温海川沿いの桜並木が美しい山形県庄内地方のあつみ温泉。
歩いて楽しい温泉街を築くべく、平成14年から17年にかけて街の再整備事業が行われ、その一環として温泉街の中に複数の足湯や飲泉場が設けられました。
更には、街中のみならず、なんと橋の上にも飲泉場が設けられたのでした。全国津々浦々に温泉の飲泉場がありますが、橋の上に立地しているところは珍しいかと思います。
さて、そんな飲泉場がある橋を渡り、温泉街からちょっと離れて住宅地の方へ進んでゆくと、やがてたどり着くのが「湯之里公衆浴場」です。あつみ温泉の3つある共同浴場の一つですが、朝および12時から利用できる他の浴場と異なり、ここだけは14時から利用可能となりますので、時間に関してはちょっと注意を要します。浴舎は男女別に出入口が分かれており、左が女湯、右が男湯となっています。このあたりは観光客が足を踏み入れるエリアではないため、温泉街再整備の対象にはなっておらず、この共同浴場は地元民向けの飾り気がない佇まいを保っています。
共同浴場らしいシンプルな脱衣室。湯銭は室内の棚に固定されている料金入れへ。シンプルとはいえ、地域住民が集う場所ですから、室内にはたくさんの張り紙が掲出されており、地域生活の匂いを醸し出していました。そんな張り紙のひとつが湯仲間募集のお知らせ。年間8000円を納めれば共同浴場利用のフリーパスを入手できるのですね。興味ある方は是非。
ローカル色の強い浴場だからか、いくらか年季の入った浴室は実用的で質素な造り。室内の半分以上を浴槽が占め、壁に沿って水道の蛇口が4つ並ぶばかりです。シャワーなんて便利なものはありません。また、この浴場を定期的に利用する湯仲間のみなさんは桶を持参するためか、備え付けの浴槽が少ないので(2〜3個しかありませんでした)、もし車でこの浴場を利用する場合は、自分で桶を持参した方が良いかもしれません。でも、温泉地としての矜持なのか浴槽だけは特徴的であり、U字型の浴槽の縁にはワインレッドの御影石が採用されています。大きさとしては4人サイズでしょうか。
温泉は壁に突き出ている蛇口より投入されており、水栓金具には白い析出がこびりついていました。お湯はここのみならず、U字型の曲線部分の底部からも熱いお湯が出ているのですが・・・
そのお湯は、右側手前に設けられている湯溜まりから、床の下を通って浴槽へ流れ込んでいたのでした。浴室の出入口付近にあるため、私はてっきり掛け湯かと思ったのですが、これがとんでもない大間違い。この細長い槽に張られているお湯は篦棒に熱いのです。そういえば、あつみ温泉にある他の共同浴場(正面湯と下の湯)でも浴室内に小さな湯壷があって、熱い温泉は一旦この湯壺を経由してから浴槽へ供給されていましたっけ。つまり大きさに差異があるとはいえ、この湯之里でも湯壺経由でお湯が注がれているのですね。当地の伝統スタイルなのでしょう。
飛び上がるほど熱いお湯がそのまま注がれているため、私が入室した時の湯船は体感で45〜46℃という高温。でもこのような地元密着型の共同浴場で迂闊に水で薄めると、常連さんから怒られる可能性が高いので、その熱さに耐えながら湯船に入ったものの、せいぜい1分が限界。これは烏の行水で済ませるしかないかと諦めかけていたところ、後から地元の爺様が登場。仏頂面で掛け湯をしはじめたこの爺様も、さすがに熱すぎると感じたらしく、お湯を止めて水道の蛇口を全開にしたので、そのおかげで適温にまで落ち着きました。
この浴場に引かれているお湯は5・6・7号源泉の混合泉。無色透明で薄い塩味が感じられましたが、熱すぎてじっくりテイスティングできず、また加水後はかなり薄まってしまったため知覚的特徴が弱まり、残念ながら温泉が持つ特徴を掴み取ることができませんでした。でも加水しないと湯船に浸かれなかったので致し方ありません。むしろ、お湯の特徴云々なんて考えている私こそこのお風呂では邪道であり、訪問時は先客2人、後客3人が入れ替わり立ち替わりで訪れ、湯に浸かりながら歓談に華を咲かせていました。地元のお年寄りにとっては欠かせない憩いの場なのですね。
温海5・6・7号源泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 56.5℃ pH7.3 蒸発残留物2360mg/kg 溶存物質2312mg/kg
Na+:636.2mg, Ca++:174.1mg,
Cl-:876.3mg, SO4--:407.9mg, HCO3-:96.3mg,
(平成21年2月13日)
JR羽越本線・あつみ温泉駅よりあつみ交通の路線バスで「あつみ観光協会前」バス停下車、徒歩3分
(時刻などの検索は庄内交通HPを参照)
山形県鶴岡市湯温海字湯之里 地図
14:00〜23:00
200円
備品類無し
私の好み:★★