温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

由布院温泉 加勢の湯(西石松)共同浴場 2019年12月再訪

2020年10月02日 | 大分県
引き続き大分県の温泉を巡ります。前回の大分市から鉄道で内陸へ移動し、全国的に有名な由布院へとやってまいりました。拙ブログでも由布院の温泉は何度か取り上げていますが、今回は数年前からの宿題だった或ることを果たすために、駅前の観光案内所で自転車を借りて某所へと向かったのでした。


その場所とは加勢の湯(西石松)共同温泉です。拙ブログでも2013年に一度取り上げていますが(当時の記事はこちら)、その時には浴槽にお湯が張られておらず、入浴することができなかったのです。そこで今回再び訪ねて入浴を果たしたかったのでした。


昔ながらの共同浴場ですから常に無人。料金箱に湯銭を納め、仏様に合掌してから中へ。


よかった…。今回はしっかりお湯が張られていました。


お湯を汲み上げるベビコンポンプもしっかり稼働音を唸らせており、湯口からは絶え間なくお湯が注がれていました。


前回訪問時には気付かなかったのですが、壁に掛かっていた古い鏡には、「国防地下」(足袋)という文字があってビックリしました。世界長ゴム(現在の世界長ユニオン)の足袋なんでしょうけど、あきらかに戦中か戦前のものですから、75年以上も入浴客の姿を映し続けているのかと推測されます。その間に日本社会は大きく変わっても、湯あみする人の姿はおそらく大して変わっていないはず。


古き良き時代の雰囲気を今に伝える、実に素晴らしい佇まいです。
モルタルの浴槽は2~3人サイズで、浴槽内で女湯側と貫通しています。浴槽に注がれたお湯は縁からしっかりオーバーフローしていました。言わずもがなの完全かけ流し。


湯船には温度計が下げられていました。この時の湯加減はちょっと熱め。それゆえ、お湯の投入量は絞り気味になっていましたが、でも東京の下町の銭湯に比べたら大したことないでしょう。
湯船のお湯は無色透明でほぼ無味無臭。サラサラとした優しいお湯で、多少熱くても気持ちよいので、いつまでも浸かっていたくなります。実際、私は湯船に入ったり出たりを繰り返し、ここに1時間ほど居続けました。お湯が良いのはもちろん、この雰囲気に包まれることに恍惚感を覚えるのです。やっぱり昔ながらの共同浴場はブリリアントですね。


単純温泉 67.7℃ pH8.1 湧出量測定せず(掘削動力揚湯) 溶存物質0.615g/kg 成分総計0.650g/kg
Na+:125.0mg(90.97mval%),
Cl-:66.1mg(29.38mval%), HCO3-:238.0mg(61.61mval%),
H2SiO3:144.0mg, CO2:35.2mg,
(平成31年4月16日)
加温循環消毒なし
加水は多少あるようです

大分県由布市湯布院町川南 

7:00~22:30
100円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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金池温泉 ホテルクドウ大分

2020年09月26日 | 大分県

引き続き大分市の温泉を巡ります。連続して取り上げている大分の各温泉は2019年の年の瀬に巡ったのですが、貧乏暇なしの毎日を送る私はなかなか旅程を確定することができず、出発の2日前になってようやく旅先を決めたため、泊まってみたいと考えていたお宿は既に満室で予約不可でした。なるべく安く、そしてせっかくならかけ流しの温泉に入れる宿に泊まりたい。また当日の夕方にレンタカーを返却し、翌朝の早い時間から列車に乗りたかったため、できるだけレンタカーの事務所や駅に近い場所で宿を見つけたい・・・。九州へ向かう飛行機に乗るため羽田空港でスマホをいじくって宿探しをしていたところ、こんな私のわがままな条件を満たしてくれるビジネスホテルが見つかりました。大分駅から徒歩数分の「ホテルクドウ」です。年末という繁忙期にもかかわらず、温泉浴場を利用でき且つ朝食付きでなんと4,800円以下という驚くべき料金設定に驚き、気づけばスマホ画面の「予約」をポチっと押していました。

