温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯沢温泉 荒川いこいの家

2020年05月24日 | 新潟県

今回は新潟県湯沢温泉を取り上げます。湯沢といっても、全国的な知名度を有する中越地方の越後湯沢ではなく、下越の関川村に湧く湯沢温泉です。越後湯沢には新幹線が停まり、多くの旅館やスキー場、商業施設の他、バブル期に建てられた高層リゾートマンションが随所に屹立していますが、知る人ぞ知る下越地方関川村の湯沢温泉は、行き止まりの路地の左側に小さな旅館が3軒ほど、右手にお寺と公共駐車場、そして公営施設「荒川いこいの家」が並ぶばかり。新潟県内にあって同じ名前を名乗る両温泉地はあまりに対照的であり、関川村の湯沢温泉は、バブル期に誰かさんがスキーへ連れて行ってくれた松任谷由実の世界観から何億光年も離れている、鄙びきった無名の温泉地です。


この湯沢温泉では以前に拙ブログで紹介したことのある共同浴場で入浴することができますが、もう一つ公衆浴場として利用可能な施設が今回ご紹介する村上市営「荒川いこいの家」です。あれ? この湯沢温泉って関川村にあるのに、どうしてお隣の村上市が運営しているんだろう。いちいち考えていたら前に進めなくなりそうなので、ここではその辺りの事情をスルーさせていただきます。


この施設は地域の林業促進を目的として設けられており、越後杉を使って建てられたんだとか。
さて玄関を入って靴を脱ぐと真正面にお座敷があり、私が訪ねた時にはお年寄りの皆さんで賑わっていました。その座敷の手前右側に小さな受付カウンターがあり、ここで入浴利用を申し出て料金を支払うのですが、利用に際しては台帳への記名を求められ、60歳以上か未満か、障害者手帳があるか、一人で入浴できるか、どこから来たのか(村内か県外かなど)、などといった事項を記入することになります。一応公的施設であり村上市民の税金を使って運営しているので、いろんなことを透明にしようということなのでしょうか。ま、利用の際には面倒くさがらずに協力してあげましょう。
お風呂は男女別に分かれており、座敷に向かって左が女湯、右が男湯です。でも案内が目立っていないのでわかりにくいかと思います。かく言う私も迷った一人。どちらに男湯があるのかしら、と狭い館内を右往左往してしまいました。


まだ比較的新しい施設だけあって脱衣室は綺麗。流し台が2つにドライヤーが1つ備え付けられ、使い勝手もまずまずです。脱衣室のスライドドアを開けた向こう側は浴室。この浴室もなかなか綺麗で清潔なのですが、そんな見た目以上に私を驚かせてくれたのが、浴室内に漂う硫黄臭でした。湯気とともに茹で卵の卵黄のような匂いが、弱いながらもはっきりと感じられたのです。川の対岸で湧く雲母温泉のお湯からは確かに淡いタマゴ臭が漂ってきますので、そのご近所である当地の温泉からも同様の匂いが感じられても不思議ではないのですが、それにしてもこの湯沢温泉は金気が強いイメージばかりがあったので、まさか浴室内に漂うほどのタマゴ臭が感じられるとは意外でした。



男湯の場合は入って右手に洗い場があり、5個のシャワーが並んでいます。ひとつひとつの間隔が広いので、隣のお客さんとの干渉を気にせず使用することができるでしょう。アメニティーの備え付けもあるので、タオル一枚持参すれば入浴できちゃいます。なお、この洗い場と反対側(入ってすぐ左側)には立って使うシャワーも2個設置されています。


浴槽は一つのみですが、目測で4m×3mほどの大きさがあり、おそらく10人程度なら同時に入れる大きさがあるのではないかと思われます。タイル張りの浴槽は黒い御影石で縁取られており、オーバーフローのお湯は浴槽奥にある御影石の溝へ溢れ出る構造になっています。素晴らしいことに、こちらのお風呂では加水加温循環消毒無しの完全かけ流しでお湯を提供してくださっています。


浴槽内部は温泉成分の金気によって赤い色が付着しており、なかんずく湯口の直下は真っ赤に染まっていました。いかに金気の強いお湯であるかがわかりますね。なお、お湯を吐出する塩ビパイプの下には黒い布が敷かれており、これでお湯と一緒に流れてくる固形物を濾し取っています。そのおかげなのか、湯舟のお湯では特に目立った浮遊物は見られませんでした。

