温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

早稲沢温泉 某野菜直売所の湯

2012年10月20日 | 福島県
※残念ながら閉館しました。

福島・山形県境の白布峠から県道2号(西吾妻スカイバレー)を福島県側へ下った早稲沢地区では、夏から秋にかけてのシーズンになると高原野菜の直売所が開かれ、店頭に山積みされた大根・白菜・キャベツなど採りたての新鮮野菜を求めて各地からお客さんが集まり、野菜購入のついでに店頭でサービスのきのこ汁をすする客さんの姿は当地の風物詩でもあります。


 
県道沿いにはいくつかの直売所がありますが、当地は温泉地という側面も有しているだけあって、某直売所では温泉浴場も併設されており、希望すれば入浴させてくれるらしいので、どんなお風呂なのか行ってみることにしました。建物の裏手には青いトタンの小屋が建てられており、温泉マークが手書きされた看板も貼られています。温泉ファンの間ではかなり以前から知られた存在ですから、拙ブログをご覧の方でしたら入浴されたことがある方も多いかと思います。

秋の味覚を楽しむべく、焼きサンマのお供としてダイコンを、鍋や中華料理の葉物としてハクサイを、そしてカキフライに添えるためにキャベツを、それぞれ一つずつ購入し、支払いの際に店のお爺さんへ入浴したい旨を申し出ますと、「さっき掃除してお湯を張ったばかりだから熱くて入れねぇよ」とつれないお返事。水で薄められないのか尋ねてみると、水道がないから無理だ、と半ば私に諦観を迫ってきます。でもせっかく関東くんだりからやって来たんだけどなぁ、とこちらも熱意をもって懇願すると、それなら沢の水をホースに引いてやるからちょっと手伝ってくれ、とお爺さんは倉庫から緑色のゴムホースを取り出し、「外から風呂場へホースを突っ込むから、風呂場へ行って(壁の下から出てくる)ホースを引っ張ってくれ」と私に指示しました。


 
指示に従って裏手に廻り、温泉小屋へと入ります。戸口の前にはちゃんと「早稲沢温泉」と書かれた看板も立っていますね。


 
掘っ立て小屋のような手作り感あふれる何ともいえない雰囲気に、私はたちまち一目惚れしちゃいました。ポリバスにアクリル屋根、コンパネの壁という素朴な造りはもちろんのこと、室内にはタオルやマットが掛けっ放し、また道具類も置きっぱなしと、外来客の利用を想定していないような状況なのですが、この私的空間のような雑然とした光景にこそ、私のような種族の人間は興奮と感動を覚えるのであります。一方で「慢性病予防研究会」の垂れ幕も提げられており、完全なる私的浴室ではないことも窺えます。


 
お湯は無色澄明で、室内には石膏臭がプンプン充満していました。塩ビの湯口からアツアツのお湯がトプトプと注がれており、その真上にぶら下げられているコップで口にしてみると、石膏味の他に芒硝味、そして微かな塩味が感じられました。



源泉が通る配管(逃し管)のバルブには白い析出がこびりついていました。いかにも硫酸塩泉らしい光景です。この塩ビパイプは老朽化しているのか施工が不完全なのか、ジョイント箇所で抜けてしまうことが多いらしく、訪問時も浴槽の裏手で配管が外れてお湯が漏れていました。塩ビ管は直管こそ耐熱用なのに、エルボーやチーズはなぜか普通のもの(非耐熱)が用いられているんですよねぇ・・・。日曜大工みたいな施工です。



さて訪問当初の湯船には源泉がそのまんまの状態で溜められていたため、軽く60℃を超える熱さとなっており、店頭でお爺さんが言っていたように、入浴どころか手を突っ込むことすらできません。そこでお爺さんは店先で沢水がドバドバと注がれている水槽にホースの端を突っ込み、逆側の端を浴室の方へ伸ばして浴室の壁の下へと潜り込ませました。そこで浴室へ先回りしていた私はそのホースをキャッチし、そのままグイっと浴槽へと引っ張り込みました。

