曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

有栖川有栖川「孤島パズル」の感想

2023-01-12 20:15:00 | 



帰省の暇つぶしで「月光ゲーム」を読んでから、学生アリスシリーズの再読ブームが来ている。先日、第二作の「孤島パズル」を再読したのでその感想。

アリス2年生の夏の話。アリスと江神さんがマリアの祖父の別荘のある孤島に招待され、そこで例によってクローズドサークル内の連続殺人事件、さらには宝探しに挑む。

マリア(有馬麻里亜)が初登場。英都大学推理小説研究会の紅一点。髪の色が赤っぽいセミロングで可愛い丸い膝、くらいしか描写はないが、アリス曰く「僕はこいつのことが好きだと言う男子を三人知っている」そうなので、美人なのではないかと想像する。

しかし、アリスとアリアが恋愛関係になりそうかと言うと、そうでもない。洗い髪のマリアをチャーミングだと思ったかと思えば、マリアとはそういうことにはならないとお互い思っているからこその冗談、みたいな述壊もあり、この二人はなんだか面白歯痒い。

アリスとマリアの喋喋喃喃としたやりとりが最高潮に達するのが、二人で夜の海へボートを漕ぎ出すシーン。アリスが漕ぎながら中原中也の詩を暗唱して「私ですらくらっと来た。本命の娘のときもしっかりね」「マリアがくらっとくるならメデューサでも陥落させられるな」「ひどい」の後ボート転覆、からの泳いでオール捜索。アリスが思いついた小説のタイトルが「夜泳ぐ」。

野暮を承知で解説すると、ジョン・ディクスン・カーのデビュー作及び同名の横溝正史「夜歩く」にひっかけた冗談である。



ミステリの方も、もちろんしっかりしている。ネタバレになるので全部は書かないが、ルルーの「黄色い部屋の謎」を覚えていない僕にとって、現在自分史上一位の密室トリックが登場する。トリックというか、「なぜ密室なのか」という理由が素晴らしく合理的。

前述のカーの「密室講義」に軽く挑戦したマリアの「ダイイングメッセージ講義」なんてのも披露される。

そう。マリアも推理小説マニアなのだ。学生アリスシリーズは、推理小説好きならにやけてしまうネタが随所に挿入される。

「地図に自転車のタイヤの跡がついたのは何故か」を、江神さんが論理に論理を重ねて突き止め、そのためには犯人はこの人でしかあり得ない、となって真相究明。都合のよい想像の入り込む余地のない、厳格な論理の物語。それを面白く読ませる作者の力量とキャラクター。

今回もまた、解決編の前に「読者への挑戦」が挿入される。

作者は、江神次郎が読者と同じ条件の下にたった今犯人を知ったことをお知らせするとともに、読者に挑戦する。あなたは犯人の名を直感ではなく、推理によって特定することができるはずだ、と。

作者の最高傑作は次作「双頭の悪魔」だというのが世間の評価で、僕もそう思って生きてきたが、今回読み直して「双頭の悪魔」が出る前は「孤島パズル」が最高傑作と言われていたことを思い出して、当時の気分になりかけた。これが最高かも、と。


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