日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“ささやき女将”のリカバリー会見と今後の焦点

2008-01-28 | ニュース雑感
船場吉兆、件の“ささやき女将”。先般、ブログで苦言を呈しましたところ、社長就任会見をおこない、意外なほど上手なリカバリー・ショットを決めました。今度は、何がどう良かったのか、検証しつつ不祥事対応の参考にしてみましょう。

まず、私は前回ブログで、「民事再生法申請ならびに社長就任」の発表時に、新社長本人が会見に登場せず、弁護士任せにしたことを一番問題視しました。そして開かれた21日の会見。私の忠告通り、“ささやき女将”が会見場に登場しました。

今回の会見登場では、前回の大失態を受けて、なかなか勉強をしてきたなと思わせる部分が見受けられました。まず、服装、化粧。これは、努めて地味になりました。前回は普段のままの“女将化粧”とも言える、まあ女将の風格を匂わせるような水商売的つくりでした。今回はどこにでもいる70代の“働く老婦人”と言った感じで、これなら合格。やはり、反省の色を見せるには、普段がどうであっても「有事」を意識してるとの意思表示を、まず服装や化粧で表現することが肝要です。

次に会見の質疑応答。基本は、ごまかさない、嘘をつかない、黙らない。とにかく質問を真摯に受け止め答える事です。言い訳はしない。感情的にならない。努めておとなしく、反省の色をうかがわすべく物静かな語り口で(声が小さすぎるのはNG)…。顔の角度も大切です。特に背の小さい人は上向きに話をしがちですが、これは不遜に写る場合があるので要注意(あえてそう見えるアングルを狙って撮る場合もあります)!逆に、常に下を向きすぎるのは、何かを隠している印象になります。この点も含め、今回の受け答えはまずます合格でした。

特に、記者連中はわざと嫌な質問や、意地悪な質問、場合によっては故意に怒らせようという意図が見え見えの質問を浴びせてきます。絶対にこの挑発に乗ってはいけません。乗ろうものなら、その部分だけを取り出して「反省の色なし!」とか書かれるのがオチですから。

今回も、予想通り件の「ささやき会見」について質問が出されました。これにも女将は、「精巧なマイクで一語一語、聞き取れるということを存じませんでした」という、さらりとかわす上手な受け答えでした(質問をはぐらかすことのうまい回答例として、大物政治家先生や官僚トップなどの会見はかなり勉強になりますよ)。

さらに、会見では経営陣を抜きにして社員だけの質疑応答の時間も設けられました。もちろん、経営が人選したものであると分かっていても、経営陣が横で“ささやく”ことすらできない状況で社員の会見をさせるというのは、前回の“尻拭い”としては格好の設定であったと、なかなか感心させられました。

そして何より、会見後のマスコミあしらい。翌日の営業再開時も含め、女将はとにかく逃げることなく、避けることなく、少しでも多くのマスコミの取材に答えていました。これこそ、まさに不祥事対応マスコミ対策の極意です。とにかく、来るものは拒まず、正直に何でも答え対応することが一番の信用回復&イメージ・アップなのです。

これだけ“ささやき女将”として知名度が上がった人物ですから、高感度さえうまく持ってこれれば、こんなに良い広告塔はありません。営業再開後は、連日予約で一杯とか。女将が各部屋を回って必ずお詫びと来店御礼の挨拶をしているそうですから、きっと話の種に女将を見ようと訪れている客人も沢山いるのではないでしょうか。あれほどのダメージを被った会見をしてしまった割には、本当に上手なリカバリーができたと言えます。まさに、「失敗会見後のリカバリーはこうやれ!」と言いたくなるような、見事な復活劇だったと思います。

こんなに上手なリカバリーができた理由ですが、私は恐らく危機対応コンサルのアドバイスを受けたのに違いないと踏んでいます。まぁ、それはそれで別に攻められることではありません。ただ重要なことは、目先の対マスコミ対応リカバリー策は、ある意味カネで買うことができるかもしれませんが、本当の顧客信用はカネでは買えないということ。

船場吉兆が、今後本当に民事再生を活用して復活の道を歩んでいけるかどうかは、カネでは買えない魂の入った自己本位ではない経営マインドを本気で身につけていけるかどうか、すべてはそこにかかっていると思うのです。