建物・受付などはごくごく一般的な、やや古い地方のビジネスホテル。客室内部の様子は撮影し忘れてしまったのですが、アコモデーションも極めて普通で過不足なく、(私の泊まったシングルルームは)やや狭いものの数日過ごす程度なら全く問題ありません。
朝食は2階食堂でいただきます。メニューは選べず、たしか和定食だったはず。でも朝食付きで温泉にも入れるにもかかわらず、5,000円札を出してお釣りが返ってくるのですから有難いじゃありませんか。


さて、肝心の温泉へと参りましょう。
お風呂は1階のフロント奥にあります。


廊下に面して2つの浴室出入口が対峙してます。普段は男湯が「岩風呂」、女湯が「御影の湯」と分かれているのですが・・・


私が宿泊した日は運が悪いことに「岩風呂」が改修工事中で利用できなかったため・・・
(現在は利用可能です)


「御影の湯」を時間帯によって男女交互に使い分ける運用となっていました。
従いまして今回記事では「御影の湯」のみのご紹介となりますが、何卒ご承知おきください。


ひと昔前の日本の施設によくある構造として、男女別のパブリックスペース(トイレやお風呂など)を設ける場合、男側を大きく確保する一方で女側を狭くする傾向がありますが、こちらのお風呂もその典型的な造りになっており、リニューアルにより見た目は綺麗になっていますが、そもそもの部屋の大きさは変わらないためか、普段女湯として使われる「御影の湯」はかなり狭く窮屈な感じは否めません。また改修されているとはいえ、建物自体の経年が進んでいるため、どことなく草臥れている感も伝わってきます。でも脱衣室にはエアコンが設置されており、また一通りの備品類も揃っているため、使い勝手には問題ないかと思います。

浴室は名前の通り御影石やそれを模した建材を多用しており、室内からは明るく優しい印象を受けます。室内の奥に浴室が設けられ、その手前左右にシャワーが2個ずつ(計4ヶ所)取り付けられています。なおシャワーから出てくるお湯は真湯です。


御影石の浴槽は2人サイズ。湯口から絶え間なくお湯が注がれ、縁から惜しげもなく溢れ出ています。お湯の投入量は決して多くないものの、浴槽がコンパクトなため、私が湯船に入るとお湯が豪快にオーバーフローし、洗い場は一時的に洪水状態になりました。実に贅沢な気分を味わえ、とっても幸せでした。しかも私が利用した日は日帰り入浴を受け入れていなかったため、お湯のコンディションも良く、非常に気持ち良い湯あみを楽しむことができました。

こちらのお湯は大分市の市街地に多い典型的なモール泉で、はっきりとした紅茶色を呈しており、湯中では褐色の大小浮遊物もちらほら舞っています。お湯からはいかにもモール泉らしい匂いとともに燻したようなアブラ臭が漂い、清涼感を伴うほろ苦さが感じられます。泉質名はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉ですが、舌に伝わる塩気は僅かでした。お湯に浸かると大変滑らかでツルツルスベスベの気持ち良い浴感が全身を包みます。
個人的には好みのタイプのお湯であったため満足のゆく湯あみを堪能でき、お蔭様でぐっすりと熟睡することができました。


なお今回利用できなかった男湯「岩の湯」の様子はこの上画像の通り(公式サイトよりお借りしました)。

宿泊者は無料で何度も利用できるほか、日帰り入浴利用もできるため、列車で旅をしている時に大分駅で途中下車してひとっ風呂浴びるのもよいでしょう。リーズナブルに宿泊しながらかけ流しのモール泉に入れる、コストパフォーマンスの良いホテルでした。


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 55.2℃ pH記載なし 溶存物質1.870g/kg 成分総計1.886g/kg
Na+:416.0mg(88.34mval%),
Cl-:150.0mg(20.19mval%), Br-:0.4mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:1010.0mg(79.00mval%),
H2SiO3:204.0mg, CO2:15.7mg,
加温加水循環消毒なし

