仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?③

2020年09月11日 | 現代の病理

『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』 (光文社新書・ 2020/5/19・山田 昌弘著)のつづきです。以下転載です。

 

日本社会では、たとえ愛があっても、子どもが好きでも、経済的条件が整わなければ、結婚や出産に踏み切らない人が多数派なのだ。

私は、1996年に出版した『結婚の社会学』(丸善ライブラリー)の中で、「収入の低い男性は結婚相手として選ばれにくい」という現実を指摘している。

 

「収入の低い男性は結婚相手として選ばれにくい」という現実は、単に偏見に基づく、意識上の差別ではない。

 結婚すれば夫婦で生活しなくてはいけない。生活にはお金がかかる。結婚後の生活を考えれば、収入の安定した男性と結婚した方が、女性にとってよい選択であることは明らかである。

 

 キャンペーンをして現実が動くなら、こんなに苦労はしないのだ。そもそも子どもが嫌いだから産まないという人はごく少数で、「産みたくても産む条件が整っていないから産まない」多数の人に対し、キャンペーンを打ったところで意味はない。

 

現代日本社会では絶対に外せない、特有の価値意識を、まず2点指摘しておこう。 ―つは、①将来の生活設計に関するリスク回避の意識である。

 現代の日本人の多くは、将来にわたって中流生活を維持することを至上命題にしている。そして、将来にわたって中流生活を送れなくなるリスクを避けようとする。

 日本人にとっては、生活設計において、「男女交際」「結婚」「出産」「子育て」「子の教育」そして、「子育て後の老後生活」の問題は、ばらばらにあるのではなく、相互に密接な関係を持ったものとして意識されている。

 現在、若者は、老後に至るまでの将来にわたる「生活設計」を考えざるを得ない時代になっている。

 

もう1つは、②日本人の強い「世間体」意識である。

 若者は、結婚、子育て、そして、老後に至るまで「世間から見て恥ずかしくない生活」をしなければならないと考えている。それが、日本の少子化に大きく影響している。

 世間体とは、家族、親族、友人などの自分の身の回りの他者が、自分に下すと思われる評価を言う。

 つまり、自分たちさえよければ、結婚、出産、子育てするというわけにはいかない。結婚したら、そして、子どもを産んだら、子どもを育てたら、子どもが大人になったら、世間からどのように見られるかを常に意識して行動せざるを得ないのだ。

 その意識は、若い人の間でも、弱まるどころか、ソーシャル・メディア、いわゆるSNSの発達で、かえって強まっている気配さえある。

 この2つの価値意識は、日本の少子化問題の考察のためには不可欠なのにもかかわらず、今まで無視されていた視点である。

 加えて、この2つの価値意識がある結果、出てくる特有の問題が、③強い子育てプレッシヤーである。(つづく)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする