温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台温泉 そめや旅館

2016年07月27日 | 岩手県
今回記事から国内の温泉ネタに戻ります。まずは岩手県花巻市の台温泉から。
昨年11月に訪問した際のちょっと古い記録ですが、何卒ご容赦のほどを。いつも即時性の無い記事ばかりで申し訳ございません。


 
ループ状の道路に沿って温泉旅館が軒を連ねる台温泉。その中でも温泉街の入口付近にある「そめや旅館」で日帰り入浴してまいりました。玄関の札には「自炊」と記されており、渋くて慎ましい外観は自炊の湯治宿そのものですが、一般的な旅館同様に食事付きの宿泊も可能であり、公式サイトの宿泊プランを拝見しますと、2食付きでもかなりリーズナブルに利用できるようです。


●男女別内湯
 
館内には男女別内湯と貸切風呂という2種類のお風呂があるのですが、まずは男女別内湯から利用させていただくことにしました。玄関から右へ折れて廊下をどんどん進んだ突き当たりにあり、「精華の湯」へ上がる温泉街の坂を歩いていても、浴場部分は明らかにそれとわかる外観をしています。


 
浴室はまるで共同浴場のように質素でシンプルな造りです。私が入室すると、湯気と一緒に漂う芒硝臭がほんのりと香ってきました。室内の右側に洗い場が配置されており、シャワー1基、そして水&湯のカランペアが3組並んでいます。


 
浴槽は1.5m×3mでおおよそ5〜6人サイズ。全面タイルですが縁には黒御影石が用いられています。湯船には無色透明のお湯が張られ、底面まで達した外光によってタイルがキラキラと輝いていました。


 
浴槽には専用の水栓が3つ並んでいたのですが、コックを開けて出たのは水だけで、なぜかお湯は出て来ず、その代わり、水栓直下の浴槽底面付近にある目皿から熱いお湯が投入されていました。その目皿から吐出されたばかりのお湯は熱いのですが、投入量の調整により湯船は適温がキープされています。このお風呂では滝の湯源泉を引いており、石膏の味と匂いがふんわりと感じられる他は目立った知覚的特徴が無く、湯中では柔らかくて弱いツルスベを有する浴感が得られました。イオウ感が前面に出てくる台温泉の源泉の中では、比較的おとなしくてマイルドなフィーリングではないでしょうか。この滝の湯源泉の分析書によれば、溶存物質1.003g/kgとギリギリのところでナトリウム-塩化物・硫酸塩泉を名乗れているのですが(1gを下回ると単純泉になります)、総硫黄に関しては1.9mg(硫化水素イオン1.7mg+遊離硫化水素0.2mg)であり、温泉法の規定である2.0mgにあと0.1mg足りないため、硫黄泉を名乗れない惜しい状態です。尤も、日によってお湯のコンディションは異なりますから、時には硫黄泉の規定をクリアする場合があるのかもしれません。


●貸切風呂

つづいてもう一つのお風呂である貸切風呂にも入らせていただきました。


 
細長い脱衣室には棚と腰掛けが用意されているばかりで、余計な飾りなどはありません。この脱衣室内に設けられた3段のステップを下って浴室へと向かいます。あくまで私個人の経験に基づく判断ですが、アプローチを下って行く温泉には良泉が多い傾向にありますので、このステップを目にした時には条件反射のように期待に胸が膨らみました。そして・・・


 
その先には私が期待した通りの展開が待っていました。浴室のドアを開けた瞬間、はっきりとしたタマゴ臭がプンと香ってきたのです。芳醇かつ濃厚な香りに私は思わず興奮し、鼻を鳴らしてクンクンと嗅ぎつづけてしまいました。浴室自体は男女別内湯同様にタイルを多用した実用本位のシンプルな造りであり、やや狭くて窓も小さいため、より一層渋さを増しているのですが、室内に充満する香りは私の脳裏に強烈な印象を残しており、硫黄系のお湯が好きな温泉ファンなら誰しもがその香りに恍惚とすることでしょう。
なお室内の洗い場にはシャワー1基と水&湯のカランペアが2組並んでいました。