大分県大分市金池町1-11-6
097-532-3981
ホームページ

日帰り入浴11:00〜23:00(受付22:00まで)
400円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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丹生温泉 和みの湯

2020年09月22日 | 大分県

前回記事では別府に寄り道しましたが、今回は再び大分市内に戻ります。
先月に拙ブログで取り上げた大在温泉から大野川に沿う形で山の方へ南下してゆくと、やがてキャノンの大きな事業所が左手に見えてきます。このキャノンを目印にしながら通りの右側へちょっと逸れると、一軒の温泉公衆浴場にたどり着けます。その温泉の名前は「丹生温泉 和みの湯」。ちなみに丹生と書いて「ニュウ」と読むのですが、岐阜県飛騨地方には丹生川(ニュウガワ)温泉がありますし、各地にも丹生川という川が流れていますから、全国を旅なさっている方なら読むことができるでしょう。


市街地の外れに位置しており、周辺には上述のキャノン以外にこれといった建物は無く、それゆえか浴場の駐車場もそれなりに広いので、楽に車をとめることができました。平屋の建物に入り、玄関に設置された券売機で料金を支払い、受付に券を差し出します。


浴室は受付の右側にあり、反対側(左側)には休憩の座敷部屋が配置されています。


館内に掲示されている壁新聞によると、大分市と丹生振興会がかねてから進めていた温泉掘削工事が功を奏して2003年に現在の温泉を掘り当てたらしく、その紙面には湧き出た温泉の前で笑顔を浮かべる地元の方々の姿の写真が掲載されていました。「出ます・出します・出しました」という場末のパチンコ屋みたいな三段活用のコピーが実にユニークですね。

さて、入浴ゾーンは写真NGのため、大分市公式サイトより拝借した画像と文章で紹介させていただきます。
語弊を承知で申し上げると、脱衣室はプレハブ小屋みたいな簡素な造りなのですが、無料のロッカーはあるし、ドライヤーも用意されているので、使い勝手に問題はありません。室内の設備類には「大分市備品」のシールが貼られているのですが、それもそのはず、この浴場は大分市営なんですね。


浴室はタイル貼りでごくごく一般的な公衆浴場なのですが、窓が大きく確保されているため、室内は明るく快適な環境が保たれています。また洗い場にはシャワー付きカランが5個取り付けられているのですが、ひとつひとつの間隔が広いため、お隣さんとの干渉を気にせず利用することができます。しかも310円というリーズナブルな料金設定にもかかわらず、ボディーソープやシャンプーが備え付けられているのでとっても便利です。
内湯の浴槽はタイル貼りで大きな窓の下にあり、私の目測で3.5m×2.5mほど。10人サイズでしょうか。男湯の場合は右奥の湯口よりお湯が注がれており、浴槽を満たしたお湯は露天風呂出入口近くの切り欠けよりしっかりオーバーフローしています。なお私が訪問した時の湯加減は41~2℃でした。


露天風呂は周囲こそ塀で囲まれていますが、塀の上には特段何もなく、周囲に広がる木々が目に入ってくるだけなのですが、かといって殺風景でもなく閉塞的でもなく、屋外らしい開放感はしっかりと得られるかと思います。
露天風呂の浴槽もタイル貼りで、内湯より一回り小さい容量。湯口より投入された温泉のお湯は、投入量に見合った量がしっかりとオーバーフローしていました。なお内湯も露天風呂も、湯口の下は焼け爛れたような色に染まっており、デコボコとした析出が付着していました。

お湯に関するインプレッションですが、見た目は淡い黄色(若干山吹色)ながら透明は高く、口に含むとしっかりとした塩味が感じられます。お湯からは何かしらの匂いが嗅ぎ取れますが、おそらく消毒剤のカルキ臭でしょう。なお湯船に浸かると食塩泉的なツルスベ浴感が得られます。
館内表示によれば放流式の湯使いながら湯温調整のため加温加水しており、いつもは41℃をキープするよう心掛けているそうです。しかしながら、たまたま露天風呂入浴時にスタッフの人が検温にやってきて計測してみたら、露天の温度は43℃になっていました。スタッフの方曰く、これはいつもより熱い湯加減であり、この数時間前の計測時にはもっと熱かったそうですが、お湯の投入量を絞ってようやく43℃になったんだとか。分析表によると湧出温度は46.7℃なのですが、現在ではもっと熱くなっているのか、あるいは加水をできるだけ行わないようにしているのかもしれませんね。
リーズナブルなのに、快適な入浴環境で気持ち良い温泉に入れる、なかなか素敵な公衆浴場でした。


