日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

売れ筋ビジネス書<ブックレビュー>4・20号

2009-04-20 | ブックレビュー
★「仕事の見える化/長尾一洋(中経出版1300円)」

最近とみに増えてきた「見える化」関連書籍。「見える化」は小職の専門領域なので、この類のビジネス書は出れば必ず読むようにしております。最近、日経の2面下に出ていた大きな広告によれば「たちまち増刷」とか。売れてるようです。

さて中身ですが、結論から申し上げると提示している方法論は実践的であるように見えて実のことろ全く実践的でない、そんな印象です。言っていることは至極正論で、本当にこの通りに徹底できれば間違いなく効果は得られるのでしょうが、この通り実践できる企業がどれほどあるのかという点でいささか疑問符がついてしまうのです。

本書の中で盛んに出てくる、“目玉仕掛け”とも言えるメールでの「見える化日報」は、皆に役立つ情報ツールとしてメールでの「日報」を上席だけでなく、関係担当者にも見えるように一斉同報通知して、意見交換、情報の共有化をはかろうというもの。具体的には、本人の日々の記録と1社1枚の情報を「日報メール」で皆に見えるようにして、上席からの意見、同僚からのアドバイス、関連部署からの情報などを得られる状態、すなわち「見える化」して情報の活性化をさせるスキームなのです。

この手法の問題点は、まずメールというやり方で直属の上席以外の皆が果たして見るかと言う疑問。そんな多くのメールが各人に入るのはむしろ“迷惑メール”状態な訳で、見ずに捨てられるのがオチではないのかなと…。この先には、皆が見ない以上意見は出ないだろう、という疑問も。さらに効果的な教育コメントを上席がどの程度返せるかということ。自身のコメントが衆目にさらされるとなれば、仮に読んでいる者が少ないと思ってもかなりのプレッシャーはあるでしょうから。要するに、これらのハードルをすべて越えられるなら、有効な「見える化」手段ともなるでしょうが、それができる組織はよほどスタッフが訓練され組織が活性化された一部の大企業に限られるのではないかと思うのです。中小企業はそんなに“甘く”はないですね。

著者はNIコンサルタントなる企業のトップですが、本論はコンサルタントが机上で考えた「見える化」手法であり、理論的に正しくとも中小企業独自ではほとんど役に立たない手法であると思われます。実はNIコンサルティングというのは、この手の「IT日報」システムを売るシステマチック経営コンサルティング会社であり、長尾氏はこれまでにも「すべての見える化で会社は変わる(実務教育出版)」「IT日報が営業チームを強くする(同)」など、本書類似の記載内容を記載し自社システムのPR目的と思われる著作を複数出しています。要は、今回もあとがきにあるように同社のシステム&コンサルティング・セールスが大きな目的であるわけなのです。

「机上論だ」などと言おうものなら、「当社システムを採用しコンサル契約をしていただければ机上論で終わらせません」との反論が返ってくるんでしょうね、きっと。

10点満点で5点。「日報」に至る前の冒頭部分で書かれている「見える化」の考え方は良いお話なので、赤点ではありません。“見える化本”には厳しくてすいません。