 
 
硫化して青黒く変色した水栓よりお湯がチョロチョロと注がれています。加水をせず湯量調整だけで湯加減をコントロールしているのですが、それでも日によって源泉温度が上下するらしく、ネット上の情報によれば「熱くて入れなかった」という声も散見されます。実際に私が訪れた時もかなり熱かったのですが、しっかり湯もみをすることによって数分は浸かっていられるほどの温度まで落ち着いてくれました。
このお湯は独自源泉の松の湯。見た目は無色透明ですが、湯中では薄い褐色を帯びた湯の花がチラホラと舞っており、結構大きいので上画像のように洗面器で掬うこともできました。湯使いは完全掛け流しで、浴槽縁の切り欠けよりお湯が絶えずオーバーフローしており、私が湯船に入るとザバーッと音を轟かせながら勢いよく溢れ出ていきました。室内に濃く満ちるほど強いタマゴ臭を放つお湯を口に含むと、明瞭なタマゴ味のほか、ほんのりとした芒硝感や石膏感も得られ、お湯の個性がはっきりと伝わってきます。味や匂いのみならず、ツルスベの浴感も良好。上述のように熱いためピリッと刺激が走るのですが、その熱さに心身をシャキッとさせてくれる気持ち良さがあるため、ツルスベと熱さという二つの感覚、そして芳醇なタマゴ感によって、私はこのお湯の虜になってしまいました。
ちなみにこの松の湯源泉の分析書によれば、泉質名は含硫黄-ナトリウム-硫酸塩温泉なのですが、総硫黄は1.2mgであるため(硫化水素イオン1.0mg+遊離硫化水素0.2mg)、硫黄泉を名乗れる数値に達していません。しかしながら上述したように芳醇なタマゴ感を有しており、体感的には硫黄泉を名乗っても不思議ではない濃さがありました。ということは、表に誤記や記入漏れがあるのか、日によって総硫黄量の上下幅が大きいのか、あるいは掲示されている分析書に切り貼りしたような形跡があるので別にデータがあるのか・・・。
ま、そんな細かな屁理屈はどうでも良いのですが、とにかくこの貸切風呂の松の湯源泉は、お世辞抜きで素晴らしいお湯。東北を主戦場にしている温泉ファンの皆さんが挙ってこのお湯を賞賛なさっているのも十分頷けます。本当に感激しちゃいました。


滝の湯
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 76.0℃ pH8.0 溶存物質1.003g/kg 成分総計1.004g/kg
Na+:280.0mg(90.22mval%), Ca++:23.6mg(8.74mval%),
Cl-:143.1mg(29.66mval%), HS-:1.7mg, SO4--:390.7mg(59.69mval%), HCO3-:59.4mg(7.12mval%), CO3--:10.5mg,
H2SiO3:89.9mg, H2S:0.2mg,
(平成4年9月22日)
加水加温循環消毒なし

松の湯
含硫黄-ナトリウム-硫酸塩温泉 73℃ pH7.9 成分総計1.020g/kg
Na+:280.0mg(89.30mval%), Ca++:26.0mg(9.53mval%),
Cl-:147.6mg(30.77mval%), HS-:1.0mg, SO4--:360.0mg(55.40mval%), HCO3-:91.8mg(11.09mval%),
H2SiO3:89.7mg, H2S:0.2mg,
(昭和54年12月13日)
加温加水循環消毒なし

JR東北本線・花巻駅より岩手県交通バスの台温泉行で終点下車、徒歩1分
岩手県花巻市台2-62  地図
0198-27-2809
ホームページ

日帰り入浴時間不明
400円
シャンプー類・ドライヤーあり(男女別内湯)

私の好み:★★★
コメント (2)
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