読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「神保町の怪人」

2006年07月23日 | 作家カ行
紀田順一郎『神保町の怪人』(東京創元社、2000年)

紀田順一郎という人、なんか聞いたことあるけど、誰か分からないので、インターネットで調べたら、1935年生まれだから、今年で71歳になる評論家・作家のようです。おもに推理小説・怪奇小説・幻想小説が専門の人のようです。

東京の古書街として有名な神保町(「じんぼちょう」と読むようだ)に跋扈する古書愛書家の生態をミステリー仕立てに作った小説。第一話の「展覧会の客」はかなり古い時期(昭和40年代)の古書即売会(を展覧会と言っていたらしい)で、『晩鐘と暁鐘』という珍しい本が窃盗にあうという事件をめぐって、主人公が友人とあれこれ推理するというものである。古書の窃盗で有名な、しかしだれもその尻尾を掴んだことがない大沢真男が『晩鐘と暁鐘』という珍しい本を窃盗したのではないかというのが二人の推理なのだが、結局はこの古書を出した古書屋が犯人ではという憶測にいきつく。

第二話の「『憂鬱な愛人』事件」は、夏目漱石の門人であり、漱石の長女と結婚した松岡譲の『憂鬱な愛人』の下巻を巡って、自分は歌人であって古書屋ではないと豪語しつつ、やっていることは古書屋と同じ、と後ろ指をさされている、曲者の高野が主催する古書販売会で、私がほしかった下巻を落札したのに、目の前でなくなってしまうという事件の推理である。これの謎解きは、この販売会に一緒に参加していた中島という男の謎解きの手紙という形でなされる。

第三話は、時代は1999年、インターネット販売の時代である「電脳恢々事件」。国際文化大学の図書館司書の長沢という女性が何者かに殺されコンピュータと古書が持ち逃げされるという事件の推理である。この大学の真鍋という女性講師と長沢のお金のもつれによる殺人と、古書を食い物にして名誉教授にまでなった笠井の論文剽窃に関わるパソコンと古書の持ち逃げが複合した事件だという推理がなされる。

この短編で興味深かったのは、私の田舎の米子の今井書店が主催する「書物の大学」というシンポジウムのことが触れられていたことだ。高校生の頃から日本文学を中心によく読むようになった私は学校の帰りとかに商店街にあった今井書店によくかよったものだ。まだ郊外型の大型書店はなく、この今井書店が米子では一番規模も大きく品揃えもよかった。ちょうど高校と家もしくは艇庫(前も書いたようにボート部に入っていたので、練習は錦公園にある艇庫まで行っていた)のあいだに、この今井書店があって、学校の帰りや、暇なときにはよく行っていた。鳥取大学の医学部が米子にはあり、大学生もよく来ていて、試験が何点だったなどという立ち話を聞いて、当時オチこぼれで勉強が嫌になっていた私は、「大学に行っても、あんなことを気にしなきゃいけないのか」と思ったりしたものである。その今井書店が全国規模の「書物の大学」という催しをしているというのを知ったのは割と最近だ。きっと田舎に行って、郊外にある今井書店に立ち寄ったときのことだろう。この小説にも「五年前」から開かれていたのが「今年が最後」というように書かれているので、いまは開催されていないのだろう。この郊外の今井書店もなくなってしまった。なんとも寂しいかぎりだ。

まぁ小説としては、どうということのない作品だ。

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