『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(田中俊之著著)、
誤解された草食系男子
やさしい、真面目、細かいことに気がつける系男子とは、要するに草食系男子です。
今では誤解が積み重なり、消極的な男子を揶揄する言葉として定石してしまった観があるので、ちょっと回りくどい表現をしていました。
本来、草食系男子は褒め言葉です。コラムニストの深澤真紀さんが命名しています。
深澤さんが執筆した『平成男子図鑑-リスペクト男子としらふ男子』では、草食系男子だけではなく多様な男子の姿が描かれています。この本の狙いは、現代の若者を肯定的に描き、若い男性の行動率価値観の変化を年長世代に理解してもらうことでした。
そして草食系男子についての議論を深めたのが、哲学者の森岡正博さんです。森岡さんは『草食系男子の恋愛学』の中で、草食系に男子だった自身の過去の経験に基づきながら、劣等感とのつき合い方を教えてくれています。単に世代間の相互理解というだけではなく、おとなしく物静かな男の子が自分を肯定するためにも、草食系男子という言葉は大切にする必要があるのです。
近年、若者を叩く言葉はいくらでもあるのに、褒める言葉が全く登場していない状況が続いています。若者を批判することでしか、大人たちが自尊心を保てなくなっているのです。深澤さんや森岡さんが男子たちの変化を丁寧に論じていたのに、草食系男子もそうした波に飲み込まれてしまいました。
いかにして草食系男子が否定されていったのかに関して、1つ例を挙げてみます。
『an・an』(2010年11月10日号)では、「サヨナラ草食男子!」という特集が組まれています。なぜ女子は草食系男子とサヨナラしなければならないのか。その言い分に耳を傾けてみましょう。
争いが嫌いで傷つくことは避ける。とにかく受け身な草食屶子は心の内を見せない難敵。一緒にあるとラクだったはずの彼との関係にまるで不可解なものになり、悶々とする女子がかちまたには溢れています。
『an・an』(2010年11月10日号)
まず、草食系男子という言葉が使われ始めた当初には、女子といい関係を築ける可能性に期待が集まっていたことがうかがえます。好みには多様性があるのでもちろん全員とはいいませんが、乱暴、不真面目、大雑把系男子よりも、やさしい、真面目、細かいことに気がつける系に男子と相性のいい女子は大勢いるはずです。
しかし、男子が受け身では困るとお怒りのようです。ここでもまた本書ではお馴染みの「男性はリードする側/女性はリードされる側」という図式がくり返されています。
(以上)