日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ブルーレイを勝利に導くか?永ちゃん的“いいオヤジ”の魅力度

2008-01-08 | マーケティング
突然ですが、「オヤジ」って単語は蔑みの言葉でしょうか?

確かに、「オヤジくせぇ~」とか「オヤジ入ってる」とか、モロに「オヤジじゃ~ん」とか…。どうもここ十年ばかりは、お世辞にもほめ言葉ではない使われ方がほとんどで、もはや「オヤジ」は皆、忌み嫌われる象徴になり下がった感がありました。
そんな中で、一昨年の「ちょいワルオヤジ」という新語の登場は、待望久しい、オヤジでも“いいオヤジ”には復権のチャンスが与えられる可能性あり、とのわずかな希望の光を感じさせてくれる出来事でありました。

そんな土台もあってのことでしょうが、この冬のCMで“いいオヤジ”として“オヤジ株”を急上昇させてくれたのが、「永ちゃん」こと矢沢永吉です。

事の発端は、次世代DVD「ブルーレイディスク・デッキ」の12月ボーナス商戦での売れ行きが、予想外に好調で品薄状態が続いたことにあります。どうも、これにはSONYブルーレイ・デッキの矢沢のCMが大きく貢献したようであると、マーケティング業界で大評判になっているのです。

低価格化がいくらか進んだとは言え、まだまだ高額家電の次世代DVD機器。これを所得にある程度の余裕があり、AV機器に関心が高い中年男性層を購入ターゲットとして狙いを定め、矢沢をイメージキャラクターに据えたSONYのCM展開が想定外に大あたりしたというのです。六十路を迎えなお一貫して通すツッパリキャラが、一緒に年を重ねた彼より一世代若い“オヤジ層”の絶大な支持を得た結果のようです。

永ちゃんは、若い頃はどちらかと言うと「カッコつけのツッパリ」で、中身を感じさせない軽薄さにも似たムードが災いして、暴走族などの特殊な層からの熱烈な支持はあったものの、そのことが一般的な支持を集めにくくして万人受けを遠ざけていました。
当時の同年代のアーティストとの比較で言えば、吉田拓郎あたりの方が、「等身大の男らしさ」が受けて、一般的な男性層から圧倒的な支持を得ていたように思います。私個人も永ちゃんはどうでもよかったのですが、拓郎に関してはレコードを買ったりコンサートに行ったりかなりのファンでした。

ところが、年を経てみると、拓郎の“急激な角の取れ方”や若い頃からは想像もできない“大衆媒体への迎合化路線”、加えてその迫力を欠く風貌の変化は如何ともしがたく、昔を懐かしむ対象ではあっても、当時の「憧れの兄貴」的存在からは大きくかけ離れてしまったのでした(彼を襲った病との闘いも大きく影響をしているとは思いますが…)。

一方の永ちゃん。あの永ちゃん一流の物言い、臭いほどのカッコつけのスタイル、その臭うような風貌、マスメディアとの独自の距離感、どれをとっても昔のまま。「本物は続く、続ければ本物になる」との格言のもあるように、40年来一貫した「永ちゃんスタイル」は、今や男の色気を感じさせ芸術の域に達したとも言えるほど。我々「永ちゃん弟世代」から見れば、一般的にも十分カッコいい存在になってしまったのでした。今や、「不良性不変の魅力」という意味では、あのローリング・ストーンズとも相通じる「カッコいいオヤジの鏡」であります。

その彼に、「そのDVDの矢沢はハイビジョンじゃないの? テレビはハイビジョンなのに…」「もったいない」と一言。我々世代には強烈なインパクトですね(あの独特の言い方での「ブルーレイ」の発音がまた、耳に残るというよく練られたCMです)。
でおそらく、
→商品メインターゲット層たる我々世代がこのCMに引っ張られる
→「来年のオリンピックあたりには検討してもいいかな」の予定が早まる
→ついつい「ブルーレイ」を買う
この流れが、予想外のボーナス商戦での“ブルーレイ旋風”を巻き起こしたのは違いないところです。

迎え撃つ、東芝陣営を中心としたもう一方の次世代DVD、HD-DVD陣営は、両陣営の商戦の天王山は次の夏とみたか、商品投入、CM戦略ともかなりな出遅れ感がありました。
そもそも商品化前の下馬評では、現行DVDも再生できるHD-DVDデッキ陣営有利と言われていた戦いですが、この冬の永ちゃんの活躍で一気に逆転された感が強くなりました。

イメージキャラクター戦略にはイメージキャラクター戦略で対抗し、永ちゃんを凌駕するキャラクター戦略を展開することこそが、巻き返しのポイントになるでしょう。強烈なイメージ戦略で先行された場合、後追い側が別の戦略でかわそうとするのは、イメージでの敗戦を認めた形になり「負け組イメージ」が定着して命取りになりかねません。

最新のニュースでは、ワーナーに続いて「パラマウントがHD-DVD陣営から離脱か?」、との報道も流れています。これも“永ちゃん効果”?
次の一手で負ければ、後がなくなる可能性もあるだけに、東芝陣営が果たして誰を起用してくるのか興味津々です。

ひとつだけ言えること。東芝さん、年とともに‘劣化’する拓郎タイプはおやめになった方がよさそうですよ。