日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「民事再生」船場吉兆を、“囁き女将”が救うには…

2008-01-16 | ニュース雑感
“囁き女将”の会見で、食品偽装問題に更なる悪イメージの上塗りをしてしまった船場吉兆。16日、民事再生の申請を大阪地裁におこなったと発表しました。

船場吉兆のコンプライアンス意識の欠如か引き起こした今回の問題は、まさに企業における経営者のコンプライアンスのあり方、ガバナンスのあり方に関する悪い見本としてこの上なく参考になるものでした。やってはいけないことをすべてやってくれた訳ですから。

まずは、経営が関与した偽装問題、続いては嘘の会見、従業員への責任転嫁、2回目会見にもかかわらぬ誠意のなさ、顧客を顧みない先代重視の発言、問題の渦中の人物の居直り…

今回のケースほどの反面教師は、今後もあまりお目にかかれないかもしれません。世の経営者の方々も、いつ何時どんな問題発生で、わが身にコンプライアンス違反の疑義をかけられマスコミの取材攻勢に相対することになるか分かりません。そんな時に、今回の船場吉兆の会見や対応、発言の数々を思い出していただき、何をしたらいけないのかを確認しつつ対応する役に立つと思われるほどです。

結局今回の「民事再生申請=破綻」に追い込まれた理由は、先にあげた対応のまずさが積み重なったことに尽きるのです。今の時代のコンプライアンスに対する世間の目の厳しさを改めて実感させられる出来事でもありました。

同じように食品偽装があった企業でも、問題発覚後の誠意ある対応と明確な反省の態度、再発防止への迅速な対応を示した「白い恋人」は、既に復活し品切れが起きるほどの人気になっていると聞きます。「復活」と「破綻」、天と地ほどもあるこの違いは、問題発覚後の経営としての対応の大切さを雄弁に物語っています。

同社の民事再生の申請は、件の“囁き女将”を経営者トップに据えた上での対応になるとのこと。“囁き会見”“うそ泣き”“先代重視発言”等で大変評判の悪い女将が、経営トップに残り再建をすすめると発表をしたことで、またもや再度世間の批判を免れ得ない状況に自らを追い込んでいるかのように思えます。

なによりも、同社の労働組合が、今回の人事を認めない発言を既にしてるようでもあり、社内から不協和音が聞かれるような状況では、再建計画がうまく進むはずがありません。まずは何よりも“囁き新社長”には、顧客、従業員に対する心からの誠意ある態度をしっかりと内外に示していただき、社内をまとめ世間の理解を得ることが最優先課題になると思われます。それができてはじめて、債権者等関係各方面からの協力も得られるのではないかと思います。

再建に際して、誰がトップを務めて旗振りをしていくのかは、その組織と再建関係者が決める問題であり、周囲や世間がとやかく言うことではないかもしれません。ただ、批判の中心人物が再建のトップを務める以上は、過去の会社のやり方及び批判をされている自己態度に関し反省の弁をキッチリ示し、生まれ変わったのだと言う事を明確にしたうえでスタートを切らなければ、間違いなく再建は頓挫することになってしまうでしょう。

本日の民事再生申請およびそれに伴う新体制発表の場に、新社長が臆して同席せず、「生まれ変わった態度と再建に向けた意気込み」が明確に表明されなかったことで、同社の再生プロジェクトの先行きには大きな不安感を抱かざるを得ない現状であると感じています。

ラストチャンスのタイムリミットは、確実に迫っていると思います。