温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

強首温泉 樅峰苑

2016年06月02日 | 秋田県
 
 
秋田県の強首温泉「樅峰苑」は、大正6年に建てられた豪農の民家が旅館として転用されており、その重厚感ある伝統建築が国の登録有形文化財に指定されていることで知られています。なるほど、実際に堂々たる構えの門、入母屋造りの屋根、そして立派な破風の目にしますと、その迫力に圧倒されてしまいました。建物の表側には破風を戴く玄関が2つ並んでいるのですが、「秘湯を守る会」の白い提灯がぶら下がっている手前側の脇玄関から入館します。


 
帳場で湯銭を支払い、その左脇から奥へ進んだ先にある浴場へと向かいます。
フローリングの脱衣室は、古いながらも適宜改修されており、気持ち良く使えました。さすが有名旅館だけあって、お手入れに抜かりはありません。室内には入浴回数券のポスターが掲示されていたのですが、ということは、入浴のみの利用も積極的に受け入れてくださるんですね。


 
ウッディーな浴室は、昼間でも明るさが程々に抑えられており、ただお湯の音が響くばかりで、落ち着いた雰囲気に満ちていました。えも言われぬ素敵な趣きと風格が感じられます。男湯の場合は室内右側に洗い場が配置され、4基のシャワー付きカランが間隔をあけて並んでいます。


 
浴槽はおそらく総木造。左隅の湯口からお湯が滔々と注がれており、湯船のお湯はオレンジ色に強く濁っていました。


 

浴槽を満たしたお湯は、窓下に設けられている排水専用の樋を通じて浴室外へと流れ出ていました。
その樋の上に並べられたカエルの置物がチャーミング。カエルですが三猿(見ざる聞かざる言わざる)のポーズをとっていたのでした。


 
湯船のお湯は排水専用の樋のみならず、人が入ると縁の上を越えて洗い場へも溢れ出ていました。浴室の床に敷かれているタイルには、こうしたオーバーフローによって温泉の成分がこびりついており、タイルが元々どんな色をしていたのか判別できないほどしっかりとコーティングされています。強食塩泉ですけど、圧倒的な数値の多さに隠れて見えにくいだけで、実は重炭酸土類泉としての側面も持ち合わせているんですね。

さて強首温泉といえば、強い石油臭を放つ温泉として温泉ファンの皆様には有名です。東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)に、天然ガスの採掘を目的としてボーリングしたところ、ガスではなく温泉が湧いちゃったのが強首温泉の発祥であり、こちらのお宿でも数年前まではその源泉から温泉を引いていたそうですが、2008年(平成20年)に敷地内で源泉を掘り当て、それ以来は自家源泉を用いています。湧出量は毎分240リットル以上もあるんだそうでして、湯量が豊富なのでふんだんにかけ流されています。
上述したようにお湯は橙色に濃く濁っており、口に含むとしょっぱさ、弱金気、ほろ苦みが感じられ、アブラ臭はそれほど強くないものの、新潟県の松之山温泉みたいな刺激を伴う臭素臭やアンモニア臭が嗅ぎ取れました。強首温泉の他のお宿で引かれているお湯からはアブラ臭がはっきり漂ってくるのですが、他の宿からちょっと離れた場所にあるこちらのお宿の自家源泉は、アブラ臭がそれほど強くはなく、昭和39年に掘り当てられた源泉とは似て非なる性質を持っているようです。湯船に浸かって自分の肌をさすってみますと、食塩泉らしいツルスベ感が優勢であるものの、若干のキシキシが混在していることに気づきます。また、湯加減は適温なのですが、濃い食塩泉ですから実際の湯加減以上に体が火照ってしまい、あまり長湯ができません。そして湯上がり後も汗がなかなか引きません。体力的にヘビーなお湯なのですが、それでもついつい後ろ髪を引かれてしまう不思議な気持ち良さがあり、湯あたりするかもしれないと感じて一旦湯船から上がっても、気づけば湯船に戻って再度肩までお湯に浸かっていました。
しょっぱくてアブラ臭を有する温泉といえば、先日拙ブログで取り上げた北海道の豊富温泉を思い出しますが、同様の温泉は北陸から北海道にかけての日本海沿岸に点在していますから、強首温泉もその一つとして捉えて良いんだろうと思われます。
なおこちらのお宿には宿泊客専用の貸切露天風呂もあるんだそうですから、いずれは宿泊してその貸切風呂も利用してみたいものです。



湯上がりのクールダウンを兼ねて、退館後にちょっと周辺を散策してみました。お宿の裏手に井戸らしきものを見つけたのですが、おそらくこれが源泉なのでしょう。


 
「樅峰苑」の敷地内に建つこの長い平屋の古い建物は、現在では「小山田家資料館」として古文書や古民具などが所蔵されていますが、かつて穀倉として使われていたもので、なんと元禄年間に建てられたんだとか。ということは、母家である旅館の建物よりもはるかに長い歴史を有しているんですね。
この資料館のすぐ横には、昭和22年7月に発生した洪水の時の水位を記した看板が立っているのですが、雄物川が急カーブする内側に位置する当地はいままで度々水害に見舞われてきたらしく・・・


 
お宿の真裏を流れる雄物川には「強首輪中堤」と称する立派な堤防が築かれていました。見るからに新しいこの堤防が完成したのはなんと平成14年のこと。それまでこの地域にはまともな堤防がなかったそうですから、大雨の度に水害が頻発するのは、地形的に不可避だったのでしょう。でもこの頑丈な堤防が整備されたおかげで、地域住民の方々はようやく安堵を得、以降は枕を高くして寝ることができたかと思います。もちろん堤防のすぐ前に建つこちらのお宿でも、堤防のおかげで宿泊客は安心して寛ぐことができるわけですね。治水事業ってありがたいものです。


樅峰苑の湯
ナトリウム-塩化物強塩泉 49.0℃ pH7.1 溶存物質21583.2mg/kg 成分総計21634.2mg/kg
Na+:7491mg(93.76mval%), NH4+:29.1mg, Mg++:25.0mg, Ca++:256.3mg(3.68mval%), Fe++:3.0mg,
Cl-:12620mg(96.50mval%), Br-:66.3mg, I-:0.4mg, S2O3--:0.2mg, HCO3-:734.5mg,(3.26mval%),
H2SiO3:87.6mg, HBO2:83.6mg, CO2:51.0mg,
(平成20年3月12日)
加水加温循環消毒なし

秋田県大仙市強首字強首268  地図
0187-77-2116
ホームページ

日帰り入浴11:00~15:00
600円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント
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