NICO Touches the Walls「HUMANIA」全曲レビューその9「demon(is there?)」です。
9.demon (is there?)
このアルバムの実質的なクライマックスにあたるナンバー。それぞれの楽曲で
それぞれの人間模様を描いた後に繰り出される壮大なスケールのロッカバラード。
その堂々とした佇まいや、ライブでの感極まったような激しくも情熱溢れるステージング等
どの角度から聴いてもこれは名曲だ、と言い切れるレベルの楽曲であると思う。
ただ、音源で聴いても素晴らしい楽曲なんですけど
実際にこの曲を生で聴いた時鳥肌が立つ程度の衝撃が個人的にあったのも含まれるので
恐らくこの曲をライブで聴く前と後では何気に思い入れは違うかもしれません。
それでも、何もかもを諦めそうになっても
誰かにこの世界から自分を連れ去ってくれと願いそうになっても
それでもまた人を信じて歩き出そうとする人間の歌・・・って事で
グッと来る要素は最大限に感じられる一曲、
これまでのバラードの中でも他の曲とは一線を画す仕上がりにはなってると思います。傑作です。
タイトルに関して言えば、何かに対して絶望した時や誰かにそそのかされそうになった時
自分を信じれなくなった時や目の前の困難に対して「もういいや」って感情を持ちそうになった時
そんな自分にとって大切な何かを譲りそうになった瞬間の一言っていうか
意思を放棄しようと思ってしまった自分に対する問いかけですよね。
「デーモン、そこにいるのかい?」っていう。
それに対して、運命や世界の流れに対して、思い通りには、誰かの狙い通りにはならない
自分の足でもう一度この世界を歩いていく、信じていく覚悟を持たせる為の一曲。
信じれば裏切られ
頑張れば空回り、
そんな逆境に陥った時にこの曲、このタイトルをふと思い出して
「いやいや、負けるかよ」って自らを奮い立たせる、そんな聴き方も浮かんでくる
聴き手に託した意思がしっかり伝わってくるのが本当に大きな楽曲。
生で聴いて揺さぶられたのもあって、既に大好きな一曲。アンセムに近いバラッドだとも感じますね。
【生まれてきた僕らは 人の群れに転げ落ちて】
他者に対する劣等感や、何も出来ない自分への苛立ち、ずっと孤独という事実
太陽や月に対する憧れや嫉妬、出会っては別れての繰り返し
そこに残るものは何一つ無い
誰の群れからも外れて、ただ口惜しい気持ちで毎日をやり過ごすだけ
そんな日々の果てに一体残るものって何なんだろうか?っていうのがこの曲のテーマであり
それはこうやって言葉にすると大分シビアなものでもあると思うんですけど。
雑念や考えた果てに落ちていった底に佇むのが正にデーモンであり
諦めの象徴としても描かれていて、
諦める瞬間を、全てを投げ出す瞬間を待っている、それ即ち運命とも言えると思うんですけど。
そんな状況に対して、そっと【譲れない何かが きっとあるなあ】と歌ってるのがこの曲でもあり
何もかも失って半ばどうでもよくなったからこそ、本当に必要なものが残る
皮肉にも絶望の中で本当の自分の気持ちを知る、っていう。
【どんな深い傷を負ったって 諦めないのを知ってるから】
打ちのめされても、どうしようもない別れを繰り返しても
人間はそれでも歩く生き物であり
何だかんだ言っても本当に大切な物はまだ胸の中に残っていて、そのしぶとさは誰も半端じゃなくて
グチグチ言いつつも前に明日に進もうとするのは何かを諦めていない証拠でもあります。
その思いさえあれば、最低限の希望さえあれば。人はいつだって歩いていける。
人間は確かに脆くて繊細だけれど
その実何度打たれたって立ち上がれる、人間賛歌としても鳴ってる、歌われている曲でもあって。
最終的に明確な答えが出る訳じゃない、そんな問い掛けに対する答えなんてない
ただ、譲れないものの為に、愛するべき何かの為に
少しでも良い「今日」に近づく為に、傷を負いながら必死に歩いていくだけだ、という。
最終的に何が残るのか?っていう作中の問い掛けに対してはもう答えなんて実は出てるのかも
そうやって誰かを信じて自分を信じて歩いて辿り着いた先の景色
それこそが本当の答えにあたるのかもしれないですね。
どれだけがむしゃらに、必死に歩けたか、譲らなかったのか。その景色を見る為に生きるのも、悪くない。
この曲を聴いてると本当にちょこっとだけそんな風にも思えるのがとても不思議です。
何かに迷う度に、躓く度に、「demon(is there?)」
だけどまだあなたの出番じゃないよ、って。もう少しだけあがいてみるから、って。
そう言い返したくなること必至の「渾身」って形容が良く似合う本気印の人生賛歌だと感じました。
この曲にもらったものは現段階でもここまであるんですが
でも、これから先も要所要所で助けてもらいそうな、頼りにしちゃいそうな、そんな一曲ですね。
間奏の古村大介渾身のギターソロにも是非注目して聴いて欲しい楽曲です。