読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「家守綺譚」

2006年07月16日 | 作家ナ行
梨木香歩『家守綺譚』(新潮社、2004年)

この作家はほんとうに不思議な小説を書くなーと思う。これは時代は明治だろうか。電灯はまだ当てにならないとかなんとかいっているような時代だから、明治だろう。京都大学の学生とおぼしき高堂という友人がボートの練習中に琵琶湖で溺死し(たが死体は見つからなかった)、彼の父親が嫁に行った娘の近くに隠居するから、家守をしてほしいと頼まれ、売れない物書きの私(綿貫征四郎)が家守をしながら日々の出来事を書いたという設定になっている。場所は琵琶湖から京都に水をひくための疏水があるあたり。いまでも南禅寺のちかくにこの疏水の橋脚があって観光名所の一つになっている。あのあたりだろう。しかし時は明治で、なんともその時代の風情が、「私」の家の庭やその界隈にでてくる草花の精やら小鬼やら河童やら鮎の姿をした人魚のようなものやら、狸と狐の化かし合いやらが描かれていて、じつに面白い。もちろん史実を書いているわけではないので、この作者の筆の力である。この時代の風情を出すのに、この文体も一つの力になっている。「犬も見聞を広めたくおもうこともあろうよ。河童との別れを惜しんで旅愁に浸っているのやもしれぬ」だとか。

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