仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

悪魔の辞典(新編)

2024年08月31日 | 日記
『悪魔の辞典(新編)』 (岩波文庫・1997/1/16・アンブローズ・ビアス著),
''1911年に発刊された本書は、容赦ない毒舌ジャーナリストにして、米文学史上もっとも有名な失踪事件でも知られる著者による辞書パロディ本です。以下抜粋です。

 安心  隣人が不安を覚えているさまを眺めることから生ずる心の状態。

祈願する  取るに足らない存在、と自ら認めているたった(人の嘆願者のために、宇宙の全法則が廃棄されることを願う。

幸福 他人の不幸を眺めることから生ずる気持のよい感覚。
好み  一つのものが他の一つのものよりも優っているという、誤った信念から生ずる感情、もしくは気分。

自尊 (沼弓詬芯の日り・) 誤った評価。

信仰 (「巴弖り・」 類例のない物事について、知りもしないくせに語る者の言うことを、証拠がないにもかかわらず正しいと信ずること。

聖職者  自分は天国に至る道のインコースを走っている者であると主張し、かつその道を通る者に通行料を課したいと思っている紳士。

憎悪  十分に理解できないものを非とする度合はいろいろとあるが、そのうちの一つ。

罪の意識  無分別なことをしでかしてしまったことを、世間に知られている者の心の状態。自分の行為の跡を隠しおおせた者の気持とは区別される。

平和  国際関係について、二つの戦争の期間の間に介在するだまし合いの時期を指して言う。

無宗教  世界じゅうの偉大な信仰の中で最も重妾な信仰
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生きづらさの民俗学⑤

2024年08月30日 | 現代の病理
『生きづらさの民俗学――日常の中の差別・排除を捉える』(2023/11/4・及川祥平編集, 著,川松あかり編集, 著,辻元侑生編集, 著)からの転載です。


好井が構想する「排除と差別の社会学」が目指すのは、加害者と被加害者を明確に分けて「告発」を試みるものとは少し異なる。彼が提案するのはむしろ、誰からも告発されなくても、自分の中に宿る差別する可能性を、自分で意識化することである。同書の中で好井は、たとえばバラエティ番組やニュースなどでわたしたちが日常的に触れ、“普通”だと考えている物物事や知識には、すでに差別を成りたたせる過剰な決めつけや歪められた思い込みが仕組まれていると述べる。わたしたちの多くは“普通”でありたいと思うものである。だから、わたしたちが“普通”であろうと日々身に付けつくり上げていく知識もまた、差別する可能性をはらんだものになってしまうというのである。
 だが、“普通であること”がすでに差別する可能性を含んでいるとは、どういうことだろうか。これについて、歴史学の視点から「生きづらさ」について論じてきた松沢裕作の論義からさらに考えてみよう。松沢はその名も『生きづらい明治社会』という本で、民衆思想史で有名な安丸良夫が提唱した「通俗道徳」という言葉を用いて議論を展開している。「通俗道徳」とは、「人が貧困に陥るのは、その人の努力がたりないからだ、という考え方」のことである。逆に言えば、わたしたちが勤勉に働き、倹約して貯蓄し、親孝行するという、誰もが普通に「良いこと」だと感じるようなことをしていれば、お金に困ることもないし家族円満になるはずだ、というわけだ。そして、実際にある程度まで人は努力すれば富や権力を得ることができるため、この主張を真っ向から否定することは難しいのだという。
 しかし、松沢によればこれは「わな」である。現実には、いくら真面目に努力しても人は何かの拍子に貧困に陥ったり、貯蓄するほどの収人が得られなかったりするものだ。そもそも、競争社会の中で経済的な勝行となることは容易ではない。ところが、「通俗道徳」にはまり込んでいた明治時代の人びとは、貧困な人がいればそれはその人の努力が足りなかったからだ、当人が悪いのだ、と考えた。このように、政争への敗行や「辿俗道徳」からの脱落者に冷たかった明治社会は、「生きづらい」社会だったというのである。
 「通俗道徳のわな」にかかっていたのは、明治時代の人たちだけだろうか、松沢はそうではないという。現代社会にも、「努力すれば成功する」「競争の勝者は優れている」という「通俗道徳」的な思考法がはびこっている。この「通俗」すなわち、普通゛を当たり前に受けしにめることこそが、わたしたちを「生きづらさ」へといざなうのである。
 柳田國男は、人びとの平凡な幸福への願いの切実さを説き、“普通”な幸福が人びとに訪れることを願っていたかもしれない。だが、その幸福イメージはすでに「通俗道徳のわな」にとらわれていた。わたしたちは「通俗道徳」にしたがって正しくあろうとし、それによって謙虚にも、“平凡”で“普通”な幸福をつかみたいと願う。好井の議論に戻れば、そのとき、同時にわたしたちは“普通””から排除される他者を差別する可能性をはらむ。そしてまた松沢の言うように、容易には“普通”を手にできないわたしたち自身もまた、自己自身によって差別され、「生きづらさ」を感じるのである。
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生きづらさの民俗学④

