温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

住宅地で操業する現役油田 秋田県・八橋油田

2016年06月04日 | 秋田県
※今回の記事に温泉は登場しません。あしからず。

日本は資源に乏しい国であり、とりわけ石油は完全に輸入に頼っていて、国内に油田なんか無いと思っている方がほとんどでしょう。でも、温泉巡りを趣味としている方でしたら、北陸から北海道にかけての日本海側を中心に、小規模な油田が点在しており、微量ながら石油や天然ガスが産出されていることをご存知かと思います。それらのエリアでは緑色凝灰岩(グリーンタフ)の分布と黒鉱や石油の分布が一致しており、そしてまた特徴的な温泉もこれらの分布に沿って湧出しているからです。前回記事で取り上げた強首温泉は天然ガス田の試掘中に温泉が湧出した好例ですが、この他にも、新潟県の新津温泉や月岡温泉、山形県の羽根沢温泉、北海道の豊富温泉などは、石油や天然ガスの採取を目的としてボーリングした結果湧出した温泉であり、いずれの温泉も湯気とともにアブラ臭を放っています。大雑把に言ってしまえば、日本海側の温泉と油田やガス田は密接な関係があるわけです。地中から湧き出る資源という意味では、温泉も石油も同じですから、温泉ファンとしては国内の油田に親近感を抱かざるを得ません。

国内の油田は新潟県・山形県・秋田県・北海道に点在しているのですが、中でも私が以前から見学してみたかったのが、秋田市にある八橋油田。純然たる市街住宅地の中で、石油を汲み上げるためのポンピングユニットが動いている様子を写した書籍のグラビアで目にした時、あまりにシュールなその光景に心を奪われてしまったのです。
八橋油田は一箇所に固まっているわけではなく、数ヶ所に分散しているとのこと。そこで、まずは油田の中心部へと行ってみることにしました。


●八橋油田・その1


 
秋田市八橋大道東にあるショッピングセンター「パブリ」の北側に、その油田はありました。フェンスにはきちんと「八橋基地」と書かれています。フェンスの向こう側には事務所や集油基地のような設備が並んでいました。


 
住宅に囲まれた更地には3基のポンピングユニットが設置されているのですが、この日は1台だけが上下に動いて石油を汲み上げていました。その姿は鳥が地中の餌を突いているかのようです。いくら石油は原油のままだと燃えにくいとはいえ、住民が平穏な毎日を過ごす市街地の一角で、こうして毎日石油採掘が行われているのですから、生活と危険物が隣り合っているこの光景は実に不思議です。


 
 
「パブリ」の駐車場へ向かうアプローチ(車道)と川の間には公園が整備されており、1基のポンピングユニットが展示保存されているほか、八橋油田の「歴史と現況」、そして「昭和30年台の八橋油田」など幾つかの説明が掲示されていました。これによれば、当地では昭和9年(1934年)に地下200mで石油が発見されて以来、本格的な操業が続けられており、累計の生産量は、原油が560万キロリットル、天然ガスが12億立方メートルで、昭和30年代前後に最盛期を迎えたものの、その後生産量が急激に落ち込み、現在の生産量は原油42.0キロリットル、天然ガス23,500立方メートルに留まっているんだとか。なお、これまでに掘った井戸の数は1240本にも及ぶんだそうですが、現存しているのはわずか48本。費用対効果がとても悪そうですね。


 
近くの電柱を見てびっくり。地名に「寺内油田」と記されているではありませんか! でも調べてみたら、実は油田と関係ないらしいのです。その一方、公園の脇を流れる川の名前は草生津(くそうづ)川といい、「くそうづ」とは臭い水という意味。臭い水とは石油のことですから、川の名前は石油に関係しているんですね。
公園の前に架かっている橋には複数のパイプが這わされており、明らかに石油関係と思われたので、そのパイプを辿って対岸に渡り、川の上流側へと歩いてみますと…


●八橋油田・その2
 
橋から100メートルも行かないところで急に視野が開け、土手の下に広がる住宅街の中の更地に、ポンピングユニットが忽然として姿を現しました。


 
2基のポンピングユニットが頭を付き合わせるような位置関係に設置され、それぞれが上下に動いて石油を汲み上げています。ポンプに接近するとユニットからジージーという音が聞こえるのですが、これはポンプを回すモーター音でしょう。