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 46.7℃ pH7.3 湧出量測定せず(掘削1000m動力揚湯) 溶存物質5.308g/kg 成分総計5.324g/kg
Na+:1640.0mg(91.02,mval%),
Cl-:1950.0mg(71.53mval%), Br-:4.8mg, HCO3-:1330.0mg(28.35mval%),
H2SiO3:168.0mg, HBO2:20.5mg, CO2:16.3mg,
(平成25年3月8日)

大分県大分市大字丹生
紹介ページ(大分市公式サイト内)
097-522-1610

12:00~21:00(受付20:30まで) 第2水曜定休(祝日の場合は変更あり)
310円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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別府 春日温泉

2020年09月18日 | 大分県
拙ブログでは2019年の年末に巡った大分市の温泉を連続して取り上げておりますが、その時には別府の温泉にも数軒立ち寄っております。別府の温泉浴場については、多くの温泉ファンにより語り尽くされている感があり、今更私が訪問記を述べたところで陳腐で退屈な内容になってしまいそうですから、今回の記事では簡潔に述べて参ります。


別府駅で列車を降りた私が向かったのは、駅から徒歩圏内にある春日温泉です。有名な海門寺温泉の近くに位置しており、周辺は静かな住宅地なので夜は暗くてわかり難いのですが、マニアなら辺りの雰囲気などですぐその存在に気づくはずです。


建物の右側に出入口があるのですが、その手前に開いている小窓をスライドさせ、湯銭を投入します。


出入口は男女別。


出入口のドアを開けるといきなり浴室になるという、いかにも別府の共同浴場らしいスタイル。別府のお風呂はこうでなくっちゃ。


脱衣室と浴室の仕切りが無い脱浴一体型のレイアウト。L字型にスノコが並べられています。


タイル張り浴槽は目測で1.8m×2.4mほどの大きさ。無色透明のお湯が張られています。


奥には石仏が鎮座し、入浴者を見守っていました。


石仏の下が湯壺です。そこには木の棒が刺してあり、棒を抜くと熱い源泉が注がれ、刺し込むと浴槽への供給がとまる(お湯は浴槽へ流れずに排水される)という、実にアナログな仕組みでお湯の供給量をコントロールしています。言わずもがな、完全かけ流しの湯使いです。

実際に入浴してみたところ、お湯はほぼ無味無臭で、ちょっと熱めだったものの、サラサラと軽く滑らかなフィーリングが得られる優しいお湯でした。毎日入るお風呂なら、変に個性があるタイプのお湯よりも、このような優しくマイルドなお湯がいいですね。湯船に浸かると思わずニンマリしてしまうブリリアントなお風呂でした。


ナトリウム-炭酸水素塩温泉 58.7℃ pH7.7 湧出量測定せず(動力揚湯) 成分総計1.317g/kg
Na+:206.6mg(67.80mval%),
HCO3-:649.6mg(79.19mval%),
(令和元年9月24日)
※分析表の判読が難しかったため、上記数値は誤っている可能性がございます。

大分県別府市駅前本町6-16
0977-23-1486

6:30〜11:30、15:00〜23:00
100円
備品類無し

私の好み:★★+0.5
コメント (3)
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大分市 塚野鉱泉

2020年09月11日 | 大分県
温泉は入浴するだけでなく、飲用により健康増進効果がもたらされることは皆さまご存じの通り。温泉は得てしてミネラル分が多いことから、ヨーロッパでは温泉を「飲む野菜」と表現することもあるそうです。拙ブログではチェコのカルロヴィ・ヴァリにある飲泉場を取り上げたことがありますが(その記事はこちら)、当地では飲泉が街を代表する文化として確立しており、非常に立派な飲泉場が街の中心部に設けられています。