2024年08月29日 | 現代の病理
『生きづらさの民俗学――日常の中の差別・排除を捉える』(2023/11/4・及川祥平編集, 著,川松あかり編集, 著,辻元侑生編集, 著)からの転載です。

〈わたし〉自身の「生きづらさ」を認めることは、〈わかし〉の弱さや負けを認めることでも、〈わかし〉の生きづらさを他の誰かのせいにすることでもなく、〈わたし〉自身が身につけさせられてきた“普通”が<わたし>と同時に<わたし>以外の様々に異なる「生きづらさ」を抱えた人びとを疎外する可能性に気が付くことである。そしてそのとき、〈わたし〉の「生きづらさ」は、たくさんの他者とつながっていく結び目となりうるのである。
 〈わたし〉の「生きづらさ」やあの人の「生きづらさ」の背景に何かあるのか。その背景にある構造的な問題や、わたしたちの中に染みついた“普通”や当たり前、良いものや悪いものへの感性によって、最も苛烈に生きることを脅かされているのは誰だろうか。そのように考えていくことができれば、「生きづらさ」は、差別や排除をめぐる問題を、〈わたし〉自身の主観的な感覚から問い始めながら、社会問題への責任ある認識と応答につないでいく、足掛かりになるのである。
 本書は、多様な人びとが被る「生きづらさ」と「差別」について紹介していく。それが読行のみなさんにとって<わたし>自身の「生きづらさ」を認め、〈わたし〉自身が他行にもたらす「生きづらさ」を自覚して、それらを多様な人びとと共有したり、一緒になって収り除いたり、息や苦しさから解放されたりする助けになることを願っている。
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現代社会をめぐる状況

2024年08月28日 | 現代の病理
「令和6年版 厚生労働白書 (令和 5 年度厚生労働行政年次報告) 厚生労働 省 ―こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に―」が公表されました。

大部の情報量ですが、「現代社会」の部分のみ転載します。

現代社会をめぐる状況

ここまで、ライフステージごとにみられるストレス要因について整理してきたが、本項 では、デジタル化の進展、これらに伴う孤独・孤立の深刻化など現代社会に特徴的な側面 や、近年社会的関心の高まりがみられる事象について、こころの健康に対するリスクとい う観点から取り上げる。

