仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

言葉について⑦

2022年11月30日 | 日記

7.言葉と記憶は密接な関係にある

米国の動物行動学者、R・ヤーキーズ(1876- 1956)の実験に興味深いものがある。小さな窓のついた部屋にチンパンジーをいれる。その小さな窓に赤か緑の板が不規則な順序であらわれる。赤の板が出たときに側にあるレバーを押すと、その板は消えて一定時間がたってから餌が出てくる。緑の板が出たときにレバーを押しても板が消えるだけで餌は出てこない。次の実験は、板が消えてから餌が出てくるまでの時間を四~五秒以内にする。するとチンパンジーは、このしくみを覚えいつでも餌を手に入れることができる。ところが、餌の出てくる時間を、板が消えてから五秒以上になると、何回繰り返しても決して覚えられない。五秒以上になると、色と餌の関連性を忘れてしまう。

 

最幼児期記憶―臨界年齢とその意味

 では、このような最幼児期記憶は何歳くらいまで遡れるのであろうか。またそれ以前の記憶はなぜ想起出来ないのであろうか。小児期の特徴的な出来事に対する記憶について研究したFyC・シャインゴールド&Y・J・テニーは弟や妹が誕生したときさまざまな年齢であった被調査者を集め、弟や妹の誕生当時の状況に関するいろいろな質問、例えば、「お母さんが赤ちゃんを連れて帰ってきたときは、あなたは何歳ごろでしたか?」などの質問をし、それらの正想起得点がゼロとなる誕生時上限年齢が三歳未満であること(三歳未満のときに起こったことを正確に記憶していることはないということ)、そしてそれ以後想起得点は急激に上昇することをつきとめた。このことから、最幼児期記憶の臨界年齢はおおよそ三歳前後といってよいであろう。

 ところで三歳以前の出来事がほとんど記憶に残っていないのはなぜであろうか。…これを理解するには、逆に、三~四歳以後の小児期において長期記憶が急速に可能となるのはなぜか、に注日しかほうがよいとS・ワルドフォーゲルは考える。

 第一に、認知情報が永続的な長期記憶に移行・定着するには精緻化リハーサルが必要であると考えられるが、リはーサルには言語の発達が不可欠である。第二に、特別な経験を他の一般的な事象から際立たせて認識するためには、それなりの意味記憶、知識スキーマ(知識の枠組)ないしスクリプト(我々がしばしば遭遇する典型的場面で常識的になされる行為や、自然な場面展開をひとまとめにした知識表現)の習得が必要であろう。これらの習得・発達時期はちょうどこの年齢期以後に当たっていると考えるのである。

 たしかに、意味記憶率知識スキーマースクリプトの習得・発達は新しく発生してくる物事の理解を容易かつ迅速にする。つまり、認識の効率化という点で大いに役立つ。

エピソ-ドの累積は逐次的・生活史的であり、その情報量は非常に大きくかつ一過性であるので、際立った弁別がなされる要件を備えていないと記憶に残存しにくい。そして何よりも、その発生時と同じ正確さを持って記憶しておくためには、その事象の相当な繰り返しとその都度の理解の努力が必要とされよう。エピソードの回想は人生を美しく豊かに彩るが、適切な意味記憶・知識スキーマースクリプトに基づく時々刻々の適切な認知は、生活適応のために、言い換えれば、人が生きて行くために不可欠な道具なのである。(以上)

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正解のない問題

2022年11月29日 | 現代の病理

『産経新聞』(2022.11.29)「正論」に、「へー、そんだんだ」という、次の言葉がありました。

 

米国のテストには、正解のない問題も交ぜてあるが、日本では必ず正解が一つある。そこで若者は正解があると信じて、探す。正解を求めて次々と教団の扉を叩き、「宗教はしご」をするのだ。(以上)

 

なぜ「正解のない問題」が今、話題になっているのか? | manavi (zoshindo.co.jp)より転載です。

 

整理すると、「正解のない問題」は、「解が一意に決まらない」=「複数の正解がある」と誤解されることもありますが、それはちがいます。

 

正解のない問題というのは、正解を「発問者が予め決める」のではなく、「受験者が答えをつくりあげた」答案を、その妥当性や信憑性によって評価するということです。

 

発問者は課題を提示しますが、それへの回答は受験者がつくりあげます。発問者は、それを審議するのです。

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言葉について⑥

2022年11月28日 | 日記

6.パフォーマテイブ・行為遂行的言語

 

言葉には、パフォーマテイブ(執行)という性能がある。言葉が、世界をつくり出し、現実をつくり出すというはたらきがあるということです。たとえば「命令」、「転勤を命ず」。その命令によって勤務が変わるという新しい現実が生み出される。「約束」もそうだ。「明日、一緒に映画に行こう」という約束によって、映画に行くという現実が到来します。

「注意しろ、地面が滑り易くなっているぞ」 - 他人に注意するよう警告する言語行為
「夕食に間に合うよう全力を尽くすよ」 - 帰宅時間を約束する言語行為
「紳士淑女のみなさん、ご静粛に」 - 聴衆を静かにさせようとする言語行為
「あそこの建物で、私と競争しませんか?」 - 挑戦する言語行為

言葉には、世界を記述しているだけではなくて、世界をつくり出し、現実をつくり出すというはたらきがあるのです。 

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言葉について⑤

2022年11月27日 | 日記

5.言葉は意味を生み出していく

 (経験が生み出されていく) 

