日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

<音楽夜話>熟したリンゴ~「ザ・ビートルズ」

2008-01-14 | 洋楽
昨日のツェッペリンの2枚組名作「フィジカル・グラフィティ」を聞いていて、改めて2枚組アルバムをリリースする時のアーティストのパワーの凄さを実感しました。

そんな訳で<音楽夜話>では、2枚組の話をしばらく続けたくなりました。
となれば、まずは何と言ってもビートルズ。俗に「ホワイト・アルバム」と言われる「ザ・ビートルズ」を語らぬ訳にはいかないでしょう。

高校時代から、私のビートルズ№1アルバムとして聞き続けています。一般的に「サージェントペパーズ…」や「アビーロード」あたりが最高傑作と言われることが多いのですが、果たしてどうでしょう。

「サージェントペパーズ…」は確かにロック界初のコンセプトアルバムと言われ、「楽曲の寄せ集めのお徳用盤=アルバム」だったものを、アルバムの存在意義をただしたという功績は多大なものがあったと思います。しかしながら、個々の曲の水準はと言えば、悪くはないもののまだまだ発展途上にあり、「最高傑作」とまではいかないとも思います。「ア・ディ・イン・ザ・ライフ」の素晴らしさは認めますが…。

一方の「アビーロード」。ビートルズ最後の輝きという点では、確かにいいアルバムです。ただ、個人的にはA面の素晴らしさは認めるものの、評論家氏が昔から絶賛するB面のメドレーはあまり好きではないですね。ジョンも生前、「アビーロード」のB面のメドレーはガラクタの寄せ集めみたいなもんだ」と言っていました。確かに解散間際のドサクサに作りかけの曲の断片を、ポールとジョージ・マーチンが無理につなげたと言った感が強く、どうも違和感を覚えてしまうのです。

この間に位置する「ホワイト・アルバム」は、まさに奇蹟のアルバムです。4人の個性がむき出しになってぶつかり合い、ものすごいパワーを持って聞き手に迫ってきます。確かに4人のソロの寄せ集めのような印象もあり、バンドとしてのビートルズは果たして感じられるのか、疑問でもあります。それでも、このアルバムに凝縮された4人のエネルギーはすさまじいものがあり、そのことがこのアルバムを素晴らしい出来栄えにしているのは間違いないのです。

この個性むき出しのアルバムを制作したこと、激しくぶつかり合ったことが、結果的に彼らの解散につながったのだと思われます。このアルバムは、それまで4人を束ね、うまく調和をさせて、個性が正面からぶつかり合わないようにしてきた、マネージャーのブライアン・エプスタインの急死を受け、4人の手で初めて作られたアルバムでした。もしエプスタインが生きていれば、「ホワイトアルバム」はなかったのかもしれません。エプスタインの死によって、個性対個性の対決は必然の流れとなったのです。

中でも、このアルバムのジョンはものすごいことになっています。
「グラス・オニオン」「ハピネス・イズ・ア・ウォームガン」「ヤー・ブルース」「セクシー・セィディー」…。明らかにこれまでのジョンとは違う作風というよりも、これまでのジョンをさらにひとまわり大きくしたような作品の数々は、まさに我々の知るジョン・レノンその人の「誕生」と言ってもいいと思います。それは、恐らくヨーコ・オノとの出会いにより、ジョン+ヨーコ=ジョン・レノンとして初めて創作活動をした、前向きなエネルギーのなせる業だったのではないでしょうか。

ポールも個性溢れる、彼ならではの名曲を数多く書いています。「ブラックバード」「アイ・ウイル」「へルター・スケルター」「バック・イン・ザUSSR」などなど、こちらもまた、ヨーコと組んだジョンへのライバル意識が、素晴らしい創作パワーを生み出していたように思います。

そして、ジョージは名曲「ホワイル・マイ・ギター…」と「サボイトラッフル」を、リンゴも初のオリジナル「ドント・パス・ミー・バイ」を書き下ろしました。
こうして、パワー分散役のエプスタイン亡き後の4人は、個性をぶつけ合うことで不出世のスーパーバンド「ザ・ビートルズ」を見事に因数分解して見せたのです。

このアルバムの発展形が、完成された4人組ビートルズとしての最終作「アビーロード」のA面であると思います。
「アビーロード」のA面では、4人は個性を体現しつつも、ビートルズとしてひとつにまとまって名曲たちを次々を聞かせてくれます。ジョンの「カム・トゥゲザー」ジョージの「サムシング」ポールの「オー・ダーリン」リンゴの「オクトパス・ガーデン」…。60年代にしてこれだけ完成されたバンドとしてのビートルズを聞かせることは、ある意味腐りはじめの熟しきったリンゴにも近い状態だったのです。すなわち、ここに極まり解散は必然の流れだったのでしょう。

したがいまして、腐りかけのリンゴ状態の最終傑作「アビーロード」につながる「ホワイト・アルバム」は、まさに熟しつつあったリンゴ状態、最高の状態のビートルズを体現するアルバムなのです。