さて日本でも細々ながら、古から飲泉の文化や習慣が根付いているわけですが、今回湯めぐりしている大分市には昔ながらの湯治場的な鉱泉があり、いまなお飲泉による湯治が実践されていますので、どんな鉱泉なのか体験するべく行ってみることにしました。


大分市街から国道442号を西進し、沿道の景色が市街地から山間部へと移ろおうとする辺りで、国道から細い道に入ってゆくと、その先にあるのが今回訪ねる塚野鉱泉です。当地には「山水荘」など2~3軒の旅館が営業しているらしく、泊まりながらじっくり湯治することもできるのですが、今回は泊まらずに外湯へ立ち寄り入浴させていただくことにしました。上画像に写っている建物が「山水荘」なのですが、今回はこの建物の目の前を歩いて通過します。


歩道を進んだ突き当たりにあるのが「塚野霊泉」。実に渋い佇まいであり、単なる鉱泉井とは異なる、不思議な空気感が横溢しています。正直なところ薄暗くて気味が悪いので、「アタシって霊感が強いの」と自称するような人だったら、「あ、いるよ。白い光が見えた」なんて嘯いちゃうのでしょうけど、そのあたりに関して鈍感極まりない私は何も感じることなく、「こんなしっかりした建物が組まれているのね。それだけ多くの方々に頼られているのね」と感心するばかりでした。


建物の前には妙見菩薩の石仏、そして「礦泉」と彫られた明治17年の石碑が並んでいます。この鉱泉の歴史はさほど古くなく、明治16年に地元の方々によって発見され、その翌年(つまり明治17年)、地元有志の尽力により大分県から浴用と飲用の許可が下りたんだとか。ということは、ここにある石碑は県から許可が下りたことを記念して彫られたものと推測されます。


建物の中はこんな感じ。霊感や物の怪などを一切信じない私でも、石灯篭や石祠を目にするとさすがに神妙な心持になり、失礼なことはしちゃいけないな、と自分を戒めながら源泉に近づきました。


「源泉」と彫られた場所を覗き込むと、たしかに内部では無色透明の鉱泉が湧いており、鉱泉とともに上がってくる炭酸ガスを吸い込んで軽く咽てしまいました。鉱泉を持ち帰る際には、上述の「山水荘」で所定の料金を支払うのですが、軽く飲泉を試す程度なら無料でOK。実際に汲んで飲んでみますと、少々ぬるく、塩味とカルシウムらしい硬い味、出汁味、金気味、そしてはっきりとした炭酸味とシュワシュワ感が口の中に広がりました。端的に表現すれば炭酸ガスを多く含む塩化土類泉であり、同じく大分県の長湯温泉や七里田温泉、あるいは北海道の濁川温泉、福島県会津の只見川流域、長野県や岐阜県の御嶽山周辺、兵庫県有馬温泉、山陰の三瓶山周辺、鹿児島県霧島の天降川流域などなど、同じタイプの鉱泉・温泉は全国各地に点在していますので、さほど特別に珍しい泉質というわけでも無いでしょう。さらに言えば、冒頭で触れたチェコのカルロヴィ・ヴァリも完全にこの手の泉質です。従いまして、全国の温泉を巡っているマニアさんがこちらの鉱泉を口にしたところで、確かに不味いけど塩化土類泉らしい味だ、という感想を抱いてすぐに同類の他の温泉と比較しちゃうかと思います。でもネットでこちらを訪ねて飲泉した方の旅行記を拝見しますと、ひどく不味い、なかなか飲めない等々、鉱泉の嚥下に大層難儀なさっているようです。慣れているマニアとそうではない一般の方では感覚に大きな違いがあるようですが、一般の方が抱く「飲みにくい。まずい」という感覚は、後述する鉱泉の効能に大きな影響を及ぼしているのではないかと独りで勝手に推測しております。


