日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

小田急百貨店の不景気に勝つ見事な対消費者心理作戦

2009-04-23 | マーケティング
今月デパートで始まった「下取りサービス」がちょっとした話題になっています。

先鞭をつけたのは小田急百貨店。22日までの「婦人靴下取りキャンペーン」の好評を受けて現在、「靴とバッグの下取りキャンペーン」を開催中です。これは、同店で買ったものに限らず、紳士靴、婦人ハンドバッグ、スポーツシューズであれば、状態、ブランドにかかわらず下取りしてくれるというもの。一人5点までですが、1点あたり8400円以上の買い物時に1枚づつ使える1050円の商品券を引き換えにもらえるそうです。前回キャンペーン期間の売り上げは、昨年同時期対比で約2倍の実績をあげたそうです。

このキャンペーンには数多くの消費者心理効果を巧みに操った仕掛けがなされています。まず注目は「下取り」という言葉です。「状態にかかわらずOK」ということは、自宅内で捨てる運命にあったものでも価値が生まれる、言ってみると消費者にとっての新たな「価値創造」に他ならないのです。さらに小田急が素晴らしいのは、同店のキャンペーンが「お買い上げ」が条件ではない点。「お買い上げ」が条件で「下取り」をする店は他にもあるのですが、「お買い上げの際に下取り」とすると買い手には実質「値引き」の印象が強くなり、まんま新たな「価値創造」にはつながらないのです。

「捨てる運命のモノ」が「価値創造」してくれたなら、「なんか買っちゃおうか」となるのが消費者心理です。しかもこの商品券の有効期限は5月19日ということですから実質1か月弱なわけで、「次にいつ来れるか分からないから、無駄にしないよう今日使っちゃおう」となる訳です。この1か月弱の有効期限というのも、実に心理的に絶妙な期間設定ですね。これが有効1週間だと心理的価値効果は半減しますし、3か月だと「次回使用」に回されて忘れられる確率も高く、売上貢献度は下がるでしょうから。

もう一点、この「下取り」品の行き先ですが、エネルギー的再利用すなわち「リサイクル」されるという、不況下のキーワードになりつつある「エコ」に連なる点も注目です。今の消費者はうますぎる話は疑ってかかるぐらいに賢くなっていますから、「そんなモノ下取りしてどうするんだろう?」という疑問符は常に付きまとい、その回答の有無がけっこう重要だったりします。つまりこの点が不明確であると「なんだ結局は実質値引きか、相当利幅があるんだな」と直結する訳ですが、今回のように現在の“免罪符”的キーワードである「エコ」を背景ににじませることで、実際には「値引サービス」であってもそのイメージへの直結をしにくくする“目くらまし効果”が潜んでいる訳なのです。

8400円以上の買い物に使える1050円の商品券ということは、まあ1回平均1万円の買い物に使ったとして、要は「1割引セール」と同じ訳です。「1割引セール」をチラシ等でPRしても全く消費者は反応しないであろうこのご時世ですが、同じ「1割引き」でも「下取り」だったら売上2倍というこの不思議。まさに、消費者心理を巧みに操った見事なマーケティング戦略であると思います。

この小田急百貨店のキャンペーン成功を受けて、ライバル各社も同様のキャンペーンに乗り出すようです。大丸東京店はスーツの下取りで「スーツフェア」で使える商品券と引き換えるとか。いくら小田急で売り上げが伸びてはいても不況下で財布のヒモが固いのは変わらずです。二番煎じの戦術でどこまで効果があるのかは、少し疑問ですね。不況を乗り切れるか否か、この先も続く“流通生き残り戦争”は、先手先手で消費者の気持ちを掴むマーケリング力の差が雌雄を決するように思っています。