日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

〈70年代の100枚〉№67 ~ 天才ポールが“ソロに架けた橋”

2009-04-18 | 洋楽
サイモン&ガーファンクルが7月に16年ぶりの来日公演をおこなうそうです。「70年代の100枚」を語る上で、彼らの最高傑作と言えるこの大ヒットアルバムに触れずにやり過ごす訳にはいかないでしょう。

№67 「明日に架ける橋/サイモン&ガーファンクル」

1970年音楽ジャーナリズムがビートルズ解散騒動に揺れ動いている最中、サイモン&ガーファンクルはこのアルバムで全米チャートをにぎわせていました。しかしながら、過去最大の大ヒットの陰にあったものは、不協和音を表にもらさぬギリギリの緊張感。実は彼らもまた60年代の終わりと共に静かに解散への道を歩き始め、そんな中制作された最後のアルバムだったのです。

A1のタイトルトラックは、彼らの代名詞とも言える誰もが一度は聞いたことがあるであろう、ポピュラー・ミュージックの最高峰です。ソロをとるアート・ガーファンクルの澄んだ歌声は、サイモン&ガーファンクルをイメージする際に真っ先に頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。ポールが作った楽曲の素晴らしさと、アートの見事な歌唱が最高の形で実を結んだものであると言っていいでしょう。

この曲の素晴らしさ故、どうもタイトル曲ばかりが注目されがちなのですが、実はこのアルバムを名作たらしめているのはもっと他の部分にもあるように思います。例えば、アルバム全体を通して展開されるアーティスト、ポール・サイモンの才能の開花を感じさせる様々なトライアル。A2「コンドルは飛んでいく」における南米音楽との接近やA3「いとしのセシリア」での民族音楽風なリズム・ミュージックの試みは、その後彼がポピュラー音楽界に大きな功績を残した「グレイスランド」や「リズム・オブ・ザ・セインツ」といった作品でのアプローチを、すでにこの時着手したものとして注目されます。その後のスカリズムのいち早い導入や、各民族音楽と融合アプローチの原点は、間違いなくこのアルバムあるのです。

さらに、彼の最大持ち味である元来のメロディ・メーカーとしての資質やこれまで以上に洗練されたポップセンスもソロ的アーティスティック感覚で味わうことができます。B2「ベイビー・ドライバー」やB3「ニューヨークの少年」などは、ほとんど彼のソロに等しい楽曲で、ここではポール・サイモン単独パフォーマンスの奥行きの深さを十分感じさせてくれます。こうした観点からアルバムをトータルで見ると、アートの“エンジェル・ボイス”に印象付けられる従来の優等生ポップデュオ的イメージに加えて、ポールのソロ的アーティスティックな側面を付加することで、結果として一層スケールアップした印象の「名盤」に仕上がったのではないかと思えるのです。

思いきったポールのソロ的展開が施された背景には、彼らの解散の一因ともなったアートの映画出演がありました。すなわちアートがレコーディングになかなか参加できなかったがために、ポールはやむなく部分部分ソロに近い形での制作を敢行したのです(B3「ニューヨークの少年」やB4「手紙が欲しい」はその時のポールの心境を綴ったもので、特にB3はこのアルバムの制作背景と解散への流れを決定づけた思いが語られた名曲です)。偶然の流れと、それに起因する崩壊に向かうギリギリの緊張感に支えられた天才のパフォーマンスが生みだした傑作であるとも言えるでしょう。

アルバム、タイトル曲はそれぞれ10週、6週全米ナンバー・ワンを記録する大ヒットとなります。ちなみに、タイトル曲の他ではA2「コンドルは飛んで行く」A3「いとしのセシリア」B1「ボクサー」がシングル・リリースされ、それぞれ18位、4位、4位のヒットを記録しています。翌71年のグラミー賞ではアルバム、シングルダブル受賞の快挙を成し遂げ、結果的にこのまま解散となった彼らに有終の美を飾らせる形となったのでした。

その後も何度か再結成のコンサートやツアーがおこなわれていますが、スタジオ・アルバムは一切発表されていません。80年代に途中まで制作したもののうまくいかず頓挫したことをみても、ポールの才能がこのアルバム制作を機にアートとかけ離れてしまったことが原因であるに違いありません。その意味では、素晴らしくも悲しいアルバムでもあるのです。
拙稿→http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/c/9a4d723e18078130280fef5ade888db8/4

最後に、このたびの日本公演。例によって「最後のツアー」という触れ込みで、ちょっと心が動かされます。でもよりによってドームとは…。東京ドームでS&Gはないと思うなぁ。せめて武道館でしょ、ウドーさん。武道館での追加公演発表を期待します!