超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

NICO Touches the Walls「HUMANIA」全曲レビューその9「demon (is there?)」

2012-03-15 22:45:25 | 音楽(全曲レビュー)





NICO Touches the Walls「HUMANIA」全曲レビューその9「demon(is there?)」です。





9.demon (is there?)





このアルバムの実質的なクライマックスにあたるナンバー。それぞれの楽曲で
それぞれの人間模様を描いた後に繰り出される壮大なスケールのロッカバラード。
その堂々とした佇まいや、ライブでの感極まったような激しくも情熱溢れるステージング等
どの角度から聴いてもこれは名曲だ、と言い切れるレベルの楽曲であると思う。
ただ、音源で聴いても素晴らしい楽曲なんですけど
実際にこの曲を生で聴いた時鳥肌が立つ程度の衝撃が個人的にあったのも含まれるので
恐らくこの曲をライブで聴く前と後では何気に思い入れは違うかもしれません。
それでも、何もかもを諦めそうになっても
誰かにこの世界から自分を連れ去ってくれと願いそうになっても
それでもまた人を信じて歩き出そうとする人間の歌・・・って事で
グッと来る要素は最大限に感じられる一曲、
これまでのバラードの中でも他の曲とは一線を画す仕上がりにはなってると思います。傑作です。

タイトルに関して言えば、何かに対して絶望した時や誰かにそそのかされそうになった時
自分を信じれなくなった時や目の前の困難に対して「もういいや」って感情を持ちそうになった時
そんな自分にとって大切な何かを譲りそうになった瞬間の一言っていうか
意思を放棄しようと思ってしまった自分に対する問いかけですよね。
「デーモン、そこにいるのかい?」っていう。
それに対して、運命や世界の流れに対して、思い通りには、誰かの狙い通りにはならない
自分の足でもう一度この世界を歩いていく、信じていく覚悟を持たせる為の一曲。
信じれば裏切られ
頑張れば空回り、
そんな逆境に陥った時にこの曲、このタイトルをふと思い出して
「いやいや、負けるかよ」って自らを奮い立たせる、そんな聴き方も浮かんでくる
聴き手に託した意思がしっかり伝わってくるのが本当に大きな楽曲。
生で聴いて揺さぶられたのもあって、既に大好きな一曲。アンセムに近いバラッドだとも感じますね。





【生まれてきた僕らは 人の群れに転げ落ちて】

他者に対する劣等感や、何も出来ない自分への苛立ち、ずっと孤独という事実
太陽や月に対する憧れや嫉妬、出会っては別れての繰り返し
そこに残るものは何一つ無い
誰の群れからも外れて、ただ口惜しい気持ちで毎日をやり過ごすだけ
そんな日々の果てに一体残るものって何なんだろうか?っていうのがこの曲のテーマであり
それはこうやって言葉にすると大分シビアなものでもあると思うんですけど。
雑念や考えた果てに落ちていった底に佇むのが正にデーモンであり
諦めの象徴としても描かれていて、
諦める瞬間を、全てを投げ出す瞬間を待っている、それ即ち運命とも言えると思うんですけど。
そんな状況に対して、そっと【譲れない何かが きっとあるなあ】と歌ってるのがこの曲でもあり
何もかも失って半ばどうでもよくなったからこそ、本当に必要なものが残る
皮肉にも絶望の中で本当の自分の気持ちを知る、っていう。



【どんな深い傷を負ったって 諦めないのを知ってるから】

打ちのめされても、どうしようもない別れを繰り返しても
人間はそれでも歩く生き物であり
何だかんだ言っても本当に大切な物はまだ胸の中に残っていて、そのしぶとさは誰も半端じゃなくて
グチグチ言いつつも前に明日に進もうとするのは何かを諦めていない証拠でもあります。
その思いさえあれば、最低限の希望さえあれば。人はいつだって歩いていける。
人間は確かに脆くて繊細だけれど
その実何度打たれたって立ち上がれる、人間賛歌としても鳴ってる、歌われている曲でもあって。
最終的に明確な答えが出る訳じゃない、そんな問い掛けに対する答えなんてない
ただ、譲れないものの為に、愛するべき何かの為に
少しでも良い「今日」に近づく為に、傷を負いながら必死に歩いていくだけだ、という。