鉱泉場の壁には寄進者の名札がズラリと並んでいました。つまり鉱泉を飲み続けることで実際に効果を得られた方がたくさんいらっしゃるのです。たしかに私が物見遊山でここを訪ねた時も、両手にタンクを持った中高年の夫婦が続々とやってきては、柄杓で鉱泉を汲んで持ち帰っていました。医学がどれだけ進歩しても、こうした鉱泉を頼みの綱にする方がいかに多いか、よくわかります。
私が鉱泉を飲んだり写真を撮ったりしていると、鉱泉場の中にあるベンチにで所在無げに座っているお爺さんが私に声をかけ、鉱泉の効能についていろいろと話してくださいました。上画像にも箇条書きにされた鉱泉の効能が写っていますが、どうやら飲むことで消化器系の疾病に何らの効果をもたらすようです。お爺さん曰く、そこに書いてある効能書きが嘘じゃないよ、飲泉を続けて胃カメラを飲んだら病気が治っていた人がいるとか、鉱泉を沸かしたお風呂に入ったらコウノトリが飛んできた(子宝に恵まれた)奥さんがいるとか、とにかくお爺さんは具体例を一つ一つ挙げながら効能を強調していました。そんなに凄いのかぁ…。


さて飲泉を体験したところで、その鉱泉を沸かしたお風呂に入ってみましょう。こちらの浴舎は「山水荘」の外湯という位置づけのようです。


この浴舎は常時無人であるため、利用の際には出入口の前に置かれている料金箱に所定の湯銭を納めます。


棚しかない至って質素な脱衣室を抜けて浴室へ。訪ねたのは12月の寒い日だったため浴室内は湯気で曇っており、見難い画像となっております。ごめんなさい。
浴室も実用本位で洗い場と浴槽1つがあるだけという大変シンプルな造り。草臥れれたタイルが渋い湯治場風情を醸し出しています。


わずか200円のお風呂なのに、なんと洗い場のカランからはボイラーで沸かしたお湯が出てくるのです。これはありがたい。ただし4~5基あるシャワーの間隔は狭いので、利用時はお隣さんと干渉しないよう気を付けましょう。


源泉は20℃未満ですから浴用に際しては加温されます。上画像のコックを開けると加温された鉱泉が勢いよく吐出されました。なおお湯は常時投入するものではなく、普段は締めておいて必要に応じ客が任意でコックを開けてお湯を出す、という使い方をしています。
浴槽は4人サイズで、基本的にはタイル張りですが、縁には木材が採用されています。浴槽の鉱泉は灰色かかったオリーブ色(暗くて薄い緑いろ)に濁っており、塩味や石灰味は源泉と同様なのですが、加温に伴い炭酸ガスは抜けてしまっているので炭酸味は弱めです。カルシウムやマグネシウムが多いためか、湯中では強く引っ掛かる浴感(ギシギシとした感触)が得られます。湯加減は41℃でちょうど良いのですが、食塩の影響か実にパワフルに火照り、湯上りはしばらく汗が止まらず外套要らずでした。私の利用時にもこのお風呂には次々にお客さんがやっきて、皆さん思い思いに湯あみをして体を癒していらっしゃいました。

ところで温泉に関する私の蔵書を読んでいたら、この塚野鉱泉の飲泉湯治に関する興味深い研究を見つけました。日本温泉科学会編『温泉科学の新展開』(ナカニシヤ出版。2006年8月10日初版発行)の「第10章 温泉の医療人類学的研究(広島県立広島大学教授 沖田一彦著)」にて、塚野鉱泉の湯治客や旅館経営者等に対して行った聞き取り調査や各種調査に基づき、当地ではどのような湯治が行われ、どのような効能が人口に膾炙され、湯治客は何を期待しどのような効果を得、いかなる感想を抱いたのか、といったことが述べられています。すべてを紹介するととんでもなく長くなるので、思いっきり端折って要約しますと、次のようになります。

