名神西宮IC付近の国道43号線と阪神高速3号神戸線の公害責任裁定
藤本千恵子
兵庫県西宮市今津の西宮インターチェンジ周辺に居住する12名は、国道43号線と阪神高速3号神戸線からの車の走行による公害被害に対し、令和4年7月に公害等調整委員会へ「公害責任裁定」を申請しました。事件番号は公調委令和4年(セ)第4号西宮市における高速道路等からの騒音・振動・低周波音・大気汚染による健康被害等責任裁定申請事件です。
申請人は12名(代理人後藤隆雄氏を含む)からなり、被申請人は国と阪神高速道路会社です。
1.公害紛争の処理のしくみ
公害紛争の迅速・適正な解決を図るため、司法的解決とは別に公害紛争処理法に基づく「公害紛争処理制度」があります。
公害紛争を処理する機関には、各都道府県には「公害審査会等」が、国には「公害等調整委員会」が置かれていますが、都道府県公害審査会等は裁定を行わないため、私達は公害等調整委員会へ申請しました。
2.裁定とは
裁定とは、公害等調整委員会の委員から構成される裁定委員会が、民事紛争としての公害紛争について法律判断を行うことにより、紛争の解決を図る手続きです。
裁定には2種類あり、「原因裁定」と「責任裁定」があります。公害に係る被害が発生した場合、「原因裁定」は加害行為と被害との因果関係の存否について、「責任裁定」は損壊賠償責任の有無・賠償額について、法律判断を行う手続きです。
今回は「責任裁定」なので損害賠償を求め、その項目は、ア建物補修費用、イ治療費・薬代・通院交通費、ウ慰謝料です。また、委員会が「精神的苦痛」として、工事が始まっていない「名神湾岸連絡線の工事・供用による不安」の記載を認めたことは、申請人にとって大きな意味をもちます。
また、「民事訴訟」は解決まで多くの時間と費用が掛かるのに対し、「裁定」は標準処理期間(約3年)が設定されており、申請手数料が民事調停の約4分の1で経済的負担が軽減される利点があります。しかし、因果関係の解明のため資料の収集や調査を全て申請人らが行わねばなりません。騒音・振動・NO2・PM2.5・降下ばいじんの計測は後藤隆雄氏(神戸大学)ご指導のもと行い、「名神湾岸連絡線を考える会」からは計測の資料の提供を受けました。また、低周波音の測定は西名阪自動車道の香芝高架橋問題科学調査団であった翁長博氏(元近畿大学准教授 騒音制御工学)に依頼いたしました。
申請人と被申請人らの準備書面の提出はそれぞれ7回に及び、2回の電話会議が申請人らと被申請人らに行われました。
2年半経過した頃、委員会より現地調査と審問期日を行うとの連絡が入り、令和6年12月5日に委員会による「現地調査」が、翌6日には、国・阪神高速道路会社の出席のもと、申請人らに対して「審問」が行われました。
3.現在調査では
5日の現地調査は「現地の状況の確認」を目的とし、申請人らの自宅等の状況を確認し、申請人本人から直接話しを聞くことを重視されました。
専門委員2名を含む委員会10名が各申請人宅を一軒一軒、徒歩とタクシーを乗り継ぎ、一人約10分程度で、道路と居宅の距離や被害状況の確認、及び室内の被害の発生している箇所を確認し、必要に応じて写真撮影もしました。
同行した阪神高速道路会社の代理人弁護士からは、平成10年(1998)3月の国道43号・阪神高速道路公害調停の和解内容の確認がありましたが、申請人らはこの調停での利害関係人ではないことを述べました。
現地調査日の直前に郵送されてきた何十項目にも及ぶ質問に対して回答した後、委員から、必ず「何か他に言いたいことがありますか?」と聞かれ、ここで「名神湾岸連絡線の工事・供用後の被害」を訴えました。
また、西宮市が管理する大気観測局「津門川6」と移動測定車による「今津社前町」の測定地点への説明は西宮市環境保全課の職員が、国が管理する大気常時観測所「西宮インター交差点局」への説明は、メンテナンスを行っている業者が行いました。
3.審問では
翌6日の審問では、各団体からの「冒頭に申請人側からのプレゼンテーションを希望したら良い。」とのアドバイスがあり、プレゼンテーションが許可されました。5分間という短い時間であったため、申請人らが強く被害を訴える「早朝5時台の国道43号線と阪神高速3号神戸線を走る大型車の様子(19箇所)」は、事前に動画で道路端や歩道橋から撮影し、委員会・国・阪神高速道路会社へUSBメモリーで送付しました。
審問では、申請人らがこれまでに提出した主張書面や証拠を確認し、前日の現地調査での質問と回答内容が再度確認されました。前日の現地調査へは被申請人らの同行は不可であったため、国・阪神高速道路会社の職員は初めて前日の内容を知ることとなり、録音不可であったためか、必死でメモをとる姿が印象的でありました。
審問は公開され、多くの支援者たちや神戸新聞阪神総局から取材が入ったことは、申請人らにとって大変心強かったです。
今年に入り委員会へ問い合わせしたところ、「現地調査と審問日のことを報告書にまとめ記録化し、職号証として申請人と被申請人へ送付する。今後の進捗は示せる時期が来たら連絡する。」とのことです。
申請人らには弁護士がいないため、今後どのようになっていくのかは全くわかりませんが、今までの運動において、報われることがなかった申請人らにとって、今まで受けた被害と名神湾岸連絡線から受けるであろう被害の両方を述べる場面を得たことは、努力がひとつ実ったと言えます。
今後もご支援を宜しくお願いいたします。
【投稿日 2025.2.8.】
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