流行歌
歌というものはほんとうに不思議だ。何十年たってからでも、ある流行歌を聞くと、その歌をよく聞いていた頃の自分の精神状態とか出来事とかが、一瞬にして思い出されるからだ。こういうイメージ喚起の力というのは香りにもあるようだ(このことは以前『匂いのエロチシズム』という本について書いたときにも触れた)。音楽のこうしたイメージ喚起力については、クラシック音楽ではあまり聞いたことがないが、流行歌ははやり一時的な流行ということがついてまわるので、ある特定の時期の自分の精神状態と結びついているのだろう。それとその歌が流行っているときには、やたらとあちこちで耳にすることが多いことも関係しているのだろう。
なぜこんなことを思うのかというと、最近、たまたまカーペンターズの「イエスタデイ・ワンス・モア」を耳にしたところ、突然大学一年生のころの下宿にいる自分、先が見えず不安な自分の精神状態をありありと思い出したからだ。下宿の夜、親元から遠く離れて暮らす自分、なんだか解放感もあるが、なにかに打ち込んでいるわけでもなく、わけの分からない寂しさに包まれている自分を思い出した。とくに印象に残っていた曲ではない。どちらかといえばカーペンターズは好きなグループではなかった。だから意図的にこの曲を聞いたわけではないし、こんな思いが甦ってくるとは思いもしなかったし、まるで大学一年生の自分に戻ったような気がしたので、すごく驚いたわけだ。
私の思い出の歌といえば、千賀かほるの「真夜中のギター」だ。中学の1年の時、同級生でクリスマス・パーティーをした。当時の田舎の子どもにとってはすごいことである。10人くらいの男女が集まって(そのなかの一人の子の家を貸しきりにしたようなものだった)、ゲームをしたり一緒に「シャボン玉ホリデー」を見たりした。帰る頃には真っ暗で、雪がしんしんと降っていた。まさにクリスマスの夜の雰囲気にぴったり。私はみんなと方角が違うので、一人で帰った。しんしんとふる雪の中を歩き、町並みがとぎれると真っ暗。でも雪が積もっているので、ほんのりと明るい。雪がまわりの音を吸収してくれるので、ほんわかと静か。そのころはまだ車もあまりなかったから、誰一人、車一台通っていない白い道を一人で帰った。その頃に流行っていたのが「真夜中のギター」で、なぜかこの二つは私の中ではセットになっている。
もう一つはガロの「学生街の喫茶店」。これは私が高校生の頃に流行った歌で、「あのころは」で始まるこの歌は、高校生の頃の私の自分の中に閉じこもり、勉強も手がつかず、何もやる気がしないで、ただもんもんと日々を過ごしていた自分と重なる。もちろん好きな子ができてもまともに告白もできず、自分を卑下したり嘆いてみたりした精神状態も思い出される。「私の青春譜」というCD10枚くらいに収められた60年代から70年代のフォークソングにこの歌を見つけて久しぶりに聞いたときには、感動した。
きりがないので最後にすると、イルカの「なごり雪」。これはテレビでもときどき演奏されたりするので、思い出をもっている人がたくさんいるのだろうと思う。私の場合は、学園闘争のころ、大学がロックアウトになり、試験がなくなってレポートに切り替えられ、それを出し終わった後、大学の近くの知り合いの下宿から出かける雪道が、なぜか思い出される。あの頃のなぜか高揚していた精神状態とイルカのちょっと鼻にかかった歌声が懐かしい。
こうやって思い出してみると、他にもユーミンの「あの日に帰りたい」だとか太田裕美の「木綿のハンカチーフ」だとか、なんか感傷的な歌ばかりだけど、そういうのが甦ってくる。
歌というものはほんとうに不思議だ。何十年たってからでも、ある流行歌を聞くと、その歌をよく聞いていた頃の自分の精神状態とか出来事とかが、一瞬にして思い出されるからだ。こういうイメージ喚起の力というのは香りにもあるようだ(このことは以前『匂いのエロチシズム』という本について書いたときにも触れた)。音楽のこうしたイメージ喚起力については、クラシック音楽ではあまり聞いたことがないが、流行歌ははやり一時的な流行ということがついてまわるので、ある特定の時期の自分の精神状態と結びついているのだろう。それとその歌が流行っているときには、やたらとあちこちで耳にすることが多いことも関係しているのだろう。
なぜこんなことを思うのかというと、最近、たまたまカーペンターズの「イエスタデイ・ワンス・モア」を耳にしたところ、突然大学一年生のころの下宿にいる自分、先が見えず不安な自分の精神状態をありありと思い出したからだ。下宿の夜、親元から遠く離れて暮らす自分、なんだか解放感もあるが、なにかに打ち込んでいるわけでもなく、わけの分からない寂しさに包まれている自分を思い出した。とくに印象に残っていた曲ではない。どちらかといえばカーペンターズは好きなグループではなかった。だから意図的にこの曲を聞いたわけではないし、こんな思いが甦ってくるとは思いもしなかったし、まるで大学一年生の自分に戻ったような気がしたので、すごく驚いたわけだ。
私の思い出の歌といえば、千賀かほるの「真夜中のギター」だ。中学の1年の時、同級生でクリスマス・パーティーをした。当時の田舎の子どもにとってはすごいことである。10人くらいの男女が集まって(そのなかの一人の子の家を貸しきりにしたようなものだった)、ゲームをしたり一緒に「シャボン玉ホリデー」を見たりした。帰る頃には真っ暗で、雪がしんしんと降っていた。まさにクリスマスの夜の雰囲気にぴったり。私はみんなと方角が違うので、一人で帰った。しんしんとふる雪の中を歩き、町並みがとぎれると真っ暗。でも雪が積もっているので、ほんのりと明るい。雪がまわりの音を吸収してくれるので、ほんわかと静か。そのころはまだ車もあまりなかったから、誰一人、車一台通っていない白い道を一人で帰った。その頃に流行っていたのが「真夜中のギター」で、なぜかこの二つは私の中ではセットになっている。
もう一つはガロの「学生街の喫茶店」。これは私が高校生の頃に流行った歌で、「あのころは」で始まるこの歌は、高校生の頃の私の自分の中に閉じこもり、勉強も手がつかず、何もやる気がしないで、ただもんもんと日々を過ごしていた自分と重なる。もちろん好きな子ができてもまともに告白もできず、自分を卑下したり嘆いてみたりした精神状態も思い出される。「私の青春譜」というCD10枚くらいに収められた60年代から70年代のフォークソングにこの歌を見つけて久しぶりに聞いたときには、感動した。
きりがないので最後にすると、イルカの「なごり雪」。これはテレビでもときどき演奏されたりするので、思い出をもっている人がたくさんいるのだろうと思う。私の場合は、学園闘争のころ、大学がロックアウトになり、試験がなくなってレポートに切り替えられ、それを出し終わった後、大学の近くの知り合いの下宿から出かける雪道が、なぜか思い出される。あの頃のなぜか高揚していた精神状態とイルカのちょっと鼻にかかった歌声が懐かしい。
こうやって思い出してみると、他にもユーミンの「あの日に帰りたい」だとか太田裕美の「木綿のハンカチーフ」だとか、なんか感傷的な歌ばかりだけど、そういうのが甦ってくる。