お湯の見た目はほぼ無色透明ながら若干白く霞んでいるように見えます。この湯沢温泉は泉質名こそ単純泉なのですが、実際にお湯をテイスティングしてみますと淡い塩味、芒硝の味と匂い、そして上述したように茹で卵の卵黄の味と匂いがマイルドながらもしっかり感じられます。決して単純なお湯ではありません。分析表を見ますと硫化水素が少ないながらもしっかり含まれており、また金気の要素、そして硫酸塩もそこそこ多いことがわかります。溶存物質が969.2mgですからギリギリのところで単純泉に分類されてしまっただけの話であり、実質的にはナトリウム-硫酸塩・塩化物泉と名乗ってもよさそうなお湯なのです。日本全国には単純泉に分類されてしまったばかりについ軽視されがちな温泉が余多存在していますが、この湯沢温泉もその一つであり、単純泉だからといっても決して侮れない非常に個性的で良いお湯なのです。しかもそんな良質なお湯が完全かけながしなのですから、ありがたいことこの上ありません。

設備が整っている上にスペースも確保され、しかもお湯が良いとくれば、地元の方から愛されないはずがありません。私が訪ねた日も次々にお客さんがやってきて、お座敷でおつまみを食べながら、あるいは湯船に浸かりながら、みなさん楽しそうに談笑していらっしゃいました。どうやら当地では狭い共同浴場よりも、綺麗で設備が整っているこの「荒川いこいの家」へお客さんが偏る傾向にあるらしく、共同浴場はいつも空いているそうですよ。


さて冒頭でも申し上げましたように、同じ県内で湯沢を名乗る越後湯沢と当地を比べますと、当地は知名度、施設の数、客の数、お金の流れ方、あらゆる面であまりにもかけ離れており、おそらく新潟県民ですら知らない方が多いのではないかと思われますが、そんな当地が歴史の教科書に載るような大事件と多少なりともかかわっていることを皆様ご存じでしょうか。
「荒川いこいの家」の手前にある松岳寺の境内には、上画像のような石碑が立っており、そこには「桜田門外の変烈士 関鉄之介 就縛の地」と刻まれています。桜田門外の変と言えば老中井伊直弼が暗殺された事件として誰しもが日本史の教科書で学習しますが、この事件において実行部隊の指揮した水戸藩士の関鉄之介は、井伊直弼を暗殺したのち、一旦関西や四国へ逃げ、そして水戸藩へ戻り、そこでも身の危険を感じて今度はなんと越後へ逃げたんだとか。鉄道もない時代に日本国内をそれだけ逃げ回るのですから、その苦労は想像を絶します。しかしいつまでも逃げられるものではなく、この湯沢温泉で潜伏していたところ、ついに捕まってしまったんだそうです。どうしてこんな僻地に逃げてきたのか、どのようにしてこの地を知ったのか、不勉強な私には知る由もありません。捕らえられた関鉄之介は水戸へ送られ、その後江戸の小伝馬町で打ち首に処されたそうですが、囚われの身となって自由を失ってしまった関鉄之介は、最後に浸かった湯沢温泉のお湯をどのように感じたのでしょうか。

なお関鉄之介がお縄を頂戴するまで籠っていた宿は田屋といい、温泉街のドン詰まりを流れる川の対岸にあったようですが、現在その場所は民家になっています。一見すると何もないように思えるこの鄙びた無名温泉地ですが、実は歴史的な有名事件に所縁がある土地だったんですね。


湯沢温泉(3源泉の混合泉)
単純温泉 47.5℃ pH7.5 湧出量測定不能 溶存物質969.2mg/kg 成分総計984.7mg/kg
Na+:262.3mg(82.50mval%), Ca++:33.0mg(11.93mval%),
Cl-:204.2mg(42.60mval%), Br-:0.9mg, SO4--:286.2mg(44.08mbal%), HCO3-:92.8mg(11.24mval%), HS-:0.2mg,
H2SiO3:56.7mg, CO2:15.4mg, H2S-:0.1mg,
(平成22年2月8日)
加水加温循環消毒なし

新潟県岩船郡関川村大字湯沢697
0254-64-2277
紹介ページ(村上市公式サイト内)

日帰り入浴9:30~16:30 毎週火曜・年末年始定休
村上市外500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント
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