〈私たちは、福島原発を中心とする半径100キロの日本の土地はすっかり放射性物質で汚れてしまったという現実を真正面から見る必要があります〉
〈今度の事故は、原子力というものを日本人が利用してはいけないということをいっているかもしれません〉
原発事故 残留汚染の危険性 [著]武田邦彦
[評者]長薗安浩
[掲載]週刊朝日2011年6月3日
■原発推進派の客観的な視点
東京電力の福島第一原発で事故がおきた直後から、ネット上では武田邦彦のブログが注目されてきた。私も何度となく読んでみたが、そこには今回の事故の原因 分析をはじめ、日本における原子力開発の根本問題、放射性物質の影響などに関するレポートが記されていた。時々刻々と報道される被害状況をふまえ、武田は データやグラフも添えて丁寧なコラムを書きつづけた。それらの内容は、素人が読んでもわかりやすく、客観的な視点に立っていると感じられるものだった。
だが、そもそも武田は原発推進派の科学者である。最近では環境学者としてテレビにもよく登場しているが、かつては旭化成のウラ ン濃縮研究所の所長や内閣府原子力安全委員会の専門委員をつとめた。本人の弁によれば「安全な原子力推進派」で、安全であれば推進、不安全であれば反対の 立場をとるらしい。
なんだか都合が良すぎる気もするが、頑強な推進派や反対派ではないところが、日本の現状(不安をかかえつつも原子力の恩恵にはあずかる)に即していて、多くの共感を得たのかもしれない。
この『原発事故 残留汚染の危険性』は武田のブログを基に構成されている。だから、専門的な用語や数字に苦労することなく読め る。そして、〈私たちは、福島原発を中心とする半径100キロの日本の土地はすっかり放射性物質で汚れてしまったという現実を真正面から見る必要がありま す〉なる文章に刮目(かつもく)し、最後に〈今度の事故は、原子力というものを日本人が利用してはいけないということをいっているかもしれません〉と書い た、武田の懺悔にも似た総括に暗澹(あんたん)とする。
世界初の原爆攻撃を受け、水爆実験にも巻きこまれた日本が今、最悪の原発事故に対峙している現実……。緊急出版のこの本を読み、私たちの現時点を冷静に考えてあらためて思うのは、「とにかく子どもたちを救え」ということ。中でも、福島の子どもたちを。
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