(1) 急速なデジタル化の進展とSNSの利用拡大 (デジタル化の進展により私たちの生活様式は大きく様変わりした) デジタル化の進展やネットワークの高度化、スマートフォンなどのIoT関連機器の小型 化・低コスト化により、私たちの生活様式は大きく様変わりした。総務省「通信利用動向 調査」によると、モバイル端末の世帯保有率は9割を超え、なかでもスマートフォンの普 及が進んでおり、2019(令和元)年には8割以上の世帯が保有している。 デジタル技術の進展により、自分に合ったスタイルでデジタル機器やサービスを利用す ることが可能になり、従来不便であったことが快適になった、できないと諦めていたこと が実現した、といった驚きや感動に遭遇する場面も、日常生活のなかで決して少なくない だろう。 (ほぼすべての年齢層で、SNSを利用した個人の割合は増加している) 総務省「通信利用動向調査」によると、2022(令和4)年にSNSと呼ばれるソーシャ ルネットワーキングサービス(例:Facebook、LINE、Instagram、X(旧Twitter)等) を利用した個人の割合*23は、前年と比較して、ほぼすべての年齢層で増加しており、特 に利用率の低かった6~12歳と70歳以上の伸び率がやや大きい(図表1-1-32)。 80歳以上でも、インターネット利用者のうち2人に1人がSNSを利用しており、あら ゆる年齢層に浸透してきていることが改めて確認できる。


他方で、デジタル庁が実施したアンケート調査*24によると、社会のデジタル化を良い と考えている人は全体の半数をわずかに下回っており、急速なデジタル化にとまどいを覚 える人も少なくないことが分かる。その背景には様々な要因があると考えられるが、ひと つの行為や発言に対してインターネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われる、いわゆる 炎上といった現象を目にしたり、経験することもそのひとつと考えられる。また、イン ターネット上に溢れる膨大な情報に惑わされたり、結果として違法・有害な情報に騙され たりする経験も、私たちの日常生活のなかでは決して少なくないだろう。 こうしたデジタル化の進展に伴うこころの健康リスクに関し、インターネット上の誹謗 中傷や違法薬物の広まり等について後ほど詳しく取り上げる。

(2) 孤独・孤立をめぐる状況 (暮らしを支える地縁・血縁といった「つながり」は、希薄化の一途をたどってきた) ここまで概観してきたとおり、単独世帯の増加、デジタル化の進展といった社会環境の 劇的な変化が進み、暮らしを支える地縁・血縁といった人と人との関係性や「つながり」 は希薄化の一途をたどってきた。また、グローバリゼーションが進むなかで、それまで定 着していたいわゆる終身雇用、年功賃金や新卒一括採用等といった日本型雇用慣行が変化 し、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者といった非正規雇用労働者が増加 するなど、雇用環境が大きく変化してきた。 *24 デジタル行政サービスに対する意識調査(2023年7月)。「良いと考えている」は「非常に良いと思う」または「まあ良いと思う」 と回答した人。 38 令和6年版 厚生労働白書 第 1 章こころの健康を取り巻く環境とその現状 厚労2024_1-01.indd 38 2024/08/06 14:30:13 このような家族や地域社会、雇用をめぐる環境の変化は、家庭内・地域内・職場内にお いて人々が関わり合いを持つことによって問題を共有しつつ相互に支え合う機会の減少を もたらし、人々が「生きづらさ」や孤独・孤立を感じざるをえない状況を生む社会へと変 化してきたと考えられる。 こうした状況は、たとえば、国連の「世界幸福度報告」において、近年、我が国の社会 的支援(困った時にいつでも頼れる友人や親戚はいるか)など「社会関係資本(ソーシャ ルキャピタル)」に関連する指標が、G7各国のなかで下位グループに位置していること 等にも表れているといえよう。 孤独の状況について、内閣官房が2023(令和5)年に行った調査*25によると、孤独感 が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は 4.8%、「時々ある」が14.8%、「た まにある」が 19.7%となっている。一方、孤独感が「ほとんどない」と回答した人の割 合は 41.4%、「決してない」が 17.9%となっている(図表1-1-33)。 2021(令和3)年と比較すると、「決してない」の割合が縮小し、「たまにある」及び 「ほとんどない」の割合が拡大している。 図表1-1-33 孤独の状況(直接質問)(令和5年、令和4年、令和3年) 資料:内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査(令和5年)」 (すべての世代で一定割合の人が孤独を感じている) また、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は、男性が5.3%、女 性が4.2%となっている。さらに年齢階級別にみると、その割合が最も高いのは、男性は 30歳代で9.0%、女性は20歳代で8.7%となっているが、すべての世代で一定割合の人 が孤独を感じており、孤独・孤立は、人生のあらゆる段階において何人にも生じうるもの であるという認識が必要である(図表1-1-34)。


