坂本龍馬は英雄か国賊か?
国際的視点から
藤井隆幸
はじめに
何だか唐突な表題ではある。中身がなくとも、読者に興味を持たせる方法として、週刊誌などが良く使う手法。くだらないか否かは、皆さんで評価願いたい。
歴史に興味がない方でも、坂本龍馬の名を知らない日本人は少ないように思う。彼を有名、そして英雄にしたのは、司馬遼太郎だと聞き及んでいる。物語の主人公を、英雄に仕立て上げるのは別に構わない。が、それに乗っかって、行過ぎたご当地自慢になったり、商業目当てに煽り立てるのは如何なものか。
NHKの大河ドラマで、徳川家康が主人公になると、豊臣秀吉や織田信長は悪人に仕立て上げられる。また、反対の事も起こっていたりした。作り話であるから、良しとしよう。が、視聴者はそこそこ真実として受け止めるきらいがある。
その昔、足利尊氏が主人公の大河ドラマがあった。当然、彼は英雄に仕立て上げられた。ところが、戦前の絶対主義的天皇制の教育を受けた人たちには、違和感があったものと感じている。足利尊氏は南北朝時代に、後醍醐天皇に刃を向けたということで、国賊という汚名を着せられた教育を受けていたからである。
歴史に誤解を持っていても、現代生活に支障はないように感じる向きもあろう。しかしである。そんな風潮に惑わされて、現実生活に迷っているのは災難ではある。
明治維新は何であったのか
さて、坂本龍馬である。最初に断っておくが、歴史に詳しいわけでもなく、司馬遼太郎のように勉強を深くしたわけでもない。あくまでも、槍玉に挙げやすい人物であっただけで、良くも悪くも思っているわけではない。
日本は島国ということで、近代にいたるまでは、国際的な情勢に巻き込まれることが多くなかったように思う。それはアメリカ大陸やオーストラリア大陸、それにアフリカ大陸が、植民地侵略される前の現地人らと似ているのではないか。反対に、ヨーロッパ大陸は、常に支配者が入れ替わり、国際的荒波にもまれてきた地域である。常に国際的感覚を持たざるを得なかったものと考える。
日本では江戸時代の後半には、鎖国を解き開国を求める、列強帝国主義国の圧力が加わる。その中で開国に向かい、急速に軍事帝国主義化を推し進めることになる。その端緒に、「明治維新」という出来事があった。これをめでたいことととらえる向きが多いのは事実だろう。その名を冠した政党が出来たのではある。
幕末の出来事を殆ど、日本人の動きだけで語られることが殆どである。しかしながら、欧米列強は東アジアの殆どを植民地化し、残る日本を標的にしていたことは間違いない。現代軍事技術では、島国を制圧することは簡単なのかもしれない。が、江戸時代の日本は、世界最強の軍事国家だったと聞く。上陸しても、一夜にして殲滅されることは、欧米列強も心得ていたものと考える。それに、識字率などは欧米列強に劣らなかった。
そんな日本を陥れるためには、内紛を起こさせるのが良いと考えられたのではないか。漁夫の利である。イギリスは薩長連合に加担し、フランスは幕府に加担した。両者が争ったのは、ご存じの通りである。
龍馬については色々と説がある。本当のところは迷宮入りというところか。とはいえ、脱藩した浪人が軍艦を持ち、何十人もの社員を食わせるのは、如何にして可能となったのか。様々疑問が生じるのではある。イギリスのスパイであったのかも……。
浦賀に黒船を乗り込ませたペリー提督は、本国の南北戦争で幕末の介入に後れを取った。ヨーロッパでもクリミア戦争があり、戦後処理で日本どころではなかったのかもしれない。日本が植民地にならなかったのは、幸運な世界情勢の中であったという説もある。
世界情勢の中で、「明治維新」を考えてみると、多くの日本人の思いとは乖離があるのではないのか。
現代日本社会の国際的視点
話は現代社会に戻り、身近な生活問題に言及したい。世界はグローバリズムの極限で、日本国内にだけ目を向けていても、自らの生活を規定しているものが見えない。ところが、政治の世界では国際情勢が、よそ事以上に語られることがない。
幕末に外国人の裁判権を放棄させられた、いわゆる不平等条約。その撤廃に成功するのは、半世紀を過ぎた明治になってから。それが戦後の米軍に、またも復活しているのである。
日米合同委員会というものが、毎年行われているが、日米地位協定を名目に、日本の行政の殆どに影響を与えていると言われている。この委員会、アメリカ側のトップは太平洋軍副司令官で、日本側は外務省北米局長なのだ。
貿易摩擦で公共事業を世界で異例の規模にさせたり、最近は軍事費をGDPの2%にせよとの圧力が。口の悪い人は、日本人は自らの生活の為には3割、アメリカのマネーゲームに吸い上げられるのは5割の労働をしている、と言っている。
政治の世界で、このことに切り込む話は、あまり出てこない。日米地位協定には、米軍基地からの新型コロナ・オミクロン株の蔓延など、多少の意見があるのだが。
ウクライナ情勢とキューバ危機
ところで、東ヨーロッパがきな臭い。マスコミではロシアがウクライナに進駐しそうだと大いに騒がれている。プーチンに味方するわけではないが、余りにも一方的だと感じている。
かつてキューバ危機というのがあった。ケネディー大統領は戦争も辞さないと、キューバの上空に戦闘機を飛ばした。当時は大陸間弾道ミサイルがなく、中距離ミサイルだけであった。ソ連が中距離ミサイルをキューバに持ち込んだのだ。喉元にミサイルを持込まれたアメリカは、慌てたのだが。そもそも、イタリアとトルコに中距離ミサイルを先に持ち込んだのはアメリカであった。
当時、ホットラインと言って、米ソに直通電話が開設されていた。ケネディーとフルシチョフは電話で話し合い、双方がミサイルを撤去することで事なきを得たのである。
今回、NATO(北大西洋条約機構=アメリカ中心の軍事同盟)がウクライナに、ミサイルを持込む下地を作ろうとしていることに起因する。モスクワ近傍にである。バイデンはキューバ危機の事を失念してしまったのか。
台湾有事が何を意味するのか
ウクライナは対岸の火かもしれないが、台湾はお隣の話。中国本土は台湾の経済に大きく依存している。台湾とて同じこと。最も有事を忌み嫌うのは、両者であることは間違いない。
ところが、お隣の家庭内の問題を、ことさら介入しようという輩がいる。そう、アメリカである。ウクライナも台湾も遠い他国だからなのだろう。その尻馬に乗っかって、事を荒立てようとする日本政治家がいるのは、驚きなのである。
台湾有事は米軍が出張らないと有り得ないことだ。そうなると、日本は戦争に巻き込まれることになる。戦闘とは別問題でも、日本の最大貿易相手国の中国と、事を構えて得をすることは100%ありえない。壊滅的被害である。自立国であれば、中台に対して平和であることを求めるのが筋であるのだが。
なんだか、台湾有事を望んでいるような発言が、有力政治家から飛び出すのは何ということか。国民が、それほど反発していないのも不思議なのだが。本当は、怒り心頭を通り越しているのかもしれないが……。
生きていれば、坂本龍馬に聞いてみたい気がするのだが。はたして、彼は何というのだろうか。
【投稿日 2022.2.17.】
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