まず湯治客はみなさん、口コミなどによって「消化器系の疾病に効能がある」との情報を得て、方々からここにやってきます。そして宿に滞在しながら不味い鉱泉を我慢して一定量以上飲泉しつづけます。すると、どの湯治客にも下痢が起こります。排泄物が無色になるまで飲泉を繰り返すんだそうです。とにかくここでは飲泉して下痢を起こすことが肝要のようです。つまり飲泉が引き起こす下痢によって体内の宿便や毒素が除去され、これによって病気回復や健康増進につながるのだ、と考えられているようです。現代風に表現するなら「デトックス」でしょうね。そして「デトックス」を繰り返した結果、潰瘍が治ったり腫瘍が消えたりするんだとか。

しかしながら医学的見地によればこのような原理はかなり疑わしい・・・。なぜなら、医学的な宿便とは便秘と同義語であり、便秘そのものは大腸癌との関連が指摘されているものの、そもそも「『腸に何年もへばりつき』『毒素を出す』ような宿便は、医学的には存在しない」からです。たしかにこの鉱泉を飲むことで下痢が引き起こされますが、これは鉱泉に含まれるミネラル(Na+, Mg++)や炭酸ガスによるもので、どんな健康な人でも大量摂取すれば下痢をしてしまうのは当然の原理。私も以前に「ゲロルシュタイナー」を毎日大量に飲んでいた時があり、ほぼ毎日お腹を下していましたが、これと同じような理屈なのでしょう。

では、医学が進んだ現代社会でなぜ鉱泉の効能を信じる人がいるのか。その問いに対してこの研究では「人間が重い病気のような過去に経験したことのない事象に直面したとき、その不安を解消するために(中略)イメージや期待から作り出された仮設に基づいて行動を起こす」「そのようなイメージは(中略)客観的な知識(科学的な知識)に基づいて形成されたイメージよりもはるかに優位であり、より大きなリアリティーを形成させる」と述べています。つまり、初めから「治る」と期待して湯治場に赴くことでまず転地効果が得られ、言い伝えに従い不味くて飲みにくい飲泉を続け、下痢を起こし毒素の元凶と信じ込む「宿便」を排出することで視覚的・感覚的なリアリティーを獲得する。こうした行動によって、飲泉以外の理由で病気が回復したとしても、飲泉によって効果があったんだ、霊験あらたかなんだ、と確信するに至るようです。他の湯治場では「湯あたり」を経ることで効能が得られるという共通認識がありますが、これも同様ですね。つまりどんな先端医療であっても取り去ることができない患者の不安感を、一定の苦しいプロセスを経過しながら目に見える分かりやすい現象で納得させているのが湯治なのかもしれません。もはや宗教に近いものがあるように思います。しかしながら自己治癒力を高めるには患者自らの精神状態を向上させるのが良いわけですし、プラシーボ効果も無視できない力があるのですから、現代医学の不足点を補う意味で、湯治療法というのは意味があるのかもしれません。そもそも飲泉自体の効能は広く認められていることであり、当地における民間療法のような劇的な効能は期待できないものの、適切な量を適切に飲むことで健康増進に一定の効果が得られることは間違いないようです。かく言う私も、体調不良が続いたら、群馬県草津温泉に出かけてお風呂をハシゴしています。こうすることで実際に体調が回復するのですが、これも一種の思い込み効果なのかもしれません。信じる者は救われるという一つの真理を、この塚野鉱泉で実感しました。


含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉
15.7℃ pH6.2 4.7L/min(自噴) 溶存物質10.988g/kg 成分総計12.158g/kg
Na+:2940.0mg(76.77mval%), Ca++:235.0mg(7.04mval%), Mg++:282.0mg(13.93mval%), Sr++:12.0mg,Fe++:5.4mg,
Cl-:4090.0mg(69.34mval%), HCO3-:3110.0mg(30.63mval%),
H2SiO3:115.0mg, HBO2:110.0mg, CO2:1170.0mg
(平成15年2月7日)

山水荘
大分県大分市大字廻栖野21番地
097-541-0008

外湯7:00~11:00、13:00~20:00 年中無休
200円
備品類無し
鉱泉持ち帰りは2リットル200円(山水荘にて支払い)

私の好み:★★+0.5
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