読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「家族狩り」

2006年07月21日 | 作家タ行
天童荒太『家族狩り』(新潮社、1995年)

やたらと今年の梅雨は雨がよく降る。なんだか地球が異常な状態になっているような気がする。そして地球だけでなく人間も異常になっているのではないだろうか。最近も奈良の田原本市で、有名進学校の高校生が、母親とまだ幼い兄弟を放火によって死なせるという事件があったが、これも医者である父親からの学校の成績問題での暴力が普段からあったという。詳しいことは知らないが、死んだ母親というのも医者だが、こちらは後妻で、死んだ小さな子どもたちはこの後妻の子どもだったらしい。あちこちで子どもが親殺しをするという事件もあれば、いまのワイドショーをにぎわせているような、親の子殺しと、どうもそれを見ていたらしい隣の家の子ども殺しの事件もある。この小説は、子どもが親殺しをしなければならないほどに親の愛情が見えなくなった家庭の問題を描いている。ほんとこの天童荒太って人はすごい作家だ。私もうんうんうなりながら、三日もかけて読みきったけど、読み終えたときには、虚脱感で、どっと疲れた。

面白いとか面白くないというような範疇でくくれない小説だといえる。よくぞここまで書いてくれた。現代の日本が抱えている家族の問題、教育の問題の一番重要なところを、たしかに衝撃的な形ではあるけれども、抉り出して、われわれの目の前に突きつけてくれた功績は、大きい。とくに家族の問題は、だれも表に出したがらない。家族の中で解決すればいい、うちには関係のないこと、行政や学校には関わりのないこととしたいのだが、そうはいかないよということを、白日のもとにさらしてくれた。こういうことはもちろん教育評論家たちがあれこれ語ることではあるけれども、一般的には具体的な姿で見えることはない。この小説を読むことで、みんながこれを自分のこととして自分に問い返すきっかけとすべきではないだろうか。

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