明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
帰省中の暇つぶしで、有栖川有栖の「月光ゲーム」を十数年ぶりに再読したので、その感想。
前半はネタバレなしです。
本作は、和製エラリー・クイーンの異名を取るフーダニット(犯人当て)の名手、有栖川有栖の処女長編である。
有栖川有栖の作品は大きく分けて二つある。一つは大学生の有栖川有栖が語り手で、名探偵江神二郎と英都大学推理小説研究会(EMC)の活躍を描く「学生アリス」シリーズ。もう一つは推理作家有栖川有栖が語る臨床犯罪学者火村英生の事件簿「作家アリス」シリーズである。
作家アリスシリーズは、斎藤工・窪田正孝W主演でドラマ化され、本ブログでは全話感想を載せた。
しかし、読者の間では学生アリスの方が評価が高い。特に三作目の「双頭の悪魔」は、いまだに有栖川有栖の最高傑作とされている…と思う。本作は、学生アリスシリーズの第1作である。
EMCのメンバーがキャンプに行ったら山が大噴火して登山道が崩れた。一緒にキャンプしていた他の大学のメンバーと、総勢17人が取り残される。その中で連続殺人事件が発生。完全なクローズドサークル。犯人はこの中にいる! おまけに時々山が噴火して逃げ惑うパニック要素もあり。
論理が少し甘いところもあるが(後述)、正統派の本格ミステリー。謎解き、犯人当ての楽しさ満載。学生アリスではこの後恒例となる「読者への挑戦」が解決編の前に挿入される。
全ての手掛かりが提示されました。探偵はここまで読んできた貴方が得た情報だけを元に犯人を指摘します。さて、犯人は誰でしょう? というのが、読者への挑戦である。
これの意味するところはフェア。江神次郎は読者が知り得ない情報を使うことはない。この謎解き至上主義というか、厳密に組み立てられた論理の小説の雰囲気が探偵小説好きにはたまらない。
しかし、本作の魅力はそこではない。本格ミステリーとしては、続編の方が上。本作の本当の魅力は、青春小説だという点にある。
語り手のアリスが事件中に恋をする。相手が自分をどう思っているのか、その時々で変わる印象にドキドキしたりハラハラしたりするのが、おじさん的にも微笑ましい、且つ懐かしい感覚。しまいには、犯人は彼女ではないかという疑惑も湧き、一人悶々とする。甘酸っぱいというより、甘くて苦い恋を経て、アリスは少し成長したようにも見える。続編の「孤島パズル」「双頭の悪魔」も青春してるのだが、作者が若かったからか、本作が一番青い。恋愛小説を読んでみたい推理小説好きの男性全てにお勧めしたい。少女マンガっぽい絵柄でコミカライズされてるくらいで、女性にもウケると思われるので、女性も是非。
ここからネタバレあり感想。
今回何度目かの再読をして、2点、論理の甘さに気付いてしまった。
1.カメラのフィルム盗難の問題
犯人が一時的にモチのカメラを、切断した指の保管場所にしていたやつ。カメラの詳しい描写がないので断定はできないが、巻き上げは手動で、巻き戻しクランクのあるカメラと思われる。そういうカメラの場合、フィルムが入ってないと巻き上げ時に手応えが軽い。同時に、巻き戻しクランクが回らないので、フィルムが入ってないことに気づくはずなのだ。確かに初心者がやりがちなミスではあるが、モチがそのカメラに慣れてないとか、クランクが回ってないことに気づかなかったとか、一言入れておくべき。
2.懐中電灯が壊れた問題
犯人が手についた血を洗いに行った時に懐中電灯を壊してしまったのを、死体発見時に取り乱して落として壊れたことにした件。「それが、いつどうして壊れたかについて必然性のある説明が要る」と江神さんは言うが、そんなことある? 懐中電灯なんて、割と簡単につかなくなるものだ。急に接触が悪くなったとか、電池がなくなったとか。そんなのいくらでも誤魔化しが効くし、いつどこで壊れたのか厳しく追及されることもないと思うんだけど。
この2点が今回気になった。この他は問題ないし、この2点も初見の時は気づかなかったので、大した瑕疵ではない。
ただ、Amazonなどのレビューで、17人も登場人物がいて把握が苦痛、みたいなのが多かったので、それよりこっちの方が気になるよと書きたくなったのでした。17人っていったって、そのうち4人はEMCじゃん。