最終的に何が残るのか?っていう作中の問い掛けに対してはもう答えなんて実は出てるのかも
そうやって誰かを信じて自分を信じて歩いて辿り着いた先の景色
それこそが本当の答えにあたるのかもしれないですね。
どれだけがむしゃらに、必死に歩けたか、譲らなかったのか。その景色を見る為に生きるのも、悪くない。
この曲を聴いてると本当にちょこっとだけそんな風にも思えるのがとても不思議です。
何かに迷う度に、躓く度に、「demon(is there?)」
だけどまだあなたの出番じゃないよ、って。もう少しだけあがいてみるから、って。
そう言い返したくなること必至の「渾身」って形容が良く似合う本気印の人生賛歌だと感じました。






この曲にもらったものは現段階でもここまであるんですが
でも、これから先も要所要所で助けてもらいそうな、頼りにしちゃいそうな、そんな一曲ですね。
間奏の古村大介渾身のギターソロにも是非注目して聴いて欲しい楽曲です。




LOST IN TIMEのベスト盤を聴いて思ったこと② 「きのう~あした編」の新曲群

2012-03-15 00:00:48 | 音楽





LOST IN TIMEのベスト盤記事2発目、今度は新曲群に関してです。





普通のベスト盤だと新曲がおまけ程度に一曲~っていうのが殆ど
或いは全く無いベスト盤も多々ありますけど、このベスト盤はなんと新曲が5曲も入っている、っていう。
考えようによっては本当に半分くらいはオリジナルアルバムに近い作りになってるんですよね。
しかもネガティブな曲は「きのう編」、ポジティブな曲は「あした編」に入るっていう
そこまで?ってくらいの徹底っぷりにも脱帽です。

なんていうか、ここまで手の込んだベスト盤もあんまりないよなあ・・・っていうか
最近はぶっちゃけ名刺代わりとか入り口だとか、あくまで「オリジナルを聴いてもらう為のベスト」って
個人的にはそういうベスト盤が多いような気がしてるんです。
でもこのベスト盤は、本当に聴けば聴くほど他のベスト盤とは完全に趣が違う。
もう完璧にベスト盤単体できっちり楽しませようとしてる。事務的な要素が一切無くて
シングルでも抜きとか代表曲でも抜きにしてるのもオリジナルとの差別化だし
単なる寄せ集めではなく、ちゃんとこのベストならではのストーリーが詰まっていて・・・。
なんか聴けば聴くほど胸がいっぱいになるような盤ですよね。
おまけに評判の良い10年史も付いてるし、タワレコ特典で一時間のドキュメントDVDはあるしで
ここまで聴き手に対するサービス精神のあるベスト盤って改めて異例だなあ、って。
それもまた彼らなりの誠意なのかもしれないですね。

コンセプトの時点で「面白そう!」とは思ってたけど、ここまで夢中になれるベストだとは思わなかった。
これくらい丁寧なベスト盤がもっと増えれば個人的にはベストに対するイメージも変わるのでは?
とか感じてしまいますね。それをインディーズバンドがやってるんだから。凄い話ですよ。