ここでちょっとしたトラブル発生。ホースを沢水のパイプに接続したものの、ホースからはちっとも水が出てきません。お爺さんはパイプの接続方法を変えて試行錯誤してくれましたが、一向にホースへ水が流れる気配がありません。もっと困ったことに、お爺さんは浴室にいる私へいろいろと指示を出してくれるのですが、その口から発せられる言葉の訛りがあまりに強すぎるため、私は全く理解することができなかったのです。私事ですが、私の亡き祖母は会津出身で喋り口調は訛っていたため、いわゆるズーズー弁には耳が慣れているつもりでいたのですが、その祖母は東京へ嫁いで人生の半分以上を都内で過ごしたため、いくら訛っているとはいえ東京の風土にソフィスティケイトされたものでした。しかし目の前にいるお爺さんの訛りは生粋の土着の言葉であるため、東京弁しか解さない私にはほとんどリスニングできません。あたかも海外旅行しているときのように、状況と相手の表情やジェスチャーを読み取ったのですが、それでもお爺さんから発せられる言葉のうち理解できたのは約3割程度だったでしょうか。結局お爺さんが浴室までやってきて、ホースをしばらく地面に寝かせ続けたところ、ホース内の空気が徐々に抜けてようやく通水が実現できました。


 
やっと通水できて安心したお爺さんは私に「ゆっくり入っていいよ」と言って去って行きました。その言葉をありがたく頂戴しながら、当方は加水作業へと入ります。ホースから出てくる大量の沢水で薄め、湯船に手が突っ込める程度になったら、湯船の栓を抜いてさらにお湯を減らし、加水比率を相当高めて、ようやく入浴に適した湯加減にまで冷ますことができました。湯温が下がるのを待っている間、私は源泉のバルブを締めてお湯の供給の一旦止め、浴槽の裏手で外れていた源泉用の塩ビ配管接続させて応急的に修理しました。塩ビ糊を使っていませんから、衝撃が加われば再び外れてしまうでしょうけど、しばらくは大丈夫でしょう。



かなり加水したものの、それでも温度は44℃ちかくあったためか、あるいは硫酸塩泉の特徴が現れたのか、入りしなは肌、特に脛にピリピリとした刺激が走り、全身をお湯に沈めてもお湯からはトロトロとした感触が伝わり、そしてキシキシと引っかかる浴感が得られました。このポリバスは3人サイズ程度の大きさですが、一人で独占できたので、とっても伸び伸びと入浴でき、なんだかんだで一時間も入り続けてしまいました。

湯上がりにお爺さんへ謝意を伝えると、お風呂に1時間以上も入り続けたことに驚かれ、そんなにお風呂が好きだったのかと笑われてしまいました。そうです、大好きなんです。お爺さんには面倒をかけてしまいましたが、お陰様でとってもよい温泉に入ることができました。この場を借りまして直売所の方に改めて感謝申し上げます。

室内に掲示されている温泉分析表は、早稲沢温泉の宝来湯源泉を引いている施設共通のオレンジ色用紙のもの(平成7年分析)でしたが、某所で平成21年分析のデータを入手しましたので、ここではその新しい数値を掲載致します。

宝来湯
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 69.9℃ pH8.4 404L/min(動力揚湯) 溶存物質1.201g/kg 成分総計1.201g/kg
Na+:197.8mg(51.81mval%), Ca++:157.9mg(47.47mval%),
Cl-:48.0mg(8.26mval%), SO4--:691.8mg(88.07mval%),
H2SiO3:71.2mg,
(平成21年4月22日分析)

福島県耶麻郡北塩原村桧原字早稲沢

※残念ながら閉館しました。
入浴時間;直売所が開店している時間内
入浴料金は不要ですが、お店でちゃんとお買い物しましょう

私の好み:★★★

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2 コメント

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Unknown (zataro50)
2012-10-22 22:55:05
感動しました! 入浴料としてマツタケ買ってしまいそうです。
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Unknown (K-I)
2012-10-23 14:30:58
なるほどマツタケに匹敵する価値があるかもしれませんね。でもキャベツも大根も大きくて立派でおいしいのに1つ100円でしたから、マツタケよりはるかに廉価でお風呂を楽しめましたよ(^^)
こうした温泉はありがたいですね。
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