一時期、長期休業していましたが、現在は営業を再開しています。ただし、本記事で取り上げた頃と営業時間が異なるため、詳しくは公式サイトでご確認ください
今回、次回と東伊豆の温泉を取り上げます。
まずは富戸駅で伊豆急行の普通電車から降ります。画像に写っている伊豆急8000系電車は、かつて東横線や大井町線で通勤輸送に従事しながら日本経済を下支えしてきた東急電鉄のお下がり。いまでは伊豆半島に移って相模灘の潮風を受けながらのんびり走っています。
駅から脇道に入り、更に狭い路地を進んで海岸へ向かって坂道を下ってゆきます。単なる路地かと思いきや、路傍には「御大礼記念道路」と刻まれた石碑が立っていました。昭和三年に建立されたようですから、この道路は昭和天皇の即位を祝って開かれたのでしょう。
海岸沿いのバス通りまで下りきり、海に沿ってちょっと南下すると、やがて「西下入口」バス停の前を通り過ぎるのですが、このバス停を通過せず、手前の山側をあがるアプローチへ入ってゆくと、その先にプレハブ小屋が目に入ります。ここが今回の目的地「富戸温泉」の事務所です。私が坂道をあがってゆくと、小屋の中からおじさんが出てきて、昔の電車の車掌さんのような肩掛けバッグを身に着けながら私に近づき、ニコニコしながら湯銭を徴収していきました。もちろん挨拶を兼ねているのでしょうけど、後述する浴舎と事務所が若干離れているため、おじさんが先手を打って湯銭を徴収しないと無銭入浴されかねないのかもしれません。
そんなおじさんの苦労を勝手に邪推しながら、階段を上がって駐車場の上に建つ木造浴舎へ向かいます。海へ落ちる傾斜地の途中に建てられており、地形に沿う形で男女の浴舎が南北に並んでいます。
男湯は南側の浴舎です。外観から想像できるように、細長いウナギの寝床のような建物であり、全てが奥へ奥へと延びています。脱衣室は4畳半ほどでしょうか。客で込み合う時には譲り合いながらロッカーや各種備品類を使うことになるかと思います。狭いといってもロッカーのほか、洗面台やドライヤー、そしてトイレなどひと通りの設備は用意されていました。
ほぼ総木造の内湯もコンパクトで、必要な設備が一室の中にぎゅっと詰め込まれていますが、浴槽のほか、シャワー付きカランが4つ並んでおり、ボディーソープも備え付けられているので、狭いながら使い勝手はまずまずです。なおカランから出るお湯はボイラーの沸かし湯です。
この小さな内湯に設けられている浴槽は、サイズ感としては大人3人が腰を下ろして入浴してちょうどいいような大きさです。一見するとごく普通のコンパクトな湯船なのですが、山椒は小粒でピリリと辛いと言うべきなのか、実際入ってみるとものすごい実力派であることがわかります。具体的に申し上げますと、まず湯口から供給されているお湯の量が(浴槽の容量に対して)多く、それゆえ常時贅沢にお湯がオーバーフローしています。コンパクトな浴槽なのに溢れ出しが多いということは、お湯が入れ替わるスピードも速いわけですから、お湯の鮮度感も抜群。言わずもがな完全掛け流し。後述する露天風呂も素晴らしいのですが、私個人としてはこの内湯の浴感がすっかり気に入ってしまい、景色の良い露天と、お湯の良い内湯を何度も行き来してしまいました。
内湯の引き戸を開けると、目の前に広がるのは絶景露天風呂。傾斜地の途中で無理やり細長い浴舎を建てたのは、この露天風呂を眺めの良い高台にセッティングしたかったからに違いありません。露天からは相模灘、そして海越しの伊豆大島を一望できます。私はこの湯船に浸かりながら、海原を行き交う船舶、そして上空を飛び交う飛行機などをぼんやり目で追いつつ、のんびりとした時間を過ごさせていただきました。
なお露天風呂の海側にはウッドデッキのような木造構造物が設置されていますが、これは目下にある駐車場に対する目隠しかと推測され、支柱に支持力がないため立ち入ることはできません。露天で景色を眺める際には、湯船に入った状態が宜しいかと思われます。
露天の浴槽は(目測で)2m×3mほど。湯口より大量のお湯が注がれており、内湯ほどではないにせよ、良好なコンディションが保たれていました。露天も完全放流式です。また湯口のまわりには石膏と思しき白い析出が平べったく付着しており、部分的に少々茶色く変色していました。内湯よりも約1℃低い41℃前後の湯加減でしたが、むしろ長湯にはちょうど良い温度でしたから、景色を眺めながらゆっくり入浴するには良いかもしれません。いや、長湯できそうでできないのが、この温泉の真の実力。無色透明で湯の花などは無く、一見すると癖の無さそうなお湯ですが、れっきとした石膏泉であり、温浴パワーが強いため、入浴に適した温度であってもパワフルに温まるのです。その一方、この露天風呂は空間が限られているため、ひと休みして火照った体をクールダウンできるスペースがないのが残念なところ。私は仕方なく浴槽の縁に腰かけて体が落ち着くのを待ちましたが、お客さんが多いタイミングだとその方法はちょっと難しいかもしれません。