■再会

一応2枚組の方だと「きのう編」が先に来るんですけど、
一曲目から随分と重い曲ですね(笑)。
思い出を振り返りに故郷の町に戻ってきたら元々の町の形が無くなっていて、
思い出せない事ばっかりで侘しい気持ちになったりして
そんな薄情な自分や、抜け落ちた記憶に対する懺悔の歌。今こうやって過ごしてる喜びも悲しみも
いつかは記憶から消え失せて全く無意味になるって意味合いの激しくもあるロックナンバー。
どことなく「約束」の続編のようなエッセンスも感じるけれど
ある種あの曲で歌われていた内容が本当だったんだ、って確認するような一曲でもあって
相応に悲しみは鳴っていて、感情的でもある一曲。感傷的でもあるんだけど
その分歌い手の衝動は十分に伝わる楽曲になってますね。
そして初期っぽくもある曲。


■グレープフルーツ

これまた後ろ向きな曲・・・感じた気持ちを押し殺して
全て自分の中だけで苦しみも悲しみも悔しさも解消せんと、
たった一人でもがいているような楽曲。

【きっと些細な事で あなたを壊してしまう気がして】

人間関係の難しさを知ってるからこそ、こういう歌詞が出てくるんでしょうね。
それ即ち、やっぱり経験っていうのは成長出来ると共に臆病にもさせるんだなあ、と
まざまざと痛感させられる曲です。何かを得てるけど、確実に擦り減ってもいるんですねっていう。

そして、この曲のアレンジは情感たっぷりで聴いてて本当に楽曲観に浸れますね。
浮遊感の中に良い具合に歌謡エッセンスが入ってて、正直新しさも感じる事が出来ました。


■あしたのおと

「あした編」の一曲目であしたって言葉が付いてる曲なので
それなりに前向きではあるんですけど
「それぞれの未来で」って歌詞は裏返せば、決して相容れない存在もあるんだって
そんな事実をはっきりと突きつけられてる様にも思える。
それもまた本音なんだろうけど
明るさや前向きさの中にどうしようもない現実も滲んでる、なんともロストらしい一曲です。
哀愁漂う絶妙なアレンジにもまたグッと来ます。


■バードコール

人間どうしても一人だと不安で、みんなと同じじゃないと不安で、どうしようもない気分になって
それでもその道を歩まんとする人間に向けた実直な応援歌。
こういう他者に向けた言葉を、歌を
素直に奏でられるようになったのもきっと10年経った今だからなんでしょうね。
後半になると過剰に演奏がアグレッシヴになるのでいつか生演奏でも味わってみたい曲。


■ぼくらの声の 帰る場所

この曲もまた今までにはなかった多少複雑に聴こえるアレンジなんですけど
実直に「君を待ってるよ」といなくなってしまった誰かに呼びかける声
未完のまま終わった想いを引き摺る惨めさ、
だけどそんな中でも好転を信じて頑張って生きる力強さがさりげなく光っている楽曲。
どんなに悲しい時でも苦しい時でも胸の中にはメロディが流れていて
そんな音楽に対する絶対的な信頼も伝わってくるような・・・。
決して楽観的な明るさは持ち合わせてはいないけど
ネガティブでも、精神的に暗くても、前を向く事は出来るんだっていう
ここ数年のロストのテーマ性が如実に反映されてる正に今現在最先端の記録が鳴っています。
「グレープフルーツ」も「あしたのおと」もそうですけど
以前よりも単純にアレンジメント能力が、表現力がグッと向上したなあ、って感じられるので
その観点からしてもこれから先を彷彿させるような新曲が入ってるのは嬉しいですね。
ここまで前向きな姿勢で出されるベスト盤も中々ない、って
改めてちょっと記述して置きます。





新曲が5曲も入ってると、ベスト盤なのに半分新譜を買うような楽しさもあったりして(笑)。
しかもそのどれもが良い曲揃いって事でめちゃめちゃ満足感はありましたね。
既にライブで聴いてた曲も何曲かあったけど
ライブとは違ってアレンジが凝ってるから初聴きレベルに新鮮に聴けたのも良かった。
そういう訳で、充実度が伺える新曲群に関しての記事でした。
次は、2枚組みに付属してる大岡源一郎による10年史に関して少し触れたいと思います。では、また。