また、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は、男性が5.3%、女 性が4.2%となっている。さらに年齢階級別にみると、その割合が最も高いのは、男性は 30歳代で9.0%、女性は20歳代で8.7%となっているが、すべての世代で一定割合の人 が孤独を感じており、孤独・孤立は、人生のあらゆる段階において何人にも生じうるもの であるという認識が必要である(図表1-1-34)。 *25 人々のつながりに関する基礎調査。この調査では、孤独という主観的な感情をより的確に把握するため、直接質問と間接質問の2種 類の質問により孤独感を把握している。直接質問は、「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」という質問である。 間接質問は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のラッセルが考案した「UCLA孤独感尺度」の日本語版の3項目短縮版に基 づくもので、設問に「孤独」という言葉を使用せずに孤独感を把握するもの。以下の分析は直接質問の結果を用いて行うこととする。 令和6年版 厚生労働白書 39 第1部 こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に 第 1 章こころの健康を取り巻く環境とその現状 厚労2024_1-01.indd 39 2024/08/06 14:30:13 図表1-1-34 男女、年齢階級別孤独感(直接質問) 資料:内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査(令和5年)」 (心身の重大なトラブルのほか、他者とのつながりも孤独感に大きな影響を与えている) さらに、孤独感が「しばしばある・常にある」、「時々ある」または「たまにある」と回 答した人と、「決してない」または「ほとんどない」と回答した人とで、現在の孤独感に 影響を与えたと思う出来事の回答割合の差をみると、「心身の重大なトラブル(病気・怪 我等)」が最も大きく、次いで、「一人暮らし」、「人間関係による重大なトラブル(いじ め・ハラスメント等を含む)」、「家族との死別」などの回答割合の差が大きくなっている (図表1-1-35)。 40 令和6年版 厚生労働白書 第 1 章こころの健康を取り巻く環境とその現状 厚労2024_1-01.indd 40 2024/08/06 14:30:13 図表1-1-35 孤独感(直接質問/2区分)別孤独感に影響を与えたと思う出来事(複数回答) 資料:内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査(令和5年)」 以上の結果から示唆されることは、孤独・孤立の状態は社会との関係のなかで生まれる 「関係性の貧困」ともいえるものである。こうした状態は、当事者にとって「痛み」や 「辛さ」を伴うものであり、心身の健康への深刻な影響なども懸念されており、孤独・孤 立は命に関わる問題であるとの認識が必要である*26。 (3) 新型コロナウイルス感染症の影響 (新型コロナの最初の1年間で、不安とうつ病の有病率が、世界全体で25%増加した) 2020(令和2)年1月に国内で最初の感染者が確認された新型コロナウイルス感染症 (以下「新型コロナ」という。)は、人々のこころの健康にも大きな影響を与えた。世界保 健機関(WHO)の報告書*27によると、新型コロナが流行した最初の1年間で、不安と *26 「孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画」(令和6年6月11日孤独・孤立対策推進本部決定)Ⅱ-2-(1)を参照。 *27 WHO,“Mental Health and COVID-19: Early evidence of the pandemic’s impact: Scientific brief”、 2 March 2022.併せ て、同日付けのWHO News Release “COVID-19 pandemic triggers 25% increase in prevalence of anxiety and depression worldwide”も参照。 令和6年版 厚生労働白書 41 第1部 こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に 第 1 章こころの健康を取り巻く環境とその現状 厚労2024_1-01.indd 41 2024/08/06 14:30:14 うつ病の有病率が、世界全体で25%もの大幅な増加を示した。同報告書では、包括的な 調査の結果から、新型コロナの蔓延はとりわけ若者のメンタルヘルスに影響を与えてお り、自殺や自傷行為のリスクが高まったことにも言及されている。また、女性は男性に比 べてより深刻な影響を受けており、さらに、喘息やがん、心臓病などの身体的既往症があ る人ほど精神障害の症状を患いやすいことも示唆された。 2022(令和4)年10月に我が国で行われた調査*28によると、新型コロナの流行前 (2019(令和元)年12月以前)と調査時とを比べて、「環境の変化による不安やストレ ス」や「学生生活、進路、就職活動についての不安やストレス」が増加したと答えた 人*29が、約半数を占めた(図表1-1-36)。 この点は、新型コロナの流行がとりわけ若者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしたとす るWHO調査の結果と同様の傾向がみられたと考えられる。 また、別の調査*30によれば、新型コロナの流行下で高校生や大学生等が抱えた将来の 社会生活に対する不安については、「コミュニケーションスキルが身につかないのではな いか」といった集団生活で得られる経験の喪失に関連する不安の割合が高く、また、近い 将来の進学や就職への不安として、「進学先や就職先で評価されないのではないか」、「受 験や就職活動で苦労するのではないか」といった回答の割合が高かったことが報告されて おり、行動制限に伴う周囲との交流や学習機会の喪失が、若者の不安やストレスの背景に あると考えられる。
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生きづらさの民俗学②