お湯からは弱いながらもしっかりと主張してくるタマゴ臭、そして石膏臭が漂っており、甘みを伴う石膏味が感じられます。湯中では石膏泉らしいキシキシ浴感のほか、肌のシワに染み込んでくるようなシットリ感、そしてトロミが全身に伝わります。分析書の数値から判断するに、純然たる石膏泉と言ってよい泉質であり、まるで群馬県北毛エリアに点在する無色透明の硫酸塩泉を彷彿とさせてくれます。実に格調の高い上品なお湯です。この温泉はおそらく露天からの眺めに注目されることが多いかと思いますが、私個人としてはお湯のクオリティが大変気に入りました。手作り感溢れる設備全般とリーズナブルな料金設定も嬉しい、東伊豆の温泉の良さを再認識させてくれる銘泉です。
対島(たじま)45号
カルシウム-硫酸塩温泉 46.1℃ pH9.5 131L/min(動力揚湯) 溶存物質2.272g/kg 成分総計2.272g/kg
Na+:110.5mg(14.46mval%), Ca++:565.9mg(84.88mval%),
Cl-:101.0mg(8.59mval%), OH-:0.5mg, HS-:0.2mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:1425mg(89.48mval%), HCO3-:17.8mg, CO3--:8.9mg,
H2SiO3:36.7mg,
(平成23年6月29日)
加温加水循環消毒なし
伊豆急行・富戸駅より徒歩10分(850m)、もしくは伊東駅や伊豆高原駅から東海バスで「西下入口」下車すぐ
静岡県伊東市富戸767-2 地図
0557-51-1516
ホームページ
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※残念ながら2018年冬頃より休業しています。
15:00〜21:00 火曜定休
500円
ロッカー・ボディーソープ・ドライヤーあり
私の好み:★★★
今回、次回と東伊豆の温泉を取り上げます。
まずは富戸駅で伊豆急行の普通電車から降ります。画像に写っている伊豆急8000系電車は、かつて東横線や大井町線で通勤輸送に従事しながら日本経済を下支えしてきた東急電鉄のお下がり。いまでは伊豆半島に移って相模灘の潮風を受けながらのんびり走っています。
駅から脇道に入り、更に狭い路地を進んで海岸へ向かって坂道を下ってゆきます。単なる路地かと思いきや、路傍には「御大礼記念道路」と刻まれた石碑が立っていました。昭和三年に建立されたようですから、この道路は昭和天皇の即位を祝って開かれたのでしょう。
海岸沿いのバス通りまで下りきり、海に沿ってちょっと南下すると、やがて「西下入口」バス停の前を通り過ぎるのですが、このバス停を通過せず、手前の山側をあがるアプローチへ入ってゆくと、その先にプレハブ小屋が目に入ります。ここが今回の目的地「富戸温泉」の事務所です。私が坂道をあがってゆくと、小屋の中からおじさんが出てきて、昔の電車の車掌さんのような肩掛けバッグを身に着けながら私に近づき、ニコニコしながら湯銭を徴収していきました。もちろん挨拶を兼ねているのでしょうけど、後述する浴舎と事務所が若干離れているため、おじさんが先手を打って湯銭を徴収しないと無銭入浴されかねないのかもしれません。
そんなおじさんの苦労を勝手に邪推しながら、階段を上がって駐車場の上に建つ木造浴舎へ向かいます。海へ落ちる傾斜地の途中に建てられており、地形に沿う形で男女の浴舎が南北に並んでいます。
男湯は南側の浴舎です。外観から想像できるように、細長いウナギの寝床のような建物であり、全てが奥へ奥へと延びています。脱衣室は4畳半ほどでしょうか。客で込み合う時には譲り合いながらロッカーや各種備品類を使うことになるかと思います。狭いといってもロッカーのほか、洗面台やドライヤー、そしてトイレなどひと通りの設備は用意されていました。
ほぼ総木造の内湯もコンパクトで、必要な設備が一室の中にぎゅっと詰め込まれていますが、浴槽のほか、シャワー付きカランが4つ並んでおり、ボディーソープも備え付けられているので、狭いながら使い勝手はまずまずです。なおカランから出るお湯はボイラーの沸かし湯です。