英語のriceは、日本語だと「イネ」「コメ」、「ゴハン」となります。植物としてのイネ、穀物としてのコメ、植物としてのゴハンとなり、ライスでは表さなかった意味が生まれます。このような違いは、それぞれの言葉を使っている人たちの文化的な関心の違いを反映しています。英語のブラザーも、日本の伝統的な文化において、長男と他の息子たちの間に設けられていた差別があり、兄、弟という言葉が生まれました。

 

サピア=ウォーフの仮説というものがあります。異なる言語を使うと、認識する世界観や概念のあり方が変化するという仮説で、言語相対性仮説とも呼ばれています。

古い本(1996年刊)ですが『発達心理学への招待』に次のようにあります。

 

文化人類学の領域でより積極的な仮説を提唱したのはサピアとウォーフの2人です。

彼らはそれぞれいわゆるアメリカ・インディアンの言語を研究し,それが語彙においても文法においてもヨーロッパの言語とは大きく異なっていることを明らかにしました。そしてその言語を用いている人びとがヨーロッパ系のことばを用いている人びとと異なった方法で周囲の環境を認識し,理解していることを指摘しました。ウォーフは次のように理論づけています。「われわれは言語に与えられている基本的方向にそって現実を切り取る。(中略)他方,多様な印象の形で現われる世界は,われわれの心によって組織されるが,それは,とりもなおさず,われわれの心の中にある言語体系によって組織されることを意味している」(Whorlf, 1956天野[訳], 1991より)。たとえば英語ならば水はwaterの1語ですが、ホビー語という部族の言語では滝や海,湖などの水(運動している水)とコップやびんなどに入っている水(静止している水)は2つの別な語によって表現されるということです。ことばが1つしかないということは,そのものの概念は日常それ以上の分節化を必要としないということですが,別のことばで表わされるとすれば,それらのものが日常区別されて認識されていることを示しています。まさにことばによって現実が切り取られているわけです。(以上)

 

拡大解釈になりますが、南無阿弥陀仏のよって阿弥陀仏の願いに開かれている人と、そうでない人とでは、その人のみている世界は違うともいえます。

阿弥陀仏の願いを説いた『無量寿経』下巻(現土証誠)に、釈尊が阿難尊者に、身を整え合掌恭敬して無量寿仏を礼拝せよと告げられ、阿難尊者は、五体投地して無量寿仏を礼し「世尊、願わくはかの仏・安楽国土、およびもろもろの菩薩・声聞の大衆をみたてまつらん」と。そのとき無量寿仏が大光明を放って一切諸仏の世界を照らしたまう。とあります。阿難尊者のうえに阿弥陀仏の光明に照らされている世界が開かれていったとあります。

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事前焼香

2022年11月26日 | セレモニー

昨(2022.11.25)『産経新聞』にーコロナで簡略化、「お悔やみ欄」分析―という記事が掲載されていました。以下、転載。

 

 日本が新型コロナウイルス禍に入ってから、間もなく3年。葬送の在り方を調査する干葉大大学院人文科学研究院の特別研究員、金沢佳子さんによると、各地の葬儀場家族葬が急増し、一般の会葬者には直前に焼香してもらう「事前焼香」が定着したという。「コロナ禍で葬儀の個人化・簡略化が加速し地域社会に浸透した」と分析する。

 

 金沢さんは家族社会学の観点から平成19年以降、全国各地の新聞社が地元の葬儀情報を無料で掲載する「お悔やみ欄」を調査。各紙の担当者や葬儀社への聞き取りも重ねてきた。

 その結果、コロナ第1波の令和2年4月以降、東北から九州の複数の地元紙に事前焼香が登場していることが分かった。今年8月までの傾向を詳しく分析したところ、家族葬の直前に近親者以外の人向けに焼香する時間帯が設定され、新たな弔問方式として普及。「3密」を避けるため、葬儀会場の入り囗に置かれた遺影や香炉に、合掌して帰ってもらうスタイルが主流になっていた。

 2年5月に初登場 例えば2年5月の信濃毎日新聞(長野県)。同県中部で亡くなった80代の人の悔やみ情報で、家族葬の「事前焼香」の形式を取り入れた会場。手前の遺影や香炉は、近親者以外の参列者向けに用意された。奥には祭壇が見えるお知らせと共に「弔問受け付けは午前11時半」と、事前焼香の案内が初めて登場。その4ヵ月後には県中部のお悔やみ欄で、そうした告知が大幅に増え今年8月には大部分に。山形新聞や佐賀新聞などでも似た傾向が見て取れたという。

 金沢さんは「事前焼香には“三方良し”の利点があった」と話す。「喪家は密は避けたいが、香典は受け取りたい。義理で参列する人は、さっと帰りやすくなる。葬儀社にとっては、家族葬だけで済ます場合よりは広い会場や人手のニーズが増えるため、都合がいい」

 

旧習から抜け出す

 各地で急速に浸透した背景については「従来の一般葬は、得てして義理で大勢の人が参列し、長時間に及びがちだった。お悔やみ欄の喪主たちはコロナ禍を好機として、旧習や世間体から巧みに抜け出している」。

 とはいえ「閉じた葬儀」の広がりに懸念もあると金沢さん。「友人など一般参列者の中には、焼香だけでるのは寂しく割り切れないと感じる人もいる。亡くなった人への思いが深い一般参列者の気持ちに、どこまで寄り添うかは、個々の遺族の対応次第だろう」

 こうした地域社会における葬送の変容について、名古屋学院大の玉川貴子准教授(社会学)は「都市部を心に、葬儀はせずに火葬だけで済ませる直葬が広がってきたが、儀礼を重視する地方では、事前焼香という形で葬儀が維持されている。ただ、その形式も人口減少で維持しにくくなり、儀礼の個人化は進展していくだろう」と指摘する。

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