技術学校など、劇場のトピックをご紹介します。

ピッコロSide Story(3) SENDAI座☆プロジェクト公演

2011年09月29日 | piccolo side story

杜の都・仙台は、演劇の都でもある。 

仙台市は1997年から『劇都仙台』を掲げ、様々な画期的な演劇事業を展開してきた。しかし、震災後、市内の多くの劇場・劇団が被災し、公演が難しい状況にある。

そんな仙台から、SENDAI座☆プロジェクトを招き、9月23・24日にピッコロシアター中ホールで「十二人の怒れる男」(作=レジナルド・ローズ 新翻訳=宮島春彦 演出=伊藤み弥)の上演が実現した。12人の陪審員が少年の犯罪を裁くハリウッド映画の名作としても知られる法廷劇だ。

なにもない空間に、役者たちが舞台装置の会議テーブルとパイプ椅子を運び込むところから芝居は始まった。シンプルな空間は「何もなくなっても芝居を立ち上げるのだ」という強い意志表示に感じられた。役者同士がぶつかり合うような迫力あるやりとりに、観客はぐいぐいと惹きつけられ、濃密な2時間10分が終演。深々と頭を下げる男たちに客席から熱い拍手がおくられた。

中央:陪審員第8号役の樋渡宏嗣さん

 

初日のカーテンコールで、SENDAI座☆プロジェクト代表の樋渡宏嗣さんは「言葉になりません」と声を詰まらせた。同じく代表の渡部ギュウさんが「やっとここまできました。普通に芝居ができる幸せを感じています」と挨拶すると、再び大きな拍手が沸き起こった。

「これだけ力のある役者がいることを知って、東北とのつながりを持てた思いがする。こういった状況でも演劇や文化は力を持つのだと思えた」(40代・男性)

「今を生きる私たちに何か強烈なものを訴えかけてくれた」(60代・男性)

「とても感動した。たくさん考えるきっかけをいただいた。“観る“という形で東北の支援につながるのは素晴らしいこと」(女性)などなど、観客から多くの感想が寄せられた。

作品の良さはもちろん、男たちそれぞれの魅力を引き出した演出、生き生きと演じる個性的な俳優たち、傷つきながらも懸命に創造しようとする、人間の根源的な姿に共感と感動が広がったように思う。


(左から)ピッコロ劇団員の孫高宏、渡部ギュウさん、伊藤み弥さん

23日終演後のアフタートークで、演出の伊藤み弥さんは「役者だけでどこまで空間を造れるか、人がいれば何とかなる!という実験をした」と、演出意図を語った。

伊藤さんは、震災を機に結成された『ARC>T』(アートリバイバルコネクション東北:仙台の演劇人が中心となってアートによる東北復興を目指す団体)のメンバーでもある。「ピッコロ劇団さんの阪神・淡路大震災での『被災地激励活動』の記録誌を読んだ。被災地で何かできないかと考えていた私たちの教科書になった。震災を経験した兵庫の皆さんが、こうして元気に芝居を観に来ていることが、私たちの励みになります」と話した。

『阪神・淡路大震災と兵庫県立ピッコロ劇団の活動記録』

先月8月19~21日、ピッコロ劇団員の亀井妙子・本田千恵子・森万紀・山田裕の4名と劇団職員が仙台を訪ねた。仙台市内の児童館で子ども向けの演劇ワークショップを行い、『ARC>T』のメンバーや地元の演劇関係者と被災地の子どもたちに届ける演劇プログラムを検討し、今後の協働の展望について話し合った。

仙台市太白区・大野田児童館でのワークショップ

今回、東北で活動する演劇人のパワーに出会えたことは、同じ地方都市で創作する私たちの励みにもなり、大いに刺激される貴重な体験となった。大震災を経験し、あらためて「演劇の力」を見つめ直した仲間同士として、これからも学び合い、刺激し合い、連携と交流を深めてゆきたい。  

                                                                        (業務部 古川知可子)