この小さな内湯に設けられている浴槽は、サイズ感としては大人3人が腰を下ろして入浴してちょうどいいような大きさです。一見するとごく普通のコンパクトな湯船なのですが、山椒は小粒でピリリと辛いと言うべきなのか、実際入ってみるとものすごい実力派であることがわかります。具体的に申し上げますと、まず湯口から供給されているお湯の量が(浴槽の容量に対して)多く、それゆえ常時贅沢にお湯がオーバーフローしています。コンパクトな浴槽なのに溢れ出しが多いということは、お湯が入れ替わるスピードも速いわけですから、お湯の鮮度感も抜群。言わずもがな完全掛け流し。後述する露天風呂も素晴らしいのですが、私個人としてはこの内湯の浴感がすっかり気に入ってしまい、景色の良い露天と、お湯の良い内湯を何度も行き来してしまいました。
内湯の引き戸を開けると、目の前に広がるのは絶景露天風呂。傾斜地の途中で無理やり細長い浴舎を建てたのは、この露天風呂を眺めの良い高台にセッティングしたかったからに違いありません。露天からは相模灘、そして海越しの伊豆大島を一望できます。私はこの湯船に浸かりながら、海原を行き交う船舶、そして上空を飛び交う飛行機などをぼんやり目で追いつつ、のんびりとした時間を過ごさせていただきました。
なお露天風呂の海側にはウッドデッキのような木造構造物が設置されていますが、これは目下にある駐車場に対する目隠しかと推測され、支柱に支持力がないため立ち入ることはできません。露天で景色を眺める際には、湯船に入った状態が宜しいかと思われます。
露天の浴槽は(目測で)2m×3mほど。湯口より大量のお湯が注がれており、内湯ほどではないにせよ、良好なコンディションが保たれていました。露天も完全放流式です。また湯口のまわりには石膏と思しき白い析出が平べったく付着しており、部分的に少々茶色く変色していました。内湯よりも約1℃低い41℃前後の湯加減でしたが、むしろ長湯にはちょうど良い温度でしたから、景色を眺めながらゆっくり入浴するには良いかもしれません。いや、長湯できそうでできないのが、この温泉の真の実力。無色透明で湯の花などは無く、一見すると癖の無さそうなお湯ですが、れっきとした石膏泉であり、温浴パワーが強いため、入浴に適した温度であってもパワフルに温まるのです。その一方、この露天風呂は空間が限られているため、ひと休みして火照った体をクールダウンできるスペースがないのが残念なところ。私は仕方なく浴槽の縁に腰かけて体が落ち着くのを待ちましたが、お客さんが多いタイミングだとその方法はちょっと難しいかもしれません。
お湯からは弱いながらもしっかりと主張してくるタマゴ臭、そして石膏臭が漂っており、甘みを伴う石膏味が感じられます。湯中では石膏泉らしいキシキシ浴感のほか、肌のシワに染み込んでくるようなシットリ感、そしてトロミが全身に伝わります。分析書の数値から判断するに、純然たる石膏泉と言ってよい泉質であり、まるで群馬県北毛エリアに点在する無色透明の硫酸塩泉を彷彿とさせてくれます。実に格調の高い上品なお湯です。この温泉はおそらく露天からの眺めに注目されることが多いかと思いますが、私個人としてはお湯のクオリティが大変気に入りました。手作り感溢れる設備全般とリーズナブルな料金設定も嬉しい、東伊豆の温泉の良さを再認識させてくれる銘泉です。
対島(たじま)45号
カルシウム-硫酸塩温泉 46.1℃ pH9.5 131L/min(動力揚湯) 溶存物質2.272g/kg 成分総計2.272g/kg
Na+:110.5mg(14.46mval%), Ca++:565.9mg(84.88mval%),
Cl-:101.0mg(8.59mval%), OH-:0.5mg, HS-:0.2mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:1425mg(89.48mval%), HCO3-:17.8mg, CO3--:8.9mg,
H2SiO3:36.7mg,
(平成23年6月29日)
加温加水循環消毒なし
伊豆急行・富戸駅より徒歩10分(850m)、もしくは伊東駅や伊豆高原駅から東海バスで「西下入口」下車すぐ
静岡県伊東市富戸767-2 地図
0557-51-1516
ホームページ
※残念ながら2018年冬頃より休業しています。
15:00〜21:00 火曜定休
500円
ロッカー・ボディーソープ・ドライヤーあり
私の好み:★★★