2024年08月27日 | 現代の病理
『生きづらさの民俗学――日常の中の差別・排除を捉える』(2023/11/4・及川祥平編集, 著,川松あかり編集, 著,辻元侑生編集, 著)からの転載です。

「現代の病理のデパート」という雨宮とその周囲の若者たちの人生史からも見えてくるように、2000年代後の「生きづらさ」をめぐる著名人の議論は、戦後日本の経済成長とその後の不況を背景として、生きることへの精神的・社会的困難を抱える人びとを次々に発見し、それらに様々な名づけてきた。いじめ、受験競争からの敗北、アダルトチルドレン、毒親、不登校、ひきこもり、自殺、非正規雇用やフリーター・ニード、そしてパラサイトシングルや高齢者の孤独死まで……。今日では、子どもがけ親の胎内に宿った瞬問から高齢者が亡くなるまで、人生の過程をどこで切り取っても「生きづらさ」を指摘することができる。「生きづらさ」とは、ポスト産柴社会、新自由主義的な社会の中で起きている人びとの経済的・政治的であると同時に極めて精神的な問題を照射するのだ。

「生きづらさ」と「差別」

 以上のような性質を持つ現代社会の「生きづらさ」について言及する際、社会学者の草柳千草が『「曖味な生きづらさ」と社会』という書籍で論じたように、それは実のところ「生きづらさ」を感じる個人の問題なのか、それとも「生きづらさ」を感じさせる社会の問題なのか、ということが問われることになる。それはいわば、「生きづらさ」が病理化される過程と、社会問題化される過程と言えるだろう。
 草柳は、「生きづらさ」をうまく「社会問題」として語ることができるようになると、それをこれまで「差別」や「暴力」という言葉で議論されてきた問題に接続することができるようになるという。たとえば、「生きづらさ」に関する議論でよく登場するのは、非正規労働者である。高皮経済成長期以降、日本やの企業社会が築かれていくなかで、家庭を任された女性たちが非正規労働部門を袒うようになった。内閣府の男女共同参画局の統計では、2020年において屶性の非正規雇用労働者が22・2%なのに対し、女性は54・4%だ。これが今日でも女性の社会進出が遅れているとされる日本の男女の処遇上の差別という社会問題だということに、多くの人が賛成するだろう。だから、今日のように「女性管理職を増やせ」とか「男性の産休・育休制度の収得を促進せよ」などといった議論が、政府や経営者、マスコミ等も巻き込んで進展することになる。「生きづらさ」は、その背景をしっかりと見つめることで、不当な社会的差別として告発することが叮能になるのである。
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