 
柵の外から汲み上げ部分をアップにして撮ってみました。黒々とした配管類がいかにも原油施設らしいのですが、それにしても配管の細さといい、ポンプの動き方といい、なんとも言えない牧歌的な動きであり、どう考えても産油量は多くなさそうです。石油を産出しているのならば、中東の石油王のような成金をイメージしますが、この八橋油田ではそんな石油王とはまったく無関係の、地道で静かで地味な毎日が繰り返されているようです。


●外旭川地区の油田


 

秋田市内の油田はまだまだあります。続いては、草生津川をさらに遡るかたちで、市街から秋田北インターへ伸びる県道72号線を北上し、別の油田を目指すことにしました。県道72号は外旭川地区と将軍野地区に挟まれながら南北に伸びていますが、沿道の郊外型ロードサイド店舗が尽き、外旭川の市街地もそろそろ終わって、車のフロントガラスに移る風景が水田地帯へ切り替わろうとするあたりで、大きな十字路の角に更地が広がり、そこに複数のポンピングユニットが稼働していました。交通量の多い交差点ですから、ここをよく通る地元の方はポンピングユニットが上下している光景なんて、もうすっかり見慣れているのでしょう。
目の前ではガソリンスタンドが営業中なのですが、このスタンドで給油しても、この油田で汲み上げられる油は一滴も含まれていないのでしょうね。


 
十字路からさらに北上すると、水田地帯の真ん中に幾つかのポンプが立っており、青々と育つ稲の向こうには集油基地と思しきプラントの姿も見えます。


 
畦道の上を歩いて稼働中のポンピングユニットの前に立ってみました。育ち盛りの青い稲に囲まれながら石油が汲み上げられているだなんて、ちょっと信じられません。
周辺ではゲージ付きの配管が地面から出たり潜ったりを繰り返していました。


 
これらも稼働中のポンプです。茶色いポンプや青と黄に塗り分けられたポンプなど、塗装パターンにはいくつかあるようですが、ポンプ自体に何か違いがあるのでしょうか。いずれも、周囲に住宅が無いからか、心置きなく思いっきり動いているように見えました。


 
田んぼの一角に設けられているプラントの前までやってきました。「外旭川プラント」という名前のようです。外旭川地区の各ポンピングユニットで汲み上げられた石油は、配管を通じてここに集められているんですね。

ここまで紹介してきた各ポイントを動画でまとめてみました。
もしよろしければご覧ください。


(1分50秒)

駆け足で八橋油田における石油汲み上げポイントを巡ってまいりました。住宅地や田んぼに囲まれている油田って実に不思議です。しかも日本国内なんですから、余計に摩訶不思議です。秋田市公式観光サイト「あきたっち」でもこの油田は観光スポットとして紹介されているほどで(こちらをご参照ください)、珍しい光景は観光資源に十分なりうるものかと思います。
「あきたっち」の紹介記事によれば、油田からは石油の他に天然ガスも生産され、天然ガスは東部ガス株式会社に送られて、秋田市の各家庭で消費されているんだそうです。そして原油は各種石油製品に加工されるんだそうです。なお、1基の掘削ポンプから1日約1キロリットルの原油が汲み上げられ、この量の原油からガソリン280リットル、灯油 100リットル、軽油220リットル、重油400リットルが生産できるんだとか。ポンプ1基でガソリン280リットルか…。乗用車を満タン給油したら5台分にしかなりませんね…。八橋油田全部のポンプを集めても、せいぜい1日50台程度ではないでしょうか。とてもじゃありませんが、国内需要を賄うことはできません。この八橋油田を含めた国内の原油生産量は年間66万8000キロリットル(2013年度)で、国内需要のわずか1%にも満たない微々たる量です。いわずもがな99%以上を輸入に依存しております。
でも産油技術の向上はこの八橋油田に再び栄光をもたらすかもしれません。「河北新報」2015年10月25日付の記事のよれば、八橋油田の北部地区(おそらく外旭川地区)で40年以上前に操業停止した廃油田を調査の上、操業を再開させようとしているんだとか(当該記事はこちら)。当時は技術的な問題で掘削が満足にできず、相当量の原油を地中に取り残しているため、新しい技術を用いて再チャレンジしようとしているわけです。もちろん需給関係を大きく変動させるような生産は期待できませんが、でも多少なりとも産油量が向上すれば、国を揺るがす万一の事態には心強い味方になってくれるかもしれません。今年以降に調査や試掘が行われるそうですから、吉報がもたらされることを期待したいですね。

秋田県内には他にも油田がありますが、またいずれ機会があれば、別の場所も取り上げてみるつもりです。

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コメント (6)
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