明石全登は信繁に「大坂城に入って徳川を迎え撃ってくれ」と頼むが、信繁は断る。曰く、
1.自分は大軍を指揮したことがない。
2.囚われの身である。
3.そんなに戦が好きではない。
三つの理由のうち最後のひとつは意外だった。やはり国営放送ドラマの主役は平和主義でなくてはならないのか。
明石氏は片桐且元を連れてきていた。話によると、徳川と開戦しそうになっているのは、ほぼ且元のせいだった。
清韓とかいう感じの悪い坊主の「趣向」の危険性に気付かない。駿府に一ヶ月も居たのに家康と会えない。大蔵卿局に対抗して徳川の要求を捏造する。その嘘が皆の前でバレる。暗殺されると思って大阪を去るが、豊臣は窓口である彼を追放したと解釈されて開戦。
よくここまで、と思うほどすべてが裏目に出てしまった。
且元の失敗談を聞かされても信繁の気持ちは変わらない。そこへきりが現れて、行け行けと煽った。
「あんたは徳川と二回戦って二回勝った真田阿波守昌幸の次男坊なんだから、戦上手だと思って貰えるわよ」
「あんたは聚楽第落書き事件を解決できなかった。あんたが交渉したけど沼田城は結局北条に取られた。あんたも小田原城に潜入したみたいだけど、開城させたのはあんたじゃなく、後から説得に来たナントカ官兵衛さまよ。あんたは何も役に立ってない。生きてきた証がない」
今までの活動を全否定されてしまった。ていうか、この世界線にも官兵衛はいるのだな。
「私は今幸せなんだ」
「あんたの幸せなんて関係ない。大事なのはあんたが誰かに求められているってことよ」
ここはあんまり共感できなかったな。この時点での信繁には、自分を求めていると見えているのは明石全登と片桐且元だけだから。
「私が好きだった、がむしゃらでやんちゃで賢くてキラキラしていた源次郎様はどこに行ったの?」
それを40過ぎた無職のおっさんに言うのは酷だぜ。
案の定、信繁は「お前は鬱陶しいんだよ!!!」とブチ切れ。そんなことはすでに自分で自分に問いかけている。だが、「お前に言われると心にしみる。礼を言う」
その夜、信繁の中に思い出のシーンが次から次へと蘇ってきた。秀吉に秀頼の事を三回も頼まれた。秀吉の為に頑張っていた三成、宇喜多、大谷刑部など仲間たち。俺も亡き太閤様のために立ち上がるべきなのではないか。
北条氏政は天下を賭けた大戦をやってみたかったと言っていた。自分にも、今そのチャンスが巡ってきているのではないか?
ルソン助左衛門は、弱きものの守り神を自称していた。自分も豊臣家の守護神になるべきでは?
この時の為に言わせたんだろうなと当時思った茶々の予言。その予言が的中することを我々未来人は知っている。
「離れ離れになっていても、あなたはまたいつか戻ってくる。そして、私たちは同じ日に死ぬの」
そして父・昌幸の「お前はここを抜け出して豊臣に付け」という言葉。
自分が生まれてきた意味=宿命は何なのか。このまま何も成すことなくこの村で終わっていいのか。自分の眼差しの奥にくすぶっている熾火に気付いたのか、認めたのか。信繁は翌朝穏やかだが暗い顔をして里芋を掘っていた。
さらに、自分に縁のある言葉を片っ端から半紙に書き、一文字ずつ大助に切断させた。昔の人は子供でも刃物の扱いが上手いのかと思っていたが、大助の切り方は下手だった。その一文字ずつのくじを大助に引かせて、父の新しい名前を決めるという。
大助「そんな大事なことをくじで決めていいのですか」
信繁「大事なことだからくじで決めるのだ」
大事なことはくじで決めるのが真田家のルールなのだ。
すべての視聴者の予想通り、大助が引いた文字は「村」。信繁は「それも入れてしまったのかw」と苦笑したが、巻き戻してみてみると、ちゃんと「九度山村」と書いた半紙が中央付近に置いてあったぞ。
「幸」の字が入るのは決まっている。「村幸」と並べてみる。うーん、違うな。入れ替えてみる。全視聴者がゾクっとしたであろう瞬間。
「幸村」
「うむ。いい名だ」
すかさずナレも煽る。
「戦国最後の名将、真田左衛門佐幸村の誕生である」
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「神」という言葉は使いたくないのですが、今回は僕にとって「神回」でした。40過ぎた中年男が、今までの人生に納得していなかったこと、やり残していたことに気付き、生きてきた意味を見つけるために最後の勝負に打って出る。その決意をする。僕の中にそういう熾火が存在しているのかどうかはまだ分かりませんが、同じ中年男性として目が潤むほど共感しました。今まで真田丸は見た後すぐ消していたのですが、今回はブルーレイディスクに焼きました。たぶん最終